乱れ始めるシナリオ
「ついにここまで来たんだね」
眼鏡をかけた細心の少年、リック・ルートスはつぶやいた。
青いローブをまとい、魔術の書物を持った彼は、このダンジョン最深部にある門に到達した実感を噛みしめていた。
この中には、全世界への魔物による侵攻を行った黒幕である邪神がいるはずだった。43もあり党は不可能と言われたダンジョンを歴史上初めて彼らのパーティー最奥まで到達した。
「ああ、そうだな。だが喜ぶのはすべてが終わってからだ。中にいる邪神はこれまで戦ってきた相手の誰よりも強い」
リックの体を覆い隠せるほどの巨大な大剣を構えて扉を睨むのは、ガーランド男爵家の長男ルーカス・ガーランド。
鍛え抜かれた鋼の肉体を持ち、先陣を駆るために、一番前に立っていた。
「確かにルーカスの言っていることはもっともだよ。でもねー、ここまでよくやったなって自分のことを少しぐらい褒めても、別にいいんじゃない?」
まるで女性かと見間違うような顔を持つ小柄の美少年、ラン・バーナムは言う。
朗らかとした笑顔をしているが、実はアサシンのスキルを持つ殺しの達人だった。
おちゃらけた態度だが、その言葉には仲間たちの仲を取り持とうとしている優しさがあった。
本来は王子を陰から守る護衛であり爵位を持たない彼が気軽にパーティーの面々と会話できるのは、ここまでで強い絆を築いていたからだった。
「リナは体の具合は大丈夫か?」
ラルク王国第一王子のマルク・ラーグレイは隣に座る少女へ話しかける。
その装いは薄暗いダンジョンの中でもはっきりと見える金色色が基調だった。
王家に代々受け継がれてきた秘宝である金色の鎧と、最高神である創造神から賜った黄金の聖剣を装備していた。
輝く出で立ちで魔物の大軍を薙ぎ払う姿は人々の希望となり、『光の王子』と人々から呼ばれていた。
「ええ、大丈夫です」
王子の言葉に答えたのは、亜麻色の髪を持つ修道服を着た少女。
伯爵家令嬢であり、癒しの力を持つ彼女は、誰もが見とれる笑顔で応じた。
「あ、ずるーい。王子だけリナに話しかけてるー」
「おい王子様よ。パーティーのリーダーがそんな調子でどうする」
「ははは。本当に抜け目ないね王子は」
それぞれのリアクションで王子を非難する3人。
彼らは人類の危機に対しては一丸と戦う戦友だが、恋においては、まさしくライバルだった。
「……ちっ。貴様たちは王子の私に対してなんだその態度は?」
「仲間通しの団結のために堅苦しい態度はやめろって言ったのは王子でしょ?」
舌打ちをした王子に対して、笑いながら言い返すラン。
「そうだぜ。それにセーラを愛しているのは王子だけでじゃない」
硬派な見た目のルーカスだったが、思い人に対しては積極的だった。
「うん、こればかりは譲れないな」
見た目は弱気な少年のリックも、はっきりとした声で意思を証明していた。
「あ、あの、皆さん喧嘩はやめてください」
自分をめぐる争いをいさめようと説得する。
「それじゃ、今言ってくれないかな。僕たちの中で誰が一番好きかって」
「お、いいじゃないリック。ナイスアイディア!」
「そうだな。これではっきりできる」
「私も賛成だ」
「ええーー!」
まさかの全員賛成で驚く。
「ごめんなさい。私は皆さんのこと本当に大事で、一人に決められるのが――」
問題を先延ばしにしようとしたリナが口を開いている途中、
『ねえ、さっさと終わらせてくれない』
扉の先、3つ首の竜の姿をした邪神のいる部屋から、居るはずのない女の声がした。
それは彼らには聞き覚えがあったはずだった。
だが――、
「おい、貴様ら。大事な話は邪神を倒してからにするべきだろう」
「あ、王子逃げるのーー。じゃあ、王子は脱落ね」
彼らは女の声には一切反応を示さず、話を進める。
「このままずっと選ぶことができないなら、いっそ皆――」
『くだらない話はやめてくれないかしら』
苛立たし気な女の声がした瞬間、扉が何らかの手段で破壊された。
次回から、強さのインフレーションがとんでもないことになると思います。




