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ちいさなおうさま  作者: 福島信夫(ふくしましのぶ)
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ちいさなおうさま20 ちいさなおうさま

 全部のお話に共通した違和感がありましたね。

「ねぇ。知ってる?」

「何?」

「ちいさなおうさまって」

「ちいさなおうさま?」

「そう。ちいさなおうさま」


 窓から見下ろすと路地の入口には警察官が立っています。

 白いヘルメットに黄色いジャンパー、手には白く長い棒を持っています。

 だらしなく片足に体重を預けて立っています。

 大通りに目を向けると、テレビカメラを担いでいる人やスーツ姿の人達が、一方向に向かって歩いて行くのが見えます。

「何だろうね」

「知らないよ」

 人の流れを目で追うと、向かいのビルの下にたくさんの人が集まっているのが見えます。

 その人集(ひとだか)りは全員こちらのビルを向いています。

 人集りの視線を辿ると、台の上に人がいます。

 程なくして大きな音が聞こえてきました。

「演説だね」

「演説だよ」

「すごい人の数だね」

「すごい人の数だよ」

「みんなスーツを着ているね」

「スーツじゃない人もいるよ」

「みんな真剣に話を聞いているね」

「みんな真剣に話を聞いているよ」

「目から鱗が落ちたように聞いているね」

「目から鱗が落ちる事なんてないんだよ」

「あれ?」

「なに?」

 路地の入口を見ると、人の往来があるのが見えます。

 路地の入口に隣接する銀行に、お客さんが入りました。

 利用する姿に普段と変わった所はありません。

 銀行のお客さんは用事が済むと、そのまま立ち去りました。

「おかしいね」

「おかしいよ」

「今日は平日だね」

「今日は平日だよ」

「今はお昼だね」

「今はお昼だよ」

「平日なのにスーツの人がたくさん集まるのっておかしいね」

「平日なのにこの大通りにこんなに人がいるのはおかしいよ」

「通りすがりの人は誰も足を止めないね」

「通りすがりの人は通り過ぎるだけだよ」

「みんなサクラなのかもね」

「みんなサクラなのかもよ」

「サクラを使ってまで当選したいのかね」

「サクラを使わないと当選しないかもよ」

「支持されてるように見せるんだね」

「支持されてるように見えるんだよ」

「選挙に興味が無くなるね」

「投票には行きたくないよ」

「政治は分からないね」

「政治は分からないよ」

「今、同じ国の人が苦しんでいるね」

「今、同じ国の人が苦しんでいるよ」

「でも、そんな事が無かったかのようにしているね」

「でも、そんな事は無かったって事にしたいんだよ」

「ああいう人はね」

「ああいう人だよ」

「ちいさなおうさまだね」

「ちいさなおうさまだよ」


 教卓側の入口に一番近い机を見ると、机を囲むように人が集まっています。

 席に座っている人は足を机の上に投げ出して、集まった人達と談笑しています。

「あんな人はLKだね」

「LKが分からないよ」

「ちいさなおうさまの略らしいね」

「リトルキングを略すと出来たよ」

「名前の頭文字を付けるらしいね」

「名前の頭文字を付けてみたいよ」

「頭文字がVだったらVLKらしいね」

「頭文字がVだったらめずらしいよ」

「これならあの人の事を話題に出しても分からないね」

「これならどんな人の事を話題に出してもバレないよ」

 LKと呼ばれた人はこちらに目を向けました。

 急いで目を逸らします。

「嫌だね。あの偉そうな態度」

「嫌だよ。あの偉そうな態度」

 LKと呼ばれた人は再び話の中心に戻りました。

 笑いながら人を叩いたりしています。

 叩かれた人も笑っています。

「少し周りより強いだけなのにね」

「常に誰かの上に立ちたいんだよ」

「合わせてもらってるのに気付いて無いね」

「ああいう人の多くは気付いて無いんだよ」

「ああしてちいさなおうこくを創ってるんだね」

「ああやってちいさな支配をしていたいんだよ」

「嫌だね」

「嫌だよ」

「そろそろ授業が始まるね」

「そろそろ休みが終わるよ」


「ガムは美味しいね」

「ガムは美味しいよ」

「ガムをあげるね」

「ガムが欲しいよ」

 駅のホームは同じ制服を着た生徒達でいっぱいです。

 電車の接近を知らせる自動音声が鳴ると、電車が勢いよく滑り込んで来ました。

 会社帰りの人や、買い物帰りの人、不審な人、学生達。

 いろんな人を乗せて電車は走り出します。

 立っている人もいるけれど、向かいに座る人が見える程度の混み具合です。

 同じ制服の生徒達が乗り込んだ途端に、静かだった車内が賑やかになりました。

「うるさいね」

「うるさいよ」

「静かにしてないといけないね」

「静かにしてないといけないよ」

 声だけでも賑やかな車内に、大きな電子音が鳴り出しました。

「あのゲームの音だね」

「あのゲームの音だよ」

 複数の電子音が鳴り始めました。

「うるさいね」

「うるさいよ」

 向かいの席に座る会社帰りの人を見ると、何も気にならない様子で携帯電話に目を落としています。

 その隣の人を見ると、その人はスマートフォンに目を落としています。

 そのまた隣の不審な人を見ると、黙ってこちらを見つめています。

 慌てて目を逸らしました。

 音が鳴る方を見ると、LKと呼ばれた人を中心に、数人がスマートフォンの画面に指を踊らせています。

「あいつらだね」

「あいつらだよ」

「うるさいね」

「うるさいよ」

「誰も注意しないんだね」

「誰も注意しないんだよ」

 車内を見回すと、不審な人以外はみんな下を向いています。

 その手には携帯電話かスマートフォンがあります。

「みんな何を見てるんだろうね」

「みんな何も見ていないんだよ」

「顔が肩から前に落ちたように見えるね」

「ストレートネックになっているんだよ」

「みんな同じ姿で気持ち悪いね」

「みんな同じ姿で気持ち悪いよ」

「ああはなりたくないね」

「ああはなりたくないよ」

 車掌さんが人を上手に避けながら歩いて来ました。

「LKを注意してほしいね」

「LKを注意してほしいよ」

 車掌さんはLKと呼ばれた人達の前を通り過ぎてこちらに近づいて来ました。

「注意しなかったね」

「注意しなかったよ」

「普通は注意するね」

「普通は注意するよ」

 不審な人が急に立ち上がり、車掌さんの前に立ちはだかりました。

 車掌さんは少し後ずさりしました。

 不審な人は手招きをして、車掌さんの耳を借りています。

 不審な人は耳打ちをしています。

 不審な人が座ると、車掌さんは来た方向へ戻り、LKと呼ばれた人達の前に立ちました。

 車掌さんはお辞儀を何度もしながら、親指と人差し指を近づけたり離したりしています。

 LKと呼ばれた人達は上目使いで車掌さんを睨みつけながらも、音が鳴らないように操作をしました。

 不審な人を見ると、またこちらを見ています。

 また、目を逸らしました。

「車掌さんが自分から注意しないなんてだめだね」

「車掌さんが自分から注意しないなんてだめだよ」

「まわりの人も見て見ぬふりだったね」

「まわりの人も見て見ぬふりだったよ」

「みんなLKなんだね」

「みんなLKなんだよ」

「ちいさなおうさまだね」

「ちいさなおうさまだよ」

 降りたホームにガムを吐き捨てました。

 潰れたガムが二つそこに残りました。


 ピカピカに磨かれた車が交差点に停まっています。

 その隣にも数台後ろにも、同じ種類の車が停まっています。

「すごいね! エコカーだね」

「すごいよ! エコカーだよ」

「いっぱいエコカーがあるね」

「いっぱいエコカーがいるよ」

「かっこいいね」

「かっこいいよ」

「大きな電池が入ってるらしいね」

「大きな電池が入ってるらしいよ」

 信号が変わって車が走り出しました。

 同じ種類の車が一台、駐車場に入って来ました。

 タイヤの音が聞こえるだけです。

「静かだね」

「静かだよ」

「目で見てないと動いてるか分からないね」

「耳で聞いてると動いてるか分からないよ」

 入ってきた車は駐車場の枠に車庫入れをしています。

「下手だね」

「下手だよ」

 何度も切り返しをしています。

「あ、やっと入れられたね」

「あ、だけど少し斜めだよ」

 恰幅(かっぷく)の良いおばさんが出てきました。

「ああ言う人がエコカーを買うのかもね」

「ああ言う人がエコカーを買うのかもよ」

「どう思って買うんだろうね」

「さあ。それはわからないよ」

「大きな電池を作ったり、廃棄する方が環境に良くないらしいね」

「年間での二酸化炭素を出す量を考えたら、環境に良いと思うよ」

「あのおばさんは、一年間にどのくらい乗るんだろうね」

「あのおばさんは、一年間にそんなに乗らないだろうよ」

「それなら、今までの車でも良いのかもね」

「だったら、今までの車でも良いだろうよ」

「ガソリン代は安くても、大きな電池が高いのにね」

「大きな電池は高くても、出る排気ガスは少ないよ」

「あまり乗らないなら大きな電池もすぐに悪くなるね」

「あまり乗らなくても大きな電池は大丈夫なのかもよ」

「買った事で環境に良い事をしたと思ってるんだね」

「買った事で環境に良い事をしているはずなんだよ」

「そうだね」

「そうだよ」

「どちらにしてもね」

「どちらもだろうよ」

「車に乗ればエコじゃないね」

「車に乗ればエコじゃないよ」

「それはね」

「そうだよ」

「ちいさなおうさまだね」

「ちいさなおうさまだよ」


「ねぇ。知ってる?」

「何?」

「ちいさなおうさまって」

「ちいさなおうさま?」

「そう。ちいさなおうさま」

「ああ。知っているよ」


 交差点の脇に周りの景色を無視したような大きなビルがあります。

 派手な装飾を施したビル。

 頂上には白い瓢箪のような物が立っています。

 学生を中心に、様々なグループがビルに吸い込まれていきます。

 西瓜(すいか)が入りそうな箱を持っている人もいます。

「ボウリングをやるんだろうね」

「ボウリングをやるんだろうよ」

「ここは十八歳未満は夕方までと書いてあるね」

「ここは十八歳未満は大人では無いんだろうよ」

「年齢って何だろうね」

「生きてきた時間だよ」

「しっかりした考えや行動が出来る子供っているね」

「しっかりした考えや行動が出来ない大人もいるよ」

「年齢はあまり関係無いだろうね」

「あまり関係ないかもしれないよ」

「なぜ人は死ぬんだろうね」

「それは寿命なんだろうよ」

「あそこのビルから飛び立ったのは若い人だったね」

「あそこのビルから飛び立ったのは若い人だったよ」

「それも寿命なんだね」

「それは分からないよ」

「若いのにね」

「関係無いよ」

「いじめられていたらしいね」

「それは誰も知らなかったよ」

「すごかったらしいね」

「どうかは知らないよ」

「職場の上の人も混ざっていじめていたらしいね」

「職場の上の人は混ざってないで止めるべきだよ」

「恥ずかしい思いもさせられたらしいね」

「いじめのやり方が子供と変わらないよ」

「いつかみんな大人になるね」

「いつかみんな大人になるよ」

「いじめられるかもしれないね」

「いじめられるかもしれないよ」

「その若い人はいじめが無ければ死ななかったんだろうね」

「その若い人がいなければ他の人を標的にしていたかもよ」

「じゃあいじめた人達は悪いよね」

「その人達は悪いかもしれないよ」

「いじめた人達もちいさなおうさまだね」

「いじめた人達もちいさなおうさまだよ」

「飛び立った人も、ちいさなおうさまかもしれないね」

「飛び立った人も、ちいさなおうさまかもしれないよ」

 

 大きなビルを通り過ぎようとすると、物音が聞こえてきました。

「何か聞こえるね」

「何か聞こえるよ」

 横を見るとコンクリートで出来た大きな駐車場が見上げる程の高さまであります。

 駐車場の奥から物音が聞こえてきます。

 奥には駐輪場がありました。

 死角になっていて、駐輪場の前まで来ないと自転車が置いてあるのが見えません。

 そこには一人の少年を囲むように、三人の学生服姿の人達が立っています。

 伸び縮みする黒い棒を持った一人が地面を叩く度に、少年は目を閉じながら震えています。

 この音が聞こえていたようです。

「カツアゲだね」

「カツアゲだよ」

「胸倉を掴んだね」

「下に降ろしたよ」

「財布を渡したね」

「財布を渡したよ」

「三人はいなくなったね」

「三人はいなくなったよ」

「あの子は泣いてるね」

「あの子は泣いてるよ」

「あの三人はちいさなおうさまだね」

「あの三人はちいさなおうさまだよ」

「どうしてちいさなおうさまになってしまうんだろうね」

「生まれた時からちいさなおうさまなのかもしれないよ」

「でも、ほとんどの人は祝福されて生まれてくるはずだね」

「うん、ほとんどの人は祝福されて生まれてくるはずだよ」

「いつ頃から忌避きひされるようになってしまうのかね」

「気が付くと忌避されるようになってるんだろうよ」

「気が付きもしないんだよね」

「気が付きもしないものだよ」

「だからちいさなおうさまなんだね」

「だからちいさなおうさまなんだよ」


「ねぇ。知ってるよね」

「うん。知っているよ」

「あれはちいさなおうさまだね」

「それもちいさなおうさまだよ」

「そう。ちいさなおうさまだね」

「ああ。ちいさなおうさまだよ」


「ちいさなおうさまって言うお話を知ってるよね」

「周りにちいさなおうさまが多いから知ってるよ」

「どうしてあのお話に出てくる人達は名前無いんだろうね」

「あんまり名前を考える余裕が無かったのかもしれないよ」

「お話を書く能力がきっと無いんだね」

「お話を書く能力がきっと無いんだよ」

「魔法も宿敵も出てこないお話なんてつまらないね」

「武器や萌えが出てこないお話なんて価値がないよ」

「話を進める人も敬語で変だね」

「話を進める人が敬語は変だよ」

「最近はおもしろい事が無いね」

「最近はおもしろい事も無いよ」

「みんな誰かが創り上げた物で楽しんでいるんだね」

「みんな誰かが創り上げた物に熱中しているんだよ」

「なんだか世の中がつまらないね」

「なんだか世の中がつまらないよ」

「世の中がちいさなおうこくだね」

「みんながちいさなおうさまだよ」


 そう思う。 

 そう思わない。

 それは人それぞれなのです。

 残念ながらまた、ちいさなおうさまが増えてしまいました。

 ちいさなおうさまを知った事で、他の人をちいさなおうさまと決めつけて、自分はちいさなおうさまでは無いと言います。

 私はちいさなおうさまを増やす為にここまでお話をしてきたわけでは無かったのです。


 私の体の中にはたくさんの命が生きています。

 他の兄弟を見ると、ここまでたくさんの命を宿して生きている者はいません。

 人に伝わる言葉を教えてくれたのは、私の中にいるあなたたち、人です。

 初めの頃は私を大切にしてくれていました。

 人以外の命も大切にして暮らしていました。

 しかしいつの頃からか人は、自分の世界を創り上げてしまいました。

 そして他の命を奪い、人同士でも命を奪うようになりました。

 最近では一人ひとりが、ちいさな自分のおうこくを創るようになってしまいました。

 私は度々警告をして来ました。

 このままでは私のバランスが崩れてしまうと。


 でも、もう……。

 私に出来る事は少なくなってきました。

 私は疲れ果てました。

 もう昔のような時は戻らないのでしょう。


 最後に一つだけ、このお話の秘密をお話しましょう。

 何故、登場人物に名前が無いのかを。

 分かりましたか?

 そうです。

 あなたの思っている通りです。

 全てのお話の登場人物はその中にいます。


 さぁ。


 その鏡の中をご覧なさい。


 鏡に映るその姿。


 そう、きっと……。


 最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます。


 私のお話でも読んで下さっている方がいる事にとても感動しています。

 実はこのお話を作るのに約一年もかかってしまいました。

 何度も挫折しそうになりました。

 でも、せめて一冊分のお話を書いてみたいと思って頑張って来ました。

 そんなだったので、読んで下さった方々がいる事に深く深く感動しています。

 もう一度、言わせて下さい。

 

 本当にありがとうございました。


 これで「ちいさなおうさま」の物語はおしまいです。

 あとは、時に埋もれてしまうこのちいさな物語。


 そっと、あなたの胸にしまっておいて下さいね。

 

 それでは、またいつかお会いしましょう。


         2015年1月31日 福島信夫ふくしましのぶ


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