第XX話 邂逅
――彼女はゆったりとした足取りで、大階段を登っていく。
抜けるような青空のもと、陽をいっぱいに受けた真っ白い大理石の大階段、彼女の黒いドレス姿はぼんやり浮かび上がる。
――ソレはかげろうのようで、手を伸ばせばすぐそこに居るようで。
だけども、ちっとも彼女との差は埋まらない。
知らない間にこうなったのか、それとも、知ってて、でも気づかないでいたからこうなったのか。
――そんなことは、分からない。
いくらでも後悔できるし、いくらでも懺悔できる。だけど、ソレはじゃ彼女との差は縮まらない。
でも、一つだけ、今自分にできることがある。
「――あのバカを彼処から引きずり落として、張っ倒す」
静止の言葉が聞こえる。彼女と自分だけの世界から、徐々に民衆の喧騒が戻ってくる。
青空に浮かぶ、監視ポッドが光る。
構うもんか。知らねぇよ。
大切な奴が泣いてんのに、ソレを慰めねぇヤツなんか。
「……見ねぇウチに、また、頑張っちまったな」
松葉杖を離し、掴まれた腕を振り払って、一歩一歩踏みしめるように、人混みに入り込む。
揉まれ、飲まれ、ごった返して歓声を上げる、人々の背中の向こうに見える彼女を見据え、ただ進んでゆく。
大階段前に等間隔に掲げられる皇軍旗が、人々を断ち切っている。
畜生。彼処までなのか。俺は。行けるのが。
整然と並ぶ皇軍特別儀仗隊。パフォーマンス。畜生。
ダメだ。行くんじゃない。登り切るな。帰って来い。来い。
進んでいると、隣から大きな声で皇国バンザイとともに、旗が市民によって掲げられる。押しつぶされる。
違うだろ。行ける行けねぇじゃないだろ。
揺れる。
飲まれる。
監視ポッド。
そうだよ。止めるんだ。じゃないと、二度と。
光る。
電光掲示板。
はためく皇軍旗。
ニセモノの空。
終る空。
暑い。
二度と届かなくなってしまう。
静止。
声。
倦怠感。
ぶつかる。
ドレス姿。――近づく。
だから――
――息を吸う。大きく。痛む。詰まる。
今じゃなきゃ――
――もう一度。吸う。痛む。近づく。吸う。咳き込む。近づく。声。
――ダメなんだ。
――ドレス。
息を、吸う。
「おい!!迎えに来た!!!から!!心配すんな!!!!!!」
そうして俺は、手を伸ばした。
どうも、初めまして。深池渋治です。今後共よろしくお願いします。