閑話:幼馴染
吉村裕司side〜
夏休みの始め僕は幼馴染の黒陽を夏祭りに誘った。最近なんだか元気無さそうだったから。でも黒陽は
「ん?あぁ、大丈夫だよ。最近寝不足なだけだから」
と言って断ってきた。
「なんだよ黒陽、最近付き合い悪いんじやない?」
「お前は新しく出来た3つ年上のキレーなお姉様と行きゃいいだろ? それとも何か? 彼女いない俺に対しての当てつけか?」
‼︎‼︎そうだった真由と夏祭り行く約束してたんだった。
「そんな顔してるってことはやっぱ忘れてたな? 」
「ありがとう黒陽。もう少しで真由との約束忘れるとこだったよ」
すると黒陽は呆れたような顔をして
「なんでお前みたいな奴がモテるかねぇ。やっぱし男は顔なのか」
そうかなぁ? 僕から見ても黒陽は充分カッコイイとおもうけど。混ざりっ気の無い真っ黒な濡れたような髪の毛に整った目鼻、背も僕より5センチ以上高い。僕みたいな可愛い系では無く、カッコイイ系だ。
多分黒陽の、俺に近づくなオーラが半端無いからだと思うけど。でも、やっぱり黒陽はいい奴だな。皆話してみたら解ると思うんだけど。
♢
夏祭り当日〜
真由が、風邪を引いてしまった。ただの夏風邪みたいだからすぐ治ると言ってたんだけど、心配だなぁ…
夏祭りに一緒に行く人がいなくなった。黒陽を誘おうかな? でも最近は、何だか楽しみで仕方が無いみたいな顔してたから彼女でも出来たんだろうか?
「黒陽めぇ、僕は教えたのに君だけ教えないのは卑怯たぞ」
ククク、黒陽にどんな彼女が出来たのか確認だッッ!
そう決めた僕は黒陽の家に向かって歩き始めた。
♢
僕が黒陽の家を遠くから見張っていると黒陽が出てきた。いつもよりオシャレしているし、何だかキョロキョロしている。
「やっぱり彼女いるの隠してたな」
夏祭りは、大通りでやっているのだけど黒陽はそこから少し離れた神社に向かって歩いて行った。僕は階段を使わずに、ちょっと横に逸れたところにある獣道のような場所を通って追跡する。
「こんな人が来ないような場所でなにして……ってそうか」
もし本当にシてるんだとしたらなにも見なかった事にして帰ろう。なんか負けたような気分になるし。
神社を最後まで登りきると、そこには髪の毛を金髪に染めたイケイケなギャルがいた。そのギャルが、黒陽を見つけると走ってそのまま抱きついた。
「君がコクヨウ? 写真で見るよりイケメンなんですけど〜」
(えぇ〜‼︎黒陽のタイプとかなり違うとおもうんだけど…)
っと危ない危ない。そこの茂みにでも隠れるか。何か話しているのが見える。結構大きな声なのか、会話が聞こえてきた。
「なんで俺がここを選んだかわかるか?」
「えぇ〜〜。静かな場所でヤりたかったんでしょ?」
「あぁそうさ、俺はお前を殺りたかったんだよ‼︎ ヒヒッヒャヒャハハハァ」
黒陽が酷く歪んだ笑顔に変わってゆく。ギャルの子も、驚いているみたいだ。
と、ここで黒陽がバックから何かを取り出す。なんだアレ? 目を凝らして見る。っっあれ包丁だっ!
「アガッ、いぎぃ、カッ」
それから黒陽は、そのギャルを何度も何度も刺していた。そしてメッタ刺している時の黒陽の顔は、今までで見たこと無いくらい、楽しそうで嬉しそうな顔だった。
僕は黒陽が後始末を終えて帰るまで、茂みの中で震えて居た。
♢
(どうしてあんな事をしたんだ。黒陽っ‼︎‼︎)
昨日見た光景が、頭の中でずっと繰り返されていく。結局昨日は眠る事が出来なかった。黒陽のあの歪んだ笑顔が、頭にこびりついて離れない。
僕は寝不足気味の体を叩き起こして。黒陽の家に向かった。
♢
意を決して、黒陽の家のインターホンを押す。
ピンポーン
「はいはーい、今出ますよっと」
心なしか黒陽の声が、いつもより上機嫌な気がする。
「ん? なんだ裕司か。どうしたそんな顔して?」
僕は思いきって告げてみる。
「黒陽って昨日神社でその…人、殺してたよね?」
僕の違っていてくれ、と言う願いは裏切られる。
「あぁ、見てたのか」
と、まるでなんでも無いかのように黒陽は喋る。
「見てたのかってお前…」
「はぁ…。裕司以外なら、やりようは幾らでもあったんだけどな」
ここで黒陽の態度が変わる。
「すまなかった裕司。あの時の俺はどうかしてたんだ。明日自首するから、今日は警察には、言わないでくれるか?」
「あっああ、黒陽も身の周りの整理つけたいだろうしね」
黒陽は少し涙目になっている。
「ありがとう、裕司」
「じゃあね、ちゃんと更生したらまた会おう」
去り際黒陽の顔は、あの女の人を殺していた時と同じ顔になっているような気がした
♢
前日寝ていないのもあったのか、昨日はすんなり寝れたな〜。
そんなことを思いながら目を覚ました。
黒陽の事は残念だったけど、自首すると言ってたから心を入れ替えたんだろう。
外は雨が降っている。携帯の画面の時計は、10時13分と表示されている。
黒陽からの着信履歴が残っていた。
プルルルルルルル
携帯が鳴りだす。相手は黒陽だ。
「裕司〜。昨日ぶりだな、よく寝れたか?」
黒陽の声が妙に嬉しそうだ。なんで?
「えっ? うん寝てたけど」
「そうか〜、いま警察署の前にいるんだけどさ」
「うん」
「自首する前にさ、裕司に最後のプレゼントがあるから、玄関開けたとこにダンボール在るでしょ」
急いで玄関を開ける
「在ったよ」
「じゃあ、開けてみ?」
ガムテープを剥がすと、異臭が立ちこめてくる。
思いきってダンボールを開けるとそこには…
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
真由の生首が在った。
僕はダンボールを投げる。真由の首がコロコロ転がってこちらを向く。
一緒に投げた携帯から黒陽の声が響く。
「ヒャヒャハハハ…。裕司ぃ、ちゃんと彼女には、知らない人にはついて行っちゃあいけないって、おしえてるかぁ? お前の名前出せばホイホイついて来やがったぜ‼︎」
「うっ嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
「断末魔はLINEで送っといたからァ。心配すんな、最後の言葉は『裕司くん助けて…』だったからよォ」
「キッサマァァァァァァ!!!!!」
「じゃあな裕司、最期にいい声聞かせてもらったよ。ククッ」
♢
黒陽が警察に自首してから、5日が過ぎた。
警察に行かれたら復讐することも出来やしない。
家族が心配して声をかけてくるが、全く聞こえてこない。真由の首を見てから何かが壊れてしまったのかもしれないな。
『黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽』
僕はずっと黒陽に向かって怨嗟の言葉を言っている。
4日間寝ていない。目には深い隈がきざまれているだろうが、長い事鏡を見ていないので分からない。
『黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽黒陽コク陽コクヨウこくようぅぅぅぅ‼︎‼︎‼︎』
だがもう限界がきたのだろうか? ドンドンねむくなって行った。
『こくようーーー』
気がつくと、自分ことを神だと言う女の子が、キラキラ綺麗な球の上空でしゃべっていた。