冒険者ギルド
服屋の言うとうり、角を曲がるとデカイ建物があって『冒険者ギルド』と書いてある。盾に剣が刺さっているマークだ。
丁寧にふりがなまで振っている。
今思ったけど俺普通に文字読めてるな。これも魔王補正か?まず喋れてたんだが。
ポーン…『異世界人には『翻訳』と『読み書き』が出来るようになっています。ステータスには表示されていませんが』
そう言うことか、謎が解けたとこで冒険者ギルドの扉を開けた。
ギルドの中に入ると、受付嬢がニッコリ微笑んでいる。
ネームプレートにはアリアと書かれている。
(いま一人しか居ないし丁度いいかな。可愛いし、可愛いし)
大事なことだから二回言った。
もともとギルドの中に配下を作る予定だった。丁度いいな。
「冒険者になりたいんですが」
「はい、では少々お待ちください」
どうやって『ステイニング』してやろうかと考えていると、ゴソゴソと何かを取り出す。
「ではこちらの用紙に名前、使用する武器、スキル、魔法などあれば、ご記入ください」
「スキルや、魔法は全て書かなければいけませんか?」
「え⁉︎ 幾つも持たれているんですか?」
おいおい、いきなりやばいな。スキルってそんなに持ってないもんなの?
ポーン…『はい、スキルは反復して覚える物なので。魔王様の歳ですと、一つか、何かに秀でていると二つ持っている。と言った所です。二つ持ちは、かなり稀ですが。
魔王様が始めからスキルを多く持っているのは、あちらではスキルが発動しませんので、早く習得できるのです』
『スキルのレベルを上げるのは、10年程度は真面目に修練をしなければいけません。』
「いやぁー実は僕、スキルを二つ持っているので、どちらも書かなければいけないのかなと」
これで誤魔化せただろう。それにしても、俺はこの世界の事を知らなさすぎる。宿をとったら、その辺のことを“A”に教えて貰おう。
「あ、そう言う事でしたか。大きな声を出してすいません。なにぶんそのお歳で二つ持ちの人なんて始めての事でしたので。
スキルですが、強制ではありませんよ。人のステータスは知るすべがありませんから、詐称されてもわかりませんし」
それ俺に教えてもいいのか?
取り敢えず、スキル欄に『短剣術lv.1』と書いた。
「ギルドの説明は必要でしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「まず、ギルドランクと言うものがあります。これはH〜Sランクで構成されいます。ギルドランクを上げるには指定されたモンスターを倒せば、ランクアップ出来ます。Hランクで言えばゴブリンですね。一般的にDランクになれば一人前です。DランクとEランクにはかなりの差があると言われています。dランクの指定モンスターが強いと言う原因があのですが…。
ランクが上がれは特典が増えるので、がんばってランクアップしてくださいね」
「ちなみにですが、S級になれば王宮に呼ばれ、任意で国の後ろ盾を得ることも出来ます。その分色々なしがらみも増えるのですが」
へぇ〜。目指すはS級だな。王宮の中にも配下2人くらい欲しいからな。
「S級の方は何人位居るんですか? 」
「今国内にはS級の冒険者は『龍口』『周水』『六花の姫』『王楼』の四人で、国の危機を何度も救ってくれた英雄です。一ヶ月前の魔素溜まりから生まれた魔物の退治をした『王楼』様が少し前にS級に上がられました」
「へぇー僕もなれますかねS級? あ、これ用紙です」
「えぇ、二つ持ちであるコクヨウ様なら可能性は十分あると思いますよ。」
アリアがニッコリと微笑む。あー可愛いなーよしッ。
パッとアリアの手を取る。
「ひゃっ!何するんですか‼︎」
少し不快感が顔に出ている。
クククッ、今から俺色に染めてやるよ。
俺は素早く『ステイニング』を発動した。アリアの翡翠のような瞳が黒く濁って行く。だが真っ黒になった訳ではない。
「すごく魅力的でしたので思わず手を取ってしまいました」
「あ、や、いや…。今度からは気をつけてください」
心の変化に戸惑っているようだ。まぁ、それもそうか、気持ち悪いと思ってた相手が急に魅力的に見えてくるわけだからな。
「本当にすいません。嫌でしたよね…」
「あう…そういう訳ではなくて。物事には順次という物があってですね、私達まだ名前しか知らない訳ですし……」
しりすぼみに声が小さくなって行く。『ステイニング』したのは2割程度だ。これからゆっくりと染め上げていくことにしよう。目指すは従順メイドかな。
「この辺りで風呂付きの宿って何処ですか?」
「お、お風呂がある宿は『不死鳥の宿り木』しか無かったと思います。でもかなり料金がかかりますよ」
「あ、それは大丈夫なんで気にしないでください」
「それで…、あっ、あのっっ、これギルドカードでしゅっ」
「ありがとうございます」
ギルドカードを渡された時にまた手に触れる。
アリアは顔を真っ赤にして、ふひゃーーーーーと叫びながら奥に消えて行った。
結構初心なんだな…。
俺はギルドの外に出た。まだお披露目会は終わってないみたいだ。勇者の顔でも見に行くか…。暇だし。
仮面を被って、声が大きくなる方向に進んでいくと、王宮のような物が見えた。
迷宮樹の影に隠れていたから分からなかったが、かなりデカイ。てことは俺が入って来たとこは裏口みたいなもんか。
かなりの人混みだが、自然な感じで殺気を撒き散らしながら進む。広場の右端のベンチに座っていたカップルに一言。
「どけ、殺すぞ」
と言う。カップルは真っ青になって逃げ出した。仮面を被ってるから猫かぶる必要もない。
行きに買った双眼鏡を覗いて勇者の顔を見る。
皆疲れてるみたいだ。それもそうか、結構長いこと手を振っているからな。
ゾクッ
!?なんだ
双眼鏡を覗くと赤い髪の毛の勇者がこっちを見ていた。
なるほど、こっちに来てから最強だと思ってたけどそうでもないみたいだな。こいつは楽しめそうだ。決めた、絶対殺す。奴の顔が絶望に染まるのを想像して自然と口角がつり上がる。
見ている理由は認識阻害で顔が見えないからだろうけど。
この人混みの中で俺(魔王)を見つけるなんて、かなりの運の持ち主だな。主人公補正ってやつだろうか? 顔もイケメンだし。
「これ以上の長居は無用か。ま、勇者観れただけでも良しとするか」
俺は宿をとるために、『不死鳥の宿り木』に向かった。