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底の深い大皿に米と卵を入れ、右手でかき混ぜる間に、左手で卵を一つ、油を引いたフライパンに割り落とす。
箸でささっと卵と米の混ぜ込み作業を終わらせてしまう――卵かけごはんと同じ要領である。左手は卵の殻を三角コーナーに放り捨て、見ずに石鹸で洗う。サルモネラ菌が卵の殻にはついている――らしい。
左手をタオルで拭いている間に右手は別の作業を行っていた。お徳用のウィンナーを三本、袋から取り出したのである。左手で鋏を取り、それらを細切れにカットしてフライパンに落とした。このタイミングで先ほど落としておいた卵の黄身を割り、同時に卵かけごはんをフライパンに投入。
そして俺はおもむろに、木製のしゃもじを取り出すとそれらを切るように混ぜはじめた。
ここまでの工程を経て、俺はようやっと目を覚まし始める。このアパートに住み始めてからのルーティンワークであった。朝ごはんを作る途中で目が覚める。すっかり主婦が板についてしまっていた。
米の炊き具合は完璧。昨夜水分を少なめにして炊いておいたので、あまりべちゃっとなることもないだろう――これから牛乳を入れても。
炒飯を作るといっても、これは俺の我流であり独学の成果だ。別に何のレシピを見たわけでもない経験則に基づいて調理しているため、変なところもあるかもしれない。だが別に、これで店を出そうというわけではないのだ。誰も構いやしないだろう。
牛乳を少しだけいれる。じゅっ、と爆ぜる音がして、フライパンの表面で激しく踊った。この時に牛乳を入れすぎてはならない。水気が多すぎてびちゃっと引っ付いた炒飯になってしまう。塩コショウを適宜振りかけてからよくかき混ぜ、牛乳の浸透具合が均等になるようにしてから、ならしてフライパンの上の米たちを平らにした。
次に「とろけるチーズ」を二枚取り出すと、フライパンで行儀よく並ぶ米粒たちの上にそのまま重ねてやった。しゃもじでチーズを押し切るように混ぜ、細切れに千切れたチーズが全体に混ざったところでしゃもじを置く。チーズは焦がす為に入れるのだ。あるのと無いのとでは、意外に違う。
しばらく(といってもわずか数十秒)の間放置している間に、醤油の瓶を手に取った。チーズが入っているというのにダメ押しだ。これを炒飯に垂らすとフライパンの熱で焦げ、それはもう絶妙な風味を出してくれるのであった。二周、フライパンの上で円を描くように垂らす。
「おぁようございます……」
「おうおはよう」
醤油を垂らした瞬間に広がる旨味を乗せた香りに、西野美弥は目を覚まして起き出してきた。髪はぐちゃぐちゃに跳ねており、眠そうに閉じられて目を、右手でぐしぐしとこすった。
誘拐から始まった、この奇妙な同棲は、三か月たった今でもまだ継続中なのであった。西野美弥はまだ俺のことを父親だと勘違いしたままだし、俺は西宮の家族から五百万円を受け取ることを諦めていない。
「顔洗って来い」
「……ふ、ぁい」
「おい寝るなそこで寝るな」
卓袱台の指定席、テレビの前に陣取った西野は、もう箸を握り締めている。しかし首はうつらうつらと舟を漕いでおり、口端からは涎が垂れていた。
「言うこと聞かないなら飯抜きにするぞ」
「顔を洗って参ります!」
炒飯の焦げ具合は今日も絶妙だった。これだけは失敗したことが無い、唯一の得意料理だった。次いでオムライスと、あと餃子。サンドイッチとかは手抜きしようと思えばとことんできるので、結構作るのが楽だったり。
とにかく、顔を洗って高速で折り返し、また元の席に着いた西野の前に炒飯の入った皿を置いてやった。お前は父親に虐待されていたのではなかったのか。どうしてその父親(だと勘違いしている俺)を前にして、そこまで能天気に振る舞えるのだ。言ってしまえば誘拐の商売道具でしかない西野美弥に対して、奇妙な同情というかなんというかな気持ちが芽生えかけるも、首を振って打ち消した。
西野は起用にも炒飯を箸で掴んで食べているが、俺はレンゲを取ってきて西野の前、テレビに邪魔にならないように座る。別に彼女はテレビなんて見やしないが、なんとなく。




