家が金持ちそうで。
非力。女子が望ましいが、低学年であれば男児でも構わない。
下校時に一人だとなお良し。通学路に細い道を通るならばさらに良し。
――誘拐。
身代金目的で児童を攫い、金を得る「職業」。
高校を卒業し、一流とはいかないまでも二流……準一流とは言い張れる大学を卒業。しかし職が見つからず、フリーターとして日々を過ごしていたら、両親が死んだ。飛行機事故だった。
両親とは特に喧嘩をするでもなく、まともな職に就けていないことを除けば、俺はかなりの孝行息子だった。……と、思う。両親は一人息子を可愛がってくれたし、端から見て、理想ともいえる温かい家庭だったと自負している。
無職であったことには負い目を感じてはいるけども。
さて、両親が飛行機事故で死んでしまったのだが、慰謝料だか生命保険だか――とにかく、結構な額の金が手に入り、それから数年は、働かなくとも生活はできた俺であったが、その金もすぐに底をついてしまう。
固定資産税相続税車税消費税、水道代電気代ガス代。役所への処々申告のやり方も勉強したし――ただ漫然と生きるということはできなかった。
朝起きて食べ、寝て、昼を食べ、また寝て夜を食べ、そして就寝する――それだけの生活を送っているだけで、国は税を巻き上げていく。水道代やら光熱費やらは使わなければどうということもなかったが、税による散財だけはどうしようもなかった。
そうだ、誘拐だ。
嵩む借金の手形を視界の隅に追いやり、つけるともなしに眺めていたテレビドラマを見て、そんなことを思った。テレビ以外には電気を使わない、そんな生活。
そのときには既に、働こうなどという意識はちっとも無くなっていた。働かなくとも死にはしない。金は借りればいい――そんなスタンスにも、思えば限界が来ていたのだろう。
思いついてからはすぐだった。近くの小学校の男児童を攫う。
呆気なかった。
小学生を「捕獲」して親に電話するだけで、百万円が手に入ったのだから。
その時は、罪悪感なんて微塵も感じなかった。あったのは、達成感と誇らしさ、百万円の札束だけ。
家と車、あと売れそうな家財などはすべて売り払い、中古のハイエースを買った。夜に紛れるツヤ消しブラック。
俺はそれを駆り、金が無くなれば誘拐して稼ぎ、全国を転々とした。
その道中でナンバープレートの交換の仕方も覚えたし、携帯は三二回、買い替えた。
金で戸籍を買い、多い時では十ほどの名前を使い分けていた。
「仕事」にミスはなし。警察とカーチェイスを繰り広げることはないし、指名手配されることもない。
最初の数回は運が良かっただけだろうが、回数を重ねるに連れ小慣れていき、最近は、ゲーム感覚でさえあった。ゲーム感覚で、誘拐をしていた。
そんなある日。金がなくなりかけたので、いつも通りに「仕事」をしようと、白木丘というこの町の山裾にハイエースを止めた。早速付近の小学校の場所を検索する。
私立が最上。次点で市のモデル校とか、そういうの。公立小学校は、最上ではないが優良だ。
俺が誘拐で要求するのは百万円。一般家庭でも、それくらいならば、なんとか払ってくれるものだ。例えば一千万円なんて大金を要求しても、すぐに準備できるような額ではない。そんなもん、待っているうちに足がつく。そしてお縄だ。お縄は御免である。
携帯電話で地図を見れば、仕事――誘拐は容易。便利な世の中になったものだ。
白木丘市。関東南西部に位置する都市。人口二三万人。特産物はほうれん草などで、近郊農業の側面が強い。都心のベッドタウンであり、昼間と夜間の人口差が激しい。南部は海に面し、北部には緩やかな山。西から東にかけて、名古屋と東京を繋ぐ高速が走り、それとクロスするように、山から海に一本の大きな川が流れる。
夏は海水浴客や登山客で賑わうものの、反対に冬はあまり人が来ない――雪が降らないからだ。
都会ではないが田舎でもない――どっちつかずの都市。デートといえば駅前のショッピングモール、買い物といえば駅前のショッピングモール、土日のお出かけといえばショッピングモール……。ここはそんな土地だった。都心やなんかと比べればまあ、田舎である。過疎に喘ぐような地域と比べればまあ、都会である。
大きなビルはないが大抵の道は舗装され、ちょっとした買い物なら自転車でコンビニに行けば良い。
山の方は、所謂金持ちぶりたい中級家庭が見栄を張って購入するような、建て売りの高級住宅街。この辺りのお子さんなら金になるはずだ。
要求金額は百五〇万円とかでも大丈夫かもしれない。
百万円は一般家庭の話だ。貧乏そうなら少なくて七五万まで減らし、裕福そうなら百五〇万円くらいまで増やす――ずっと百万円という「約束事」から同一犯だとバレるのは避けたいからだ。その分仕事の回数は増えるが、まあ、人様に比べりゃ大した数でもない。額は大きいが。
この学校の私立は高校だけ。小学校は両方公立だ。
両小学校の名前と周辺の地図を頭に入れてから、次に探すのは潜伏先である。
小学校からはほどほどに遠く、されど離れすぎない距離、人通りは少ないか、まったく無いくらい、あるいは逆に多いくらいがいい。うまいこと演技すれば、誘拐を誘拐に見せなくすることなど容易なことであった。




