evidence 9「不安で仕方なくて」
結局、フリーズしたパソさんを強制的に黙らせた後、間もなく葵も帰っていった。
メディ研に入ってくれるよな…?と命乞いにも似た期待を抱いたのは、
もう六日も前のことである。
そもそも半分無理矢理誘ったようなものだ、入部してくれる保証はない。
実際、あの日から一度も部室に来てくれてはいない。
―このまま、終わるのか。
時計は、十時過ぎを指している。
「お兄ちゃん…いるよね?」
ドアを静かに開け、顔を覗かせたのは夏海。
「夏海…どうした?」
起き上がって、隣に夏海を座らせる。
「いや…なーんか元気ないなー、って思ってね…どうなの?あの事は…」
「結局あれからほとんど何も出来てないんだよなぁ…」
ふぅ、と溜め息をつきたくなる状況なのだ、今まさに。
「そっか…」
詮索せずに、夏海はそう返した。
机に置いてある一眼レフに目をやる。
メディ研に入部してから、あれで写真を撮り続けている。
いわば、あれこそメディ研での俺の証だし、高校生活の結晶なのだ。
「ねえ…もし、お兄ちゃんの部活が潰れても、ちゃんと写真は撮り続けてよ?」
沈黙に耐えかねたのか、夏海は突然そう言った。
「もちろん。今はそれが生き甲斐だからな」
でも、どうしていきなりそういうことを聞いたのだろうか?
疑問を投げ掛けるように見つめていると、夏海は向き直って。
「お兄ちゃんに…また何かを辞めてほしくないんだ」
はっきりと。
「ああ…」
それを聞いて、少し悲しみが増した俺であったが。
でも、仕方なかったんだと。あの時自分の中ではケリをつけたから。
「証拠」をそこで、残せなかったから、だから俺は今このシーンに居るんだ。
「…お兄ちゃん」
夏海が不安げに、俺を呼ぶ。
「…夏海」
「なに?」
不安なのは兄も同じである。
「もうちょっとこっち寄れ…」
でも、他人のことを本人と同じように不安になってくれる、考えてくれる、そんな妹が。
―俺は、愛しく思う。
「…!」
ぎゅっ、ときつく夏海を抱き締める。
瞬間、お互いの熱が、お互いの身体に走っていった。
夏海も抵抗せずに、受け入れて。
でも、これは恋人同士の愛ではなく、家族愛、
いや、それ以前の、甘えたいという欲。
いくら妹から見て誇れる兄でありたいと思っても、若干十六歳のガキには、
世界は不安に満ちてすぎて、怖い。
だから。
「夏海…ごめんな」
「いいよ…今日くらい」
夏海も兄の背中に手を回して、力を込めてくる。
まだ肌寒い四月、窓を開けていたので冷えた身体が、お互いの体温で暖まってく。
異性だけど、鼓動が早まらずに、ただ落ち着くような、安心感に包まれた。
そうしながら、一時間くらい経った頃。
ぶるるっ、
「うわっ」
「ひゃっ」
抱き合いながらうたた寝をしていた兄妹は突然鳴ったケータイのバイブに驚き、飛び起きた。
「誰だ…?」
別にムードが壊されたから怒っている訳ではない。
ディスプレイには、「中村正哉」と表示されていた。
To be continue...




