evidence 3「存続の危機…! 」
写真。
それは我々が普段意識していなくても、日常に溶け込んでいるもの。
雑誌や新聞、教科書、CDのジャケットとか。
身近であり、かつ芸術的な側面も持ち合わせている。
「じゃ、行ってくるわ」
玄関でそう告げると、朋美から「うぃー…」と力無く返ってきた。
…そういえば昨日家飲みしてたよな。
酒弱いのに日本酒なんか飲んで。
「ふう…」と溜め息をついて、ドアを開けて、家を出る。
「…二日酔いに効くの買ってくるか」
スーパーまではそんなに遠くないから、徒歩で行くことにした。
それに、ゆっくり歩いたほうが被写体も見つけやすいし。
「とは言っても…すぐに見つかるもんじゃないしな」
近所の公園に寄ってみると、小学生たちが遊んでいた。
俺にもあんな時代があったもんだ…とか考えてみたり。
「ここの桜もまだ咲いてないな…」
まだ蕾が多く、咲いているのはわずか。
空には、綺麗な夕陽が浮かんでいて、風景を橙色に染めていた。
「いいかも…」
毎年、同じサイクルで命を燃やす桜と、
ずっと変わらずに、空で燃える夕陽。
シンメトリーとアシンメトリーが同時に存在する、被写体を見つけた。
少し無理矢理な気がするが。
鉄は熱いうちに打て、と昔から言われている。さっそく写すことにしよう。
「このくらいかな…」
ピントを調節しながら、唸る。
カシャッ。
シャッターが切られて、瞬間が切り取られた。
「ふふ…」
今日はなかなかいい写真の撮れる日だ。
「精が出るな、土方」
突然俺に投げ掛けられた言葉。
その声の主は、ベンチに座って読書をしている。
「おう。珍しいな、篠原」
篠原奈々子。高二。我ら東雲高校メディ研の部長である。
強気で真っ直ぐな性格と、端正な顔立ちの黒髪のロングヘアーの女の子。
「てかなんでここで本なんか読んでるんだ?」
「古本屋で見付けたんだが…我慢できなくてな」
奈々子が手にしている本は、「速効!心理学入門〜マインドコントロール編〜」。
…なんか怖い。
「そんなの身につけてどうするんだよ…」
「いざというときの為の備えだ」
非常用にマインドコントロールを修得しようとする人を初めて見た。
なんというか、一見クールなように見えてどこかずれている。
それが篠原奈々子なのであって。
「あ…そうだ、土方」
奈々子が改まって俺を見る。
「ちょっとまずいことになってきた…メディ研のことなんだが」
「…どうかしたのか…?」
突然ふられたメディ研についての話。
奈々子の深刻な表情。
それらから、何かよろしくない事態が起こっていると察知した。
「話すぞ…いいな?」
「…ああ」
奈々子の表情が固くなる。
「…メディ研が潰されるかもしれない」
いきなり放たれた言葉に、一瞬息をするのを忘れた。
「潰される…って、廃部になるかもしれないのか!?」
「かも、じゃなくて…このままじゃ確実にだ」
そして、その後。
俺は半分放心状態になりつつも、なんとか平静を保ち、奈々子から話を聞いた。
簡潔にまとめると、
現在、メディ研の部員は二年生が三人。
部長の奈々子、副部長の俺、あと一人部員として奈々子と同じクラスの琴音。
去年は先輩たちが四人いたが、卒業したのでもういない。
そして一番重要な部分として。
学院側から正式に通達があったという。
「あと一人部員が入らなければ廃部を検討する」と。
最低でも四人在籍していなければ、部として活動していないとみなされてしまうということらしい。
「…理不尽だろ」
「全く同感だ。…だが下手に反抗すれば同じになってしまう」
とにかく、あと一人部員が入部すればいいんだな。
ならあてがあるじゃないか。
「それと、私たちと同じ状況に立たされている部があるんだ」
と、奈々子は再び話始める。
「ちなみにそれはどこなんだ?」
「軽音部だ。あっちも三人しかいないからヤバいらしいな」
おいおい。正哉も危ないんじゃないか。
どうりで昼間は必死だったわけだ。
「…私は学院側に非常に腹を立てている」
「おう。今すぐ校舎を灰にしてもいいくらいだ」
我々ノ活動ヲ邪魔スルモノハ等シク排除シマス。
―いかん、思考が無差別殺戮ヒューマノイドになるところだった。
「老害どもはスリーピースバンドを知らんのか…」
「そっちかいな」
てかなにも教師全員が老害でもないからね。
うちの担任の雨宮先生なんかまだまだ二十代の御姐さんだから。
「とにかく事情はわかった。心辺りがあるから、相談してみる」
「そうか…なら大丈夫だな。ちなみにあと八日がリミットだ、頼むぞ」
…おい。それって新入生への部活動紹介の前じゃねえか。
確実に捕まえなきゃ、終わる。
奈々子と別れて公園を後にし、スーパーの中。
「にしても…なんでこんなことに」
非常に頭の痛くなる話だとつくづく思う。
「牛乳と、二日酔いに効く漢方薬…」
精神的ストレスのせいか、頭がガンガンと痛む。
「うっ…頭痛に効くやつも買うか」
買い物カゴに市販の漢方薬をぶちこむ。
仮に廃部になってしまったら、俺はどこの部活に入ればいいのか。
「いやいや! まだ決まったことじゃない!」
とにかく諦めずに奮戦するまで。
なんとしても榎本さんをメディ研に入れなければ。
自分を奮い立たせ、そのままレジへと急ぐ。
夕方のスーパーは、安売りという名の主婦の心をくすぐる時間帯ゆえに混雑していた。
「ぃらっしゃせぇ…」
レジを担当しているのは、明らかにケバくてヤバそうな女性。
つーか女子高生?見たところ私立の生徒らしい。
バイトっぽいが、スーパーでとは珍しい。
「ひゃくよんじゅーえーん…」
あまりにも雑な手つきでバーコードを読み取っていく。
牛乳もカゴに捨てるように詰めやがって。
「…」
この切羽詰まっている時に。
俺は会計に朋美から預かった千円をバイトに渡す。
面倒臭そうに、かつ百円くらいちょろまかしそうな目付きでお釣りを渡される。
その瞬間、俺は舌打ちをかましてレジを離れた。
「マジイミフーウケルー」とか言われたけど、そんなの関係ない。
今の俺の状況下、イラつかせないほうが身のためだ。
気楽すぎて何も考えてないような奴は特にな。
To be continue...




