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えびでんす。  作者: 紅アルペジオ
始まった、春
19/22

evidence 19「いろいろな視点から」

「待たんかいゴルァアア!」


「いぎゃああああああ!」


放課後、俺は部室に向かうために教室を出た瞬間、いきなり追いかけられた。今日はよく走る日だな。


追っ手は柔道着を着た、体格のいい男。


「誰だよあんた!?」


「問答無用!」


「手合わせの時は名を名乗るのが武士の時代からの礼儀だろ!」


「今は平成だ!」


「それはそうだけどさぁ!」


ダメだな、剣道部なら武士道云々でなんとか話が通じるかと思ったが、コイツ柔道部だ。いや、一応同じ武道なんだから相手に情けをかける精神は、


「貴様よくも江里花の胸に飛び込んだな!?」


「そうですが何か!?てかあれは事故だよ!」


「許さんぶち殺す!」


持って無かったようだ。期待した俺が間違いだった。しかもこいつ江里花を呼び捨てにしたよ、八つも下のくせに。


「くそっ!」


俺はさらにスピードを上げ、東校舎の廊下に差し掛かった。




「ぼぼーんぼぼん、ぼべぼぼんぼぼ」


唯斗は謎の鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていた。すれ違う人々は「何だ?」と思ってた振り返るが、当の本人はノリノリで気付かない。


「ぼぼぼぼぼぼーん…」


一応、ベースの重低音を表現しているのだが、唯斗の未だに老成してない声なのでいまいち表現できていない。


「いやああああ!」


―今誰かが走り抜けていった。


一瞬の出来事だったが、巻き起こる風と、後ろ姿を見て理解した。


「土方…休みじゃなかったんだ」


「待てやゴルァアア!」


また誰かが走り抜けていった。今度は柔道着を着た男。


「新手のプレイか…ありゃ」


何にせよ、自分が関わってはあのチェイスに巻き込まれかねない。気にしないことにしよう。


「ざっきー、待ってえん」


後ろから聞き覚えのある声がした。聞きすぎて飽きたくらいの。


「お前がほんとにそんな感じだったら精神が持たない…榊原」


その声の主は、一緒にバンドを組んでる女の子、いや変態だ。


「嘘だって。あたしもそんな奴は好きじゃないから、琴音を除いてね」


「豊崎はそんな感じじゃない」


そう唯斗が答えると、祐は目を見開いて。


「へえー、よく見てるね。これは新たな恋ですか唯ちゃ」


「その呼び方はやめろ。てか別に恋じゃない」


「そっか。じゃ、早く行って練習始めちゃお」


そう言って、祐は先に行ってしまった。


「恋ねえ…」


そういえば、そういうものをしたことが無いような気がする。


まあ百歩譲って、ターコイズブルーのムスタングをかき鳴らして歌う祐は、かっこいいと思うが。







「あ…危なかった」


俺は間一髪部室に逃げ込み、難を逃れた。


「お疲れー、人気者ですなあ」


と、琴音は優雅に煎茶をすすってるけど。こっちはさっきまで地獄のチェイサーに追われてた身だ。


「気楽に言うなよ…。それに人気者はえりちゃんじゃないのか?」


「だねえ。あんなむさ苦しい柔道ゴリラにも愛されてるくらいだし」


「ディスりすぎだろ…つーかむしろゴリラのほうが、無垢なえりちゃんを好きになるだろ」


「美女と野獣…だね」


葵も煎茶をすすりながら言った。ていうかいつの間に和風ティーセット持ち込んでたの?


「はあ…あったまるう…」


温かいお茶を飲んでほっこりする葵、目を細めて、幸せそうな表情で。なにこれかわいい。俺までほっこりしてしまう。


「あ、想介も入れようか?」


「…いただく」


あいよー、と大将が湯呑みを取り出して、どぽぽ、とポットから急須にお湯を注ぐ。そしてそのまま待機。


「少しおいたほうが美味しいからねー」


「さすが、わかってるな」


「おいコラ出てこんか!」


どんどん、と部室のドアを叩く音。


「ひぃう…」


葵が怖がって琴音にぴとっ、と寄りそう。琴音はそれに応じて、


「おーかわいいのう」


「ひゃうん…」


すりすり、っと頬を擦り付けた。擦り合った二人の肌は、ここから見てもすべすべしているのがわかる。


「あおいんほっぺ柔らかいねー」


「あぅ…やめれぇ…」


むにむに、と頬をつつく琴音。指に押すのに応じて、白い肌が弾けるみたいだ。


あの間に入れたら、なんて変な妄想も―、


「おいコラァ!出てこんとぶち破るぞ!」


やばい、処刑人が強攻突入してきてしまう。てかこんなラブリー空間にあんなゴリラを入れたらまずい。


「…わったよ!今行くから待ってろ!」


「ゴルァ!さっさと屈せばいいんじゃ」


どすっ、


「ごぶぁ…」


何だ、全部言い終わらないうちに重く鈍い音がしたぞ。


状況を確認する為にドアを開けると、


「ぐぅ…」


「何の用だ…おっさん?」


やっぱり。


「こいつ…ぶぉ…」


「デカイけどやっぱりここは弱いよな、軽いもんだよ」


恐らく、巨体に潜り込むように掌底を打ち込んだのだろう。ゴリラの鳩尾に、奈々子の拳が突き刺さっている。


そして、ゴリラは力尽きたのか、その場に崩れた。


「お、待ったか土方」


「ま…まあな」


奈々子は何事も無かったかのように笑顔で言ったが、脇には確かにゴリラが転がってるわけで。


「ほっとけば帰るだろ、なあ?」


「ひっ!?あっ、はいいい!」


「お前正拳突き以外になんかやっただろ」


奈々子さんマジ怖いっす。一撃で男を沈めるだけじゃなくて人心すら掌握してるみたいで怖いっす。


「別に正拳突き以外は何もしてないけど…まあ」


「まあ?」


奈々子は何かに深い意味を持った言葉を放つのだろうか、と思ったが。


「…コイツでかくて怖いな」


「お前のほうがよっぽど怖い」




To be continue...


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