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えびでんす。  作者: 紅アルペジオ
始まった、春
16/22

evidence 16「夕暮れの帰り道」

俺は校門の前である人を待っていた。時刻は六時を過ぎているが、まだまだ日は落ちる気配は無い。


だが少し薄暗くなってきた感じはする。


…まあ、待ってる人といっても別に女の子じゃないんだけどね。


それに女の子なら、もうここに居る―、


「遅いね…」


「だな…。正哉の奴何してんだよ」


俺の傍らに居る、俺より頭一つ分背の低い葵。何を隠そう、俺と葵と正哉の帰る方向は同じだから、一緒に帰ろうということになったのだ。


それに、昼のあのこともあったし、正哉にある話を聞かなきゃいけないし。


「おや…副長。の…葵殿とお帰りですか」


見ると、いつの間にか祐が立っていた。てか今絶対にのぶ殿って言おうとしたよな。どんだけ俺の姉居るんだよ。


「まあな。そうだ榊原、正哉見てないか?」


「いんやー見たも何もさっきまで練習してたからね。じきに来るでしょ」


祐は赤ぶちのメガネをくいっ、と上げてそう言った。


その様子を見て、あることを思い出して―。


「それ…この前正哉がやってたけど、お前の真似か?」


「ああ、そうなんじゃない? …って、うえ!? カズヒコがそんなことを!?」


「か…カズヒコって誰…祐ちゃん?」


葵のツッコミには全く同感だ。俺の友達にカズヒコという人物は存在しない。


「あう…いや、なんでもない! …ほら、噂をすればなんとやらだぞ! じゃお先!」


そう叫んで、祐は走っていってしまった。そして同時に、正哉がやって来て。


「おー悪い悪い、じゃ早速行こっか、ね、榎本さん」


「あ…うん」


正哉はいつもと変わらずにそう飄々と言ってみせるのだった。


「って、俺を忘れるなよ」


「おう、久々にだな想介」


こうして、俺、正哉、葵によるパーティが組まれた。もっとも、ダンジョンや洞窟に潜るわけでは無く、ただ帰路を歩く、そんなパーティだが。







高校近くの国道沿い、すぐそばでは車が前から、後ろからも絶え間なく通っている歩道を、三人並んで歩く。


空からは夕日が落ちて、紺碧と赤銅の混ざりあった色に変わっていた。是非とも歩道橋の上から撮影して残したいが、今はそれよりも。


「正哉、ちょっと話があるんだが」


「ん、どうした改まって?」


間に葵を挟みながら、俺たちは会話を始める。


「…柿崎、っていう野郎知ってるか?」


それを聞いて、正哉は少しばかり顔を歪めて、


「そいつは…サッカー部の柿崎のことか?」


「サッカー部かどうかは知らねえけど…昼休みにちょっといざこざがあってな」


数十センチ右で、ぶるっ、と震えたような感じがした。


その震えは葵のものだが、俺はそれが恐怖によるものだと思った。


「…うー…なんだったのあの人…」


「まさか…榎本さんがか?」


深刻さと焦りを浮かべた顔をして、正哉が俺には詰め寄ってくる。


「ああ…絡まれたっていうか…」


「なら間違いない。柿崎耶麻斗…サッカー部らしいけどサボり気味、非行、いろんな高校の女子に絡んだりとか」


うわあ、完全に今流行りのDQNじゃねえか。ていうかそんな野郎がうちの高校にいたのか?


「しかし榎本さんにまで絡んでくるなんてふてえ野郎だな」


「たらしなんて嫌われるだけだろ。柿崎だってじきに痛い目に合…」


「いや、違うんだよ」


正哉は首と手を横に振って否定する。


「たらしはたらしでも、アイツ表ではイケメンっていう評判だ。すると自ずと…」


「…バカは食い付く…」


その時、貨物トラックが高速で通り過ぎ、突風が巻き起こった。


巻き起こった風で、ひゅう、と葵の制服のスカートが舞った。


「…見られてない…?」


「「見てないよ」」


なぜここでユニゾンするんだ。


「…本当に? …嘘ついてない?」


葵が疑わしそうにジト目で俺らを見上げる。二十センチくらいの身長差をもろともせず、ちょっと強気に。


「大丈夫だよ。俺の見解では八センチしか上がってないから、セーフ」


「きゃっ…な、中村くん…」


正哉はさりげなく分析して言うが、


「なんか危ないなこいつ…よし」


正哉の後ろに回り込んで、「がっ」と羽交い締めにして、


「おい、何するんだ想介」


問答無用です。残念ながら。


「さあ榎本さん、変態に制裁を」


きらんっ、と俺は目から光を放ち、…放ったつもりだ。


葵は少し戸惑いながらも、「よーし」と意気込んで。


「この…変態やろー!」


笑いながら、そう叫んで、拘束されている正哉に突っ込む。


が、


「あっ!」


「あっ!?」


道路の段差に躓いて、葵の身体はバランスを失った。

それでも、助走による運動力学的…ダメだ、物理が解らないのに無理はやめよう。


葵は躓いた反動によって前に飛んで、


「ごふあ!」


正哉の鳩尾にヘッドバットをかました形で受け止められた。


「え…榎本さん大丈夫?」


俺は頭を擦る葵を心配するが、


「私は大丈夫…でも中村くんが…」


被害者の正哉は鳩尾を押さえ、「うおお…」と唸っていた。


「こりゃモロに入ったな…」


骨は折れてないはず。まあ大丈夫だな、正哉は頑丈だし。


「ぐ…おふ…」


「おいおい大丈夫か」


「ご…ごめんね中村くん」


そう、葵に言葉をかけられた瞬間、正哉は表情を変え、


「よし、復活!」


力強く立ち上がった。いや明らかに空元気、痩せ我慢、そういう類いの心理的現象で無理をしているに違いない。


「榎本さん…いや、」


数歩歩いた正哉が振り返り、


「な…何?」


額に汗を流しながらも、そいつは精一杯の爽やかさで。


「…将来有望だね…葵ちゃん」


「し…将来?」


「って…なんだ?」


俺と葵には何のことかわからなかった。


だが、正哉は、俺らがその言葉の真意を理解してないにも関わらず、


「やっぱ何でもないわ。…ほら、置いてくぞ!」


そう叫んで、俺らを置いて走っていった。


「お、おい…よし、追うぞ!」


「うん!」


俺と葵も、既に十数メートル離れた正哉を追って走り出す。




夕方、交通量の多い国道。そして人通りもそれなりに。


逃げていく一人の男子高生を、もう一人の男子高生と一人の女子高生が追う。


別に夕日に向かって走っている、そういうわけではないけど。これも青春、なのかな?とか、こんな瞬間を、フィルムに収められたらいいな。




なんて、心の中で思ってみたり。




To be continue...


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