evidence 13「敵襲、敵意」
「活動計画…だって?」
俺は思わず奈々子に聞き返してしまった。
「そう。各部活ごとに生徒会に提出しなければならないんだとさ」
「それ…何の意味があるんだろーね」
琴音はこの前と同じたまごサンドをパクつきながら愚痴った。
「まあ…要するにアレだろ? 生徒会から出される予算の参考にでもするんだろ?」
「こんなもの出しても出さなくてもうちにはロクな予算は来ないっての…」
奈々子ははぁーっ、と深く溜め息をついて、きつねうどんをすすった。
「でも…多分出さなきゃもっとマズイことになるかもよ…」
「だよなあ…葵ぃ…」
落胆して机にべたー、と突っ伏す。その様子を見て、葵は苦笑い。
「想介、去年の生徒会からの予算っていくらだっけ?」
「三万円」
「一番高いとこは?」
「野球部で七十万」
なにこの格差社会。いくらなんでもひどいだろこれ。
「連中は遠征、用具うんぬんで金がかかるんだろうな…にしても」
「何も結果を残せていない、しかも成績は壊滅…っふふ」
「「ぬふふふふふふふ」」
奈々子と琴音はテーブルを挟んで向かい合い、ここにいない弱小野球部を嘲笑う。
なにこいつら怖い。
「あ…ほら、噂をすればなんとやらだよ」
葵が近くのテーブルを指差す。
見てみると、二人に散々けなされた野球部連中が七、八人来ていた。
ほんと人気だな食堂。
「ほんとだ…うわ、やだやだ」
俺はうげー、と大げさにリアクションをとる。
「土方くん…どうかしたの?」
葵が疑問を抱くのは無理はないかもしれない。
「なんていうか…連中のあのノリが嫌なんだよな。デリカシーが無さすぎるっていうかね」
「そうかな…あんまりそういう感じはしないよ?」
んー、と葵は首を傾げて頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
その仕草がどことなく可愛くて、微笑ましい感じがした。
ちょっと嬉しくなって、俺は勢いよく塩ラーメンをすする。
そうだ、せっかくメディ研に入部してくれたんだから、葵と仲良くなれるはず―。
「ねえ君」
突然、テーブルを囲んでいる四人以外から声がかけられた。
驚いて、その声のした方向を見ると、六、七人の野郎がいた。さっきの野球部連中も含まれてる。
「何の用だよ」
俺は軽くガンを飛ばしながら聞く。
「いや、おまえじゃねーよ。そこの子に」
と、言って、葵に目を向ける。
「わ…私ですか…」
いきなりの襲来に、葵が震えている。
「やめろやめろ柿崎、ナンパなんてお前も飽きねえなあ」
周りにいたやつの一人が、茶々を入れる。
「るせーよ、ナンパくらい。こいつらと違ってお疲れなんだよ俺はよ」
なんだと。毎日グラウンドで叫んで走り回ってたら、女の子に手を出していいって言うのか、こいつは。
「お前…何様のつもりだ」
俺はイスから立ち上がって柿崎と呼ばれた男と向き合う。
「だからお前じゃないって言ってんだろ、さっさと失せ」
「やだね」
言われて失せるやつがどこにいるんだか。
「琴音」
琴音にアイコンタクトを送る。
「…任された」
そう言って、琴音は隣にいた葵の手を握る。
「あおいん…大丈夫だからね」
「うん…」
「おいおい何のつもりだよ? 俺はただ可愛いって噂の転校生にあいさつを」
へらっ、と柿崎はフレンドリーを演じたつもりなのか、フランクに言い放った。
「るせえんだよ、飯の邪魔だ」
突然放たれた、凛とした一言。
奈々子のものだ。
「ああ?」
柿崎は、突然現れた相手に、一瞬怯んだように見えた。
「飯の邪魔だって言ってんだよ。それにうちの部員を怖がらせやがって」
チッ、と食堂中に響きわたる勢いで舌打ちを放つ。
「なんなんだよ…次から次へと…邪魔くせえな」
「邪魔なのはてめえだろ? 猿が…」
「…っ!野郎!」
柿崎は猿と呼ばれたことに腹を立てたのか、奈々子に掴みかかろうと手を伸ばす。
「遅せえよ」
奈々子はそれを容易くよけて、カウンターの掌底を柿崎の鼻先、
「!」
寸前、数ミリの位置で止めた。
「…消えろ。鼻を折られたくなければな」
直接のダメージを与えなくとも、ナンパ野郎を怯ませるには十分な一撃だった。
「…行くぞお前ら」
柿崎とその取り巻きは、静かに去っていった。
「葵…怖かったろ」
「ありがとう…奈々子ちゃん」
警戒を解いた奈々子は、いつもみたいに微笑んでみせた。
―それにしても、さっきの奈々子。
いつもとはあまりにも違いすぎた。冷静さを欠いてはいなかったが、柿崎への敵意を剥き出しにしていた。
いや、柿崎に限らず、自分に立ちはだかる者を殺さんとする勢いで。
何か、あるんだろうか?
To be continue...




