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【閑話】SS①「町はずれの鍛冶師と女騎士」


※追加?※


国中の兵士や冒険者が出払い、ゴーストタウンと化した町のはずれ。

そこに一軒、ただただ火を絶やさない鍛冶場があった。


カァン、カァン、とリズムよく響く槌の音。

店主のベータは、脇目も振らず愚直に鉄を叩いている。

彼は戦火を嫌い、日用品や子供が壊した玩具を直すことに生きがいを感じる変わり者だ。

知らない人が見れば廃屋かと思うほど清掃の行き届かない店だが、

工房だけは完璧に整えられている。

日常よりも仕事。彼の性格がそのまま形になったような場所だった。


そんな隠居同然の生活が成り立つのは、一人の「大口顧客」がいるからだ。


鉄を叩き、水に入れて冷やす。


――キュゥゥゥ……。


小気味よい音と共に、部屋中に白い蒸気が立ち込めた。


「相変わらず、人の気配がないな。この店は」


背後からかけられた辛辣な声。重い鉄靴が土足で工房に上がり込んでくる。


「……なんだ、あんたか。いきなり声をかけるな、心臓が止まるだろうが」

「ふん、鉄の心臓を持つドワーフがその程度で死ぬものか。

どちらかと言えば、酒の飲みすぎで死ぬ方が現実味があるだろう?」


ガチャガチャと騒がしい鎧の音を鳴らして入ってきたのは、

全身を鉄の塊で包んだ重装の騎士。

くぐもった重低音の声が響くが、兜を脱げば、そこには東洋人形のように整った顔立ちと、

ピンと尖った耳が現れる。エルフ族の女騎士だ。


ベータがまじまじとその顔を見つめると、彼女は不敵に口角を上げた。


「なんだ、見惚れたか。卑しいドワーフめ」

「ふん、その鬱陶しい金髪が戦場では邪魔そうだからな。

サービスで切り刻んでやろうかと思っていたところだ」

「それは勘弁だ。ただでさえ最近、男と間違われることが多くてな」

「だっはっは! まぁお前さん、その鉄板みたいに真っ平らな体つきなら、

間違われても文句は言えんわな。いや待てよ、もしかして本当は……」


「どこに目をつけている。少しは膨らんでいるだろうが。

ドワーフも耄碌するのだな」


彼女は鎧の一部を脱ぎ捨て、慎ましやかな――まさに誤差の範囲と言える

胸部を突き出してみせる。

ベータは「吹けば飛びそうだな」と鼻で笑った。

こんな下らない軽口を叩くのが、彼らの日常ルーチンだった。


「騎士なんて辞めて、つがいでも見つければいいだろうに。

お前さん、いくつだったか。確か六百……」

「おっと、レディの年齢を口に出すな。なかなか良い相手がいなくてな」

「まぁ、エルフだと種族的な壁もあるだろうしな。

だが、あのアホ勇者だけはやめておけよ?」

「それこそ、あり得んよ」


会話しながら装備を解いた彼女は、いつものようにメンテナンスを依頼する。

彼女は戦いが終わるたびに、傷一つない武器と防具を「メンテ」と称して持ってきた。

そしてベータが提示した以上の報酬を無造作に置いていく。

この店が潰れずに済んでいるのは、間違いなく彼女のおかげだった。


「なぁ、お前さんのパーティにも確か鍛冶師がいただろう?

若い坊主だが、あいつに頼めばいいだろうに」

「……彼はまだ幼い。勇者一人分のメンテに丸一日かかるしな。

こちらに来る方が早い。それに、あの子は勇者がクビにしたよ」

「なんだと?」

「パーティを女子で固めたいそうだ」

「勇者ってやつは、どうしてこう……」


ベータは呆れ、彼女もまた肩をすくめた。


「世界の希望様だからな、仕方ない。……それよりベータ。

近いうちに大きな戦がある。急ぎで仕上げてもらえるか?」

「ふむ。……高いぞ?」

「私の美貌を見たんだ。少しは負けるべきだろう」

「びた一文、負けやせんわ。だいたい、見せてきたのはお前さんだろうが」


特別な道具で武具を打ち直し、彼女は報酬を置いて去っていった。

ベータが提示した以上の報酬を無造作に置いていく。

この街外れの店が潰れずに済んでいるのは、間違いなく彼女のおかげだった。


大規模レイドが終わっても、彼女は現れなかった。

(……まぁ、こんな商売だ。拠点を変えたのかもしれんな)

少しばかりの寂しさを鉄と一緒に叩き潰していたベータだったが、

数日後、ようやくドアが叩かれた。


振り向くと、そこにはあの重装備の騎士。

「……メンテを、頼みたい」


声はくぐもっている。ベータはいつものように笑おうとした。

「よう、どれどれ見せてみろ。まぁあんたのことだ、今回も刃こぼれ一つしてな……」


言葉が止まった。

差し出された武器。ベータが鍛冶師になって以来、これほどまでに酷く傷んだ武具を見たことがなかった。鎧も何かに激しく引き絞られたように歪み、ボロボロだ。


騎士が兜を脱いだ。

金色の髪、人形のような顔立ち、尖った耳。

確かに、馴染みの「大口顧客」だ。


だが――何かが違う。

顔立ちは以前より明らかに幼く、その双眸には百戦錬磨の鋭さがない。

全身を包んでいた魔力の威圧感も、どこか頼りなく細くなっている気がする。

それに…店の前を出る。

以前の彼女は、角の生えたユニコーンに騎乗していたはず。

だが、今の姿はどう見てもただの白馬だ。


「……お前、誰だ」


思わず、独り言のような呟きが漏れた。

すると、女騎士はいつものように、けれど少しだけ所在なさげに首を傾げた。


「初対面なのに失礼だな。人に名を尋ねるときは、まず自分から名乗れ」

ベータは絶句した。


【閑話】SS①「町はずれの鍛冶師と女騎士」・終

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