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第8話:デュエル・スタンバイ


ウィルの背後から、地響きのような尊大な声が響いた。


「うぬ。正確には――『召喚されしいにしえのデーモン』であるぞ」


一歩前に出た巨漢が、アルファとリップの前に立ちはだかる。

禍々しい角、髑髏の面、そしてカラスのような黒い翼。

それはかつて勇者たちが討伐を誓い、一国の軍勢を一夜で滅ぼすと恐れられた

魔王の姿そのものだった。


「儂はかつて、悪魔族最高ランクとして世界中にその名を轟かせた存在よ。

『手札から儂を出せば決着がつく』と、それはもう恐れられたものだ」


腕を組み、誇らしげに語る魔王。


彼がいた世界では、魔物たちは石板に封印され、

選ばれし「デュエリスト」たちが己の生命力を削って戦わせる競技があったという。

勝ち続けなければ存在を許されない、過酷な弱肉強食の世界。だが……。


「時代が進み、新カード、新能力、新環境が次々と追加されてな。

気づけば誰にも召喚されなくなり……儂は『不要データ』として、

このゴミ箱へ捨てられたのだ」


そこへ、背後に控えていたメイド服の双子が容赦のない追撃を放つ。


「弱体化乙」

「時代遅れの産廃データなのね。ぷぷっ、ざーこ」

「ぐぬぬ……! 初期は最強と謳われたのだぞ! 運営の調整ミスだとまで言われたのだ!」


魔王はついに膝から崩れ落ち、四つん這いのまま拳で地面を叩いた。


「儂が弱いのではない……時代が……時代が狂ったのだぁ……ッ!」

「こらこら、二人とも。あまり虐めないの」


ウィルが苦笑しながらたしなめるが、

メイドたちは「はーい、リーダー」と揃って生返事を返す。

どうやらこれがいつもの光景らしい。

あまりの不憫さに、アルファはいたたまれなくなって声をかけた。


「まあ、よろしくな。ええと……『しょうかんされし』……なんだっけ」

名前が長すぎて途中で詰まり、気まずさをごまかすように右手を差し出す。

「私たちは長いので、『デーモンさん』って呼んでます」

「ねー、でーちゃん」


メイドたちがケラケラと笑う。

威厳も名前も原型を留めていないその扱いに、

アルファは少々の同情を禁じ得なかった。

そこへ、ピッピがのそのそと歩み寄り、絶望に沈む魔王の前に立った。


「よろしくっす、おじいちゃん!」


がしっ、と元気よくその手を握る。


「お、おじい……?」 その一言が決定打だった。


「……もう嫌だ……っ!」


いにしえのデーモンさんは、大粒の涙をぼろぼろとこぼし始めた。


「クラウドシティに行ったら、儂はのんびりセカンドライフを始めて、静かに暮らすのだぁ……」


完全にいじけてしまった魔王を、ウィルが宥めながら言葉を継ぐ。


「か、彼はこれでも昔は大活躍だったらしいんだけど

……人気がなくなったせいで捨てられて、このゴミ箱の世界に落ちて――いや、

『落とされた』んだ。彼だけじゃない。後ろに控えるみんなも、

同じような境遇でこの場所に行き着いた者たちばかりさ」


ウィルは後方の集団を見つめながら、静かに、しかし重い事実をアルファたちに告げた。


~第8話:デュエル・スタンバイ・終~

12時に追加EP上げます

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