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第5話:地下世界


揺れる光を目指し、薄暗い通路を進む。

トンネルのような狭い道だ。

一人なら、とうに足が止まっていただろう。

だが今は違う。

目の前には、ぴょこぴょことフードを揺らしながら進む、妙なゴーレムがいる。

そのおかげで、ほんの少しだけ心細さは紛れていた。


……前言撤回。アルファは歯型のついた右手で頭を抱えていた。


「いやー、久々に誰かと会話できたっすよ。この辺、基本オフラインなんで」

「オフ……何だって?」

『Error_404……再接続を試み――』

「今の、なんだ」

『気にしないでくださいっす。……ただの独り言みたいなもんなんで』

「余計気になるからな、それ」


先程から何かあるたびに「質問はありませんか?」と尋ねてくるが、

いざ質問すると『エラーです。接続できません』と意味不明な単語がノイズのように混ざる。

そのくせ常に喋り続けているせいで、正直、一人で歩いていた方が楽だったかもしれないと、

アルファは早くも後悔し始めていた。


「なあ、ゲームをしないか」

「おお! ゲームいいですね。得意っすよ。なんですかテニスですか?バスケですか?

サッカーは2人じゃできないっすよ」

「どちらが長く黙っていられるかゲームだ」

「おお、斬新なゲームっすね。そういえば黙るといえば……」


ダメだ。アルファは深い溜息をついた。

「黙る」という機能はどこかについていないのだろうか。

彼女の背中を眺めてみる。頭からすっぽり被ったパーカーには背びれがついており、

本物さながらの尻尾が左右に揺れている。

妙にリアルなサメ……ではなく、本人曰くイルカらしい。

先ほど間違えてサメと言ったら、噛みつく勢いで訂正された。

いや、文字通り噛みつかれ、アルファの右手には今もしっかりと歯型が残っている。

そんな彼女との会話で、断片的に分かったことはある。

リップ――そう名乗るこのゴーレムは、気が付けばこの地下世界を彷徨い、

歩き疲れて寝ていたのだという。


「なんか、いっつも文章とか数式に囲まれてた気がするんすよね」


そう言って、彼女は抱えていた宝箱を軽く叩いた。

中には数枚の紙が入っている。

びっしりと並ぶ文章、意味不明な数式、グラフや数字の羅列。

設計図かと思ったが、違う。まるで、価値のない情報の塊だ。


「これ、どっかに届けないとダメなんすよ。超大事な気がするんすよね」

「……こんなもんをか?」


妙な数式といえば、賢者だろうか。

勇者の腰巾着だったあの男を思い出す。

まさかあいつがこれを作ったのか?

だがアルファの脳裏には、夜な夜な勇者と色街に繰り出す賢者の後ろ姿しか浮かばない。


「……あり得ないか」

「で、そのデータ収集所だっけ? そこに行けば記憶も戻るのか?」

「どーなんすかね? 感覚的に、喉の奥に小魚の骨が引っかかってる感じなんすよ」

「それ大したことねえじゃん」


 心配して損した、とアルファは吐き捨てた。

彼女が壊れているというのであれば、修理や修復はアルファの専売特許だ。

だが、彼女はあまりに異質すぎる。こんな『喋るゴーレム』は聞いたことがない。

鍛冶師として構造に興味はあるが、下手に触れて完全に壊してしまえば

――それは職人として最悪の結末だ。

データ収集所とやらに向かえば治るというなら、それが一番いいはずだ。

だからアルファは何も言えなかった。


やがて、前方の光が大きくなる。

「出口っす!」

 リップが駆け出し、アルファもそれに続いた。

トンネルを抜けた瞬間、視界が劇的に開ける。


「……なんだ、ここ」


眼下に広がるのは、灰色の世界。

中央には心臓のように脈打つ火山があり、大地そのものが生きているかのようだ。

奈落で感じていた熱気の正体はこれだったのか。

周囲には崩れた塔、折れた橋、砕けた石像。文明の残骸が無造作に積み重なっている。

まるで――捨てられた世界だ。

呆然としていると、視界の端に動く影が入った。


「……助かった」


反射的にそう思った。だが、一歩近づいた瞬間、背筋が凍る。

先頭に立つ、不気味な黒いマントの影。

その後ろに、武器を構えたメイド服の少女が二人。

さらに、角を生やした魔王のような大男、異形のモンスター。

そして、巨大な鉄の筒を抱えた女性。それ以外にも多数の人影が、ぞろぞろと歩いていた。

統一感がない。

種族も、装備も、存在感すらもバラバラだ。

だが一つだけはっきりしている。あれは「敵」だ。

本能が警鐘を鳴らしている。関わってはいけない。

この場から逃げようとして、アルファは一歩後ずさった。

音を立てないように、リップを連れて。


だが、そう思って隣を見た時には、もう遅かった。


リップは――満面の笑みで大きく手を振りながら。

「あ、もしもしー! ちょっと道を尋ねたいんすけどー!」

一直線に、あの異様な集団へ突っ込んでいったのだ。

「馬鹿、やめろ!! それ絶対ヤバいやつだ!!」

アルファの叫びは、虚しく灰色の空へと溶けていった。


~第5話:地下世界・終~

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