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第4話:奈落の魔物

第4話:奈落の魔物


カツン。

 硬い何かが当たる音。暗闇に一人転がるアルファが、その物音で目を覚ました。


「っ……痛てて……」


 意識が浮上し、起き上がろうとするが全身に激痛が走る。

周囲を見渡すが、何も見えない。完全な闇だ。

見上げても、地上の光は一切届いていなかった。


「良く生きていたな、俺……」


 どれほどの高さから落ちたのか、想像もつかない。

脱出の方法も、仲間の安否も、あの黒い靄の行方も。

次々と浮かぶ疑問を振り払い、アルファは自分を逃がしてくれた

先輩たちの最後の姿を思い出し、泥を払って立ち上がった。


「……戻らないと」


 そのためには、まず状況を把握するしかない。

手探りで歩き出すと、やがて壁のようなものに触れた。

岩ではない。金属とも違う。


「これは……ガラスか?」

 両手を広げても端に届かないほどの、滑らかで巨大な壁。

表面をなぞりながら歩くが、一向に終わりが見えない。

遥か頭上には、何か巨大な構造物がぶら下がっているようにも見える。

まるで、巨大なガラスでできた神殿のような――。


(ダンジョンか? こんな構造物を造る技術なんて、聞いたこともないぞ)


しばらく呆然と見上げていたが、じっとしていても始まらない。

アルファは歩き出した。その時、かすかに肌をなでる「熱気」を感じた。

 直感を信じ、熱気が流れてくる奥へと足を進める。

やがて闇の向こうに、蝋燭の灯火のような頼りない光が見えた。

その明かりに照らされ、広間の様子がぼんやりと浮かび上がる。


「……なんだ、あれは」


 ある一点に目が釘付けになった。壁には規格化された四角い穴が並び、

その上には鏡のように自分の顔を映し出すガラスの窓。

だが、それよりも目を引いたのは――その前に座り込む、何かだった。

 サメのような、異形の姿。闇の中で微動だにしない。


魔物か……!


 アルファは息を殺す。大魔導士の杖は落下の衝撃で失い、

手元にあるのは金槌と道具袋だけ。戦える状況じゃない。

気づかれないよう大きく回り道をしてやり過ごそうとした、その時だ。


ガラン。


足元で音が鳴った。しまった、と思った時にはもう遅い。

サメの影が音もなくこちらを向き、滑るように距離を詰めてきた。


速い。逃げられない。


せっかく繋いでもらった命も、ここまでか。

魔物は目の前で巨大な口を開け、俺の頭から食らいつこうとして――。


『初めましてっす! 私は――#$%&です。何かご質問をどうぞっす!』

「……はい?」


思考が止まった。地面にへたり込む俺に、サメの魔物が間の抜けた声で話しかけてきたのだ。


『初めまして。私は……ええと、誰でしたっけ?』

「知らねえよ!!」

 

恐怖を通り越して、思わずツッコミが口をついて出た。


『そうっすよね〜。あ〜しも思い出せないんす。んー、確かリップ?』

「リップ?」

『うーん? やっぱ違うっす。でも近いっす。面倒なんで「リップ」と呼んでくださいっす』


サメの魔物は、ひれのような腕を組みながら首を傾げる。

妙に人間臭い仕草に、恐怖は一気に脱力感へと変わった。

よく見ればサメではない。サメに“食べられた”子供のような姿だ。

……いや、十分不気味ではあるのだが。


『ところで、貴方は誰で、ここはどこっすか?』

「それはこっちのセリフだ。あんたは何者だ」

『あ〜しは自称リップ。何かの目的でここを歩いてたはずなんすけど、

どうやら寝ちゃってたみたいっすね』

「こんなとこで寝るなよ……」

『暗い方が寝やすいじゃないっすか』


ケロッとしているリップに、アルファは呆れながら尋ねた。

「……あんた、飯はどうしてるんだ。よく生きてるな」

『あ〜し、人間じゃないっすから』


そう言って、彼女はバサリと“サメ”をめくった。

それはサメを模した衣服――パーカーだった。

だが、その下の肌の質感は人間のものではない。

精巧なゴーレム、あるいはこの世の技術とは思えないほど精密な「人形」。


『そんなにジロジロ見られると恥ずかしいっす。これでも乙女なんすから』

「ゴーレムが何言ってんだ。というか、そのサメは何だ?」

『はああ!? あんなヤンキー集団と一緒にしないでほしいっす!

どう見てもキューティクルなイルカでしょ!?』


 ぷんすかと怒りながら、ヒレや尻尾を見せびらかしてくる。


「あいにく海なんて見たことがない。サメのモンスターなら市場で売られてるが、珍味らしいぞ」

『野蛮人っすね。あ、私はイルカなので間違っても食べないでくださいね』


イルカとサメの違いは分からないが、その「造作」の細かさには、

職人として畏怖と感動を禁じ得なかった。


「ところで、イルカとサメは何が違うんだ?」


『全然違うっすよ! 見た目もそうっすけど、あいつらは狂暴、私はプリチー。

あとは、す#$%&……すみませんっす。どうやらデータのあちこちが混線してるみたいで』

 彼女は急に頭を押さえ、ふらふらと歩き出した。


「大丈夫か、あんた」

『今は大丈夫じゃないっすが、データ収集所(案内所)に行けば直るはずっす。

そういえば!そこに向かう途中でした』

「近いのか?」

『たぶん、あっちっす』


リップが闇の奥で揺れる光を指差す。

「ふーん……まあ、ここで行き倒れるよりはマシか。付き合うよ」


こうしてアルファは、イルカのパーカーを着た自称乙女ゴーレムと共に、

奈落の奥へと進むことになった。


~第4話:奈落の魔物・終~


更新3月21日0:00分


*イルカのパーカをきた少女風のゴーレム/アンドロイドの「リップ」が仲間になった

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