第1話:勝利の報酬
吹き荒れる爆風、砕け散る大地。
草原のど真ん中で、超大型ドラゴンがその巨躯を震わせていた。
巨大な爪が振り下ろされる。
――ドォン!!
衝撃とともに地面が割れ、無数の亀裂が草原を走った。
「危ない、下がってください!」
黄金の甲冑を纏った勇者が、怯える王女の肩を抱き寄せ、
聖なる結界の内側へと導いた。
「勇者様……私、怖いです……」
勇者は安心させるように微笑む。
「大丈夫だ。この俺が、すべてを終わらせてみせる。君の笑顔は、俺が守る」
「勇者様……っ!」
王女の瞳に、恋の火が灯った。
勇者は満足げに頷き、戦場の中央へと向き直る。
「勇者! ここにいたのか。聖剣のメンテナンスが終わったぞ!」
泥にまみれた少年――アルファが、巨大な箱を背負って駆け寄ってきた。
勇者は振り向くなり、顔をしかめた。
「……遅い!王女様が怯えてるだろう!」
怒鳴りながら、剣を乱暴にひったくる。
アルファは肩で息をしながら言い返した。
「何度も言ってるだろ! 限界まで使い込めば耐久値の底が削れるんだ。
もっと早めに持ってこいって!」
勇者は鼻で笑う。
「ハッ、少し耐久が減るたびに修理だと? そんなことしてたら金がかかって仕方ないだろ。
……そうか。お前ら職人は、そうやって修理回数を増やして稼いでるってわけか。
あくどい連中だ」
「そんなわけないだろ! 剣の寿命を考えて――」
「うるせえ! 黙って見てろ、俺の勇姿をな!」
勇者は聖剣を構え、ドラゴンへと躍り出た。
今まさに、歴史に刻まれる“最後の一撃”が放たれようとした――その瞬間。
――ザシュッ!!
横から飛来した一筋の閃光が、ドラゴンの首を鮮やかに跳ね飛ばした。
巨体がぐらりと揺れ、草原に崩れ落ちる。
「……は?」
その光景を呆然と見つめた勇者の後方から歓声が沸き起こる。
兵士や冒険者達が拳をあげながら、最後の攻撃を決めた者に賞賛の拍手を贈る。
その中心に立っていたのは、隣国の王子だった。
「王子様ぁ!」
王女は勇者の腕を振り解き、弾かれたように王子の元へ駆け寄る。
「素晴らしいです王子様! 勇者様とは大違い!」
「あ、おい! 王女様……!?」
そこへ、国王が姿を現した。
ドラゴンの死骸と王子を見比べ、静かに頷く。
「娘の婿には勇者を、と考えていたが……。これを見る限り、王子の方が器のようだな」
「なっ……! 国王様、俺も戦いました!」
「倒したのは王子だ。貴様には1ゴールドもやらん」
王は冷たく言い放ち、周囲を見回した。
「おい、そこの雑用ども! このドラゴンを回収し、我が国へ運び入れろ。直ちにな!」
アルファは、戦場の惨状を見回して声を上げた。
「待ってください、国王様! まだ負傷兵の手当てが終わっていません!
回収より先に彼らの救助を――」
「貴様のような卑しい職人が、この私に意見するな!」
国王の怒号が響く。横では勇者が、ここぞとばかりに鼻で笑った。
「あーあ。誰もお前の意見なんて聞いてないってさ。黙って運びなよ、無能」
だが、国王の視線は勇者にも向いた。
「勇者よ。お前もだ。さっさと魔王を討伐してこい」
「報酬は……!? レイドの報酬はまだ貰ってないですが!」
「王子にすべて譲ったと言ったはずだ。……まあ、魔王を倒した暁には
考えてやらんこともない」
国王は吐き捨てるように言い残し、見つめ合う王子と王女の方へ歩いていく。
残されたのは、プライドをズタズタにされた勇者と、アルファだけだった。
「……チッ、クソが!」
勇者が地面を蹴りつける。
「全部、全部お前のせいだ!」
「なっ、何が――」
――ドガッ!!
八つ当たりの拳が、アルファの顔面を捉えた。泥の上に転がる。
アルファは懐に忍ばせておいた回復ポーションを飲み、痛みに耐えながら立ち上がった。
視界の端では、勇者が今なお忌々しげに地面を蹴り続けている。
その時だった。
――ドォォォォン!!
空気を震わせる重低音が響き、世界がぐらりと揺れ始めた。
「な、なんだ一体……っ」
ポーションで回復した体に鞭打ち、アルファが周囲を見渡す。
地面が割れていた。先ほどのドラゴンの攻撃で入った亀裂が、
生き物のように広がり、巨大な「裂け目」へと変貌していく。
兵士たちが悲鳴を上げて亀裂を覗き込む。
一体なんだと、亀裂を覗き込んだ。
兵士たちも亀裂を恐る恐る覗き込む
その奥には――
そこには、光の届かない、底も見えないほど深い――真の奈落が広がっていた。
~第1話・終~
2話を本日15時投稿です




