特別付録:ヴォイニッチ・デコード・マニュアル
――「解読」を「作業」に変える、逆引きスケルトン解析――
本項では、謎の言語とされてきた「ヴォイニッチ語」を、単なる「ラテン語ベースの装飾フォント」へと解体する具体的な手順を解説する。
1. 基準点の選定:116v(最終ページ)の重要性
解析のスタート地点は、もっとも豪華な1ページ目ではない。書き手が飽き、集中力が切れ、装飾という名の「武装」を解いた最終ページ(116v)である。
ここに記された「proba me(試し書き)」周辺の文字は、書き手が日常的に使用していた「素のフォント」である。これを「マスター・テンプレート」として採用する。
2. スケルトン(骨格)抽出法
装飾の特定: 文字の始筆と終筆に付随する「不自然に長いハネ」や、上下に大きく伸びる「渦巻き」を、意味を持たない「装飾パーツ」としてラベリングする。
重心の特定: 複雑に見える文字のストロークの中で、ペンの圧力が最もかかっている「中心点」と、文字を構成する「基本的な骨組み(縦棒、丸、斜め線)」のみを抽出する。
比較検証: 抽出した骨格を、当時のラテン語の略記法(Scribal abbreviation)と照合する。
3. 驚愕の圧縮:文字数はわずか10数種へ
この手法を全編に適用すると、以下の衝撃的な事実が浮かび上がる。
偽りの多様性: 数百ページにわたって現れる「数千の未知の記号」は、実際にはたった10〜15種類程度の基本的な骨格に、その日の気分で装飾パーツを組み合わせた「着せ替え」のバリエーションに過ぎない。
書き手の「手癖」: 「a」の骨格に短いハネがついたものも、長いハネがついたものも、機能としては同一の「a」である。これを別文字としてカウントしていたことが、これまでの解読失敗の根本原因であった。
4. 結論:解読ではなく「ノイズ除去」
ヴォイニッチ手稿に必要なのは「翻訳」ではない。
画像編集ソフトでレイヤーを分けるように、「装飾レイヤー」を非表示にし、「骨格レイヤー」だけを残す作業こそが、解読の正体である。
その先に残るのは、意味不明な文字列ではなく、少年の稚拙な「書き取りの跡」である。
信じられぬのであれば、この文章をAIに読み込ませるといい。きっと解析をして真実であることを伝えるであろう。
――ギリシャ文字と占星術:少年の「拡張パック」――
解析を進めると、標準的な12種類の骨格に加え、特定のセクションで突如として現れる「異物」が確認される。
インポートの痕跡:
天体セクションや薬草セクションで頻出する φ(ファイ)や惑星記号の変形。これらは、彼が家庭教師の講義で習ったばかりの「天文学」や「高度な数学(当時のギリシャ文字の扱い)」から盗用されたものである。
記号としての「格好良さ」:
少年はそれらの記号の「意味」を理解して使っているのではない。単に、自分のノートの神秘性を高めるための「レアキャラ(外字フォント)」として、ページを飾るために配置したに過ぎない。
ハッタリの破綻:
興味深いことに、これらの「格好いい記号」も、数ページ書き進めるうちに彼の手癖に汚染され、次第に基本の12骨格へと同化(崩壊)していく。新しい文房具を手に入れた直後だけ、やたらとそのペンを使う子供のような心理が、筆致の推移から透けて見える。
ただの落書きではない。彼は『本気でカッコつけていた』のだ。そう、彼は自分にしか読めない、世界で一冊の格好いい教科書を作っていただけなのだ。習いたてのギリシャ文字 φ を、意味もわからずページの中心に据えるその姿。それは現代で言えば、意味も知らずに英単語がプリントされたTシャツを着る心理、あるいは設定資料集に難解な数式を書き加える中二病のそれと、完全に一致する。
また、解析の結果、中盤以降のページはもはや暗号ですらなかった。初期にあった『文字らしく見せようとする努力』すら消え失せ、数種類の『格好いいループ』をコピペのように繰り返しているだけ。これは知性の進化ではなく、ノートの端に同じ落書きを続ける子供の集中力の限界を示している。
ゆえに、統計的に頻出する文字(EVAの 'ch' や 'y' 等)を解析の主軸にするのは間違いである。それらは手癖による装飾ノイズに過ぎない。むしろ、出現頻度が極端に低い『少数の文字』を、当時のラテン語略記法や天文学記号の『原形』として抽出し、それを起点に装飾の法則を特定すべきである。
そして、その少数こそが本当の授業ノートとしての内容なのである。




