第四話 金庫侵入
朝日が街に差し込む。銀行の駐車場に、黒い車が入ってきた。銀行の出入口付近に車を停めた長坂は、銀行員の制服で身を包んでいる。
「いい?私があなたを先導して、職員と客を装うけど、多分グダグダしてたら怪しまれる。速やかにいこう」
「わかった。カメラはハッキングして停止させておく」
「この服、ポケットが少なくて銃も入らないんだよね。あなたが私の分の銃も持ってて」
そんな服を着るのは、長坂にとっては初めての経験だった。
「ああ。いざとなったらあんたに渡す」
二人は車から降りる。ミトニックは大きなバッグを肩にかけ、二人分の銃を隠し持っている。長坂は慣れないハイヒールに足取りを乱しながら、銀行へと入っていく。
「いい、速やかにね」
長坂の先導のもと、二人は屋内に進む。ロビーにいる客は、手元のスマホに夢中になっていて、二人には目も向けない。長坂は右手の通路に入って、金属の扉の前に来た。スカートの小さいポケットからカードを取り出し、機械にかざす。
ピピッという音とともに、ドアが開き、二人は奥へ進む。長坂は感覚を研ぎ澄ます。屋内の人の位置関係が、長坂の体から脳内に入ってくる。長坂は小声でつぶやく。
「いま、地下の金庫室には誰もいない。私がカウンターの奥から鍵をとってくるから。そこで待ってて」
ミトニックは小さくうなずき、長坂は左の方に入っていった。扉の向こうでは、白い蛍光灯の光が、事務机を照らしている。あたりでは、事務服の銀行員が作業している。長坂は、視線を避けながら、ヒールの音を殺して中へと進む。右手にキャビネットが見えた。周囲の目線を気にしながら、恐る恐るキャビネットを開ける。―貸金庫23番。封筒には、目的の金庫の番号がシールで貼られていた。長坂はそれを手に取り、キャビネットを閉める。
「そこの書類とってくれる?」
後ろから女行員の声が聞こえる。長坂の神経が張り詰める。反射的に能力を使って、オフィス内を探知すると、別の行員が声のほうに向かっていった。自分に向けた声ではなかったようだ。長坂は緊張を緩め、しかし少し早歩きでミトニックのほうに戻る。
「これ、取ってきたよ」
長坂はミトニックの前で封緘を破り、鍵を取り出す。
「よくやった、行くか」
ミトニックがささやくと、二人は階段下の貸金庫へと降りて行った。地下一階に進むと、自動ドアの奥に、待機スペースがあった。長椅子が数脚おかれ、観賞用の植物がおかれた質素な部屋だ。奥には、大きな金庫扉がある。長坂は金庫扉の隣のカードリーダーにカードをかざす。ビビッと、嫌な音がした。カードリーダーの上の赤いランプが光った。長坂はドアを回転させようとしても、回らない。
「なんで!このカードで開くんじゃないの!?」
「あいつ、だましたのか!?」
長坂は後ろめたさを感じた。昨日の銀行員はやはりまだ隠し事をしてたのか?もっと情報を聞き出しておくべきだったのか?自分が甘かったのか?それとも何かのエラー?
「しょうがない、ハッキングで開けるぞ。その間、誰も来なければいいが」
「お願い」
ミトニックはカードリーダーに手をかざす。この様子を見られたら間違いなくバレる。誰も来ないのに賭けるしかない。長坂は待つことしかできないが、緊張で手が震えていた。
「ロックは解除できた」
「わかった、これで開くかな?」
長坂はドアのハンドルを強く握り、大きく回して回転させる。ドアを引くと、奥には貸金庫がずらっと並んでいた。
「開いた!」
二人は中に駆け入り、23番の貸金庫を探す。
「あったよ!」
長坂は鍵を差し込み、貸金庫を開ける。二人は中を覗く。中にはケースに入れられたルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド。平凡な部屋の蛍光灯の光ですら綺麗に反射し、思わず見惚れてしまうほど輝かしく大きな宝石の数々。
「すごい...」
長坂は思わず声に出した。
「ああ、こういうのには関心ないのだが、ちょっと驚いた」
ミトニックも一瞬止まってしまった。長坂は続ける。
「早速バッグに入れよう、あんまり長居すべきじゃない」
「ああ、それがいい」
二人は宝石をバッグに入れる。
「ちょっと待って...まずいかも」
長坂の感覚が際立つ。誰かがこの金庫室に入ってくるのがわかる。
「どうしたんだ?」
「誰かがここに来る」
「なんだって」
話している間に二人は宝石を入れ終え、バッグを閉める。後ろから誰かが近づいてくる。
「まずい...」
長坂はその場で立ち尽くす。階段から降りてきたのは長坂と同じ制服を着た中年の女性行員だった。彼女は自動ドアを通り、金庫室内に進んでくる。
「あれ、あなた...」
行員は長坂の顔を見つめる。長坂は緊張で動けない。その瞬間―
バンッという音とともに、かすかな閃光が光り、長坂の目の前の行員の胸を、銃弾が貫いていた。




