第二話 作戦開始
「ちょっといい?」
長坂は座席下のレバーを引っ張り、後ろに倒れて座席を下げた。後部座席からパソコンをつかみ取って、車内の真ん中のスペースに置く。ポケットからUSBメモリを取り出して差し込んだ。
「これを見て」
長坂はパソコンを開き、タッチパッドを使って、デスクトップの白いファイルのアイコンをダブルクリックした。様々なポップアップが表示される。ミトニックはそれを覗き込む。
「これは...」
「今回盗む貸金庫の情報だよ」
パソコンの画面には、ターゲットの所有者である初老の男性の顔写真、貸金庫の番号、ターゲットの情報が詳細に表示されていた。ミトニックはターゲットの情報に目を向ける。
「宝石の総額が推定10億円!?」
「この金持ちおじさんのインフレ対策らしいね。こっちとしては足がつかない形にしてくれて助かるんだけど」
ミトニックはさらに情報を読み進めていく。どうやら教団の構成員の一人が、その男性に家事手伝いとして雇われているらしく、そこから情報提供があったらしい。
「しかしどうやって盗み出す?あそこの扉ならハッキングで開けられるが」
ミトニックは腕を組みながら言う。
「それだとあそこで入った瞬間に怪しまれるんじゃない?」
「そりゃそうだが...」
「銀行員から職員カードを盗んで入ったほうが確実じゃない?」
長坂はミトニックに目線を合わせて言う。
「待て待て、それだと結局貸金庫に行くまでに誰かに怪しまれるだろ」
「だからあいつらから制服も奪うんだよ、そうすれば遠目で見たら貸金庫に案内する銀行員と案内される客にしか見えないでしょ?ちょうど私に似たやつがいたし」
ミトニックは少し前のことを振り返る。そういえば戻るときに長坂と同じような髪の若い女性銀行員がいた気がした。
「あの時のいい作戦ってそういうことだったのか。しかし、そううまくいくのか?」
「まあさすがにほかの銀行員と出くわしたらバレるだろうけど、私のスキャン能力でほかの職員の近くを避けて動けば大丈夫だよ」
「でもどうやってそいつからカードと服を奪うんだ?今はカウンターの向こう側にいるんだろ?誰にもばれないようにやるのは厳しいぞ」
ミトニックは顔をしかめた。
「そいつの特徴はさっきこの目で見たから、今からでもスキャン能力で追跡できるの。退勤後にちょうどいい機会を狙えるよ」
「なるほど...日をまたぐ長期戦になるが、作戦自体は悪くなさそうだ。正面から堂々と銃をもって突入するよりははるかにましだろう」
長坂は誇らしげに笑った。長坂は感覚を研ぎ澄まし、茶色のおかっぱ頭、タイトスカートなどの色と形状を頼りに、あの女性銀行員を探し出した。感覚的に彼女との位置関係を掴み、動きを追い始めた。
「あいつまだ中にいるよ、退勤し始めた時が作戦開始の合図だね。その間に銃と睡眠薬の準備はしておこうよ」
「ああ、了解だ」
そうしてしばらく時は過ぎ、周囲は薄暗い雨雲の景色から、夜の暗闇へと変わっていった。客はどんどん少なくなっていき、職員も退勤し始めた。暗くてよく見えないが、長坂はあの女性銀行員を、超能力で感知して動きを追う。あの女も、バッグを持って外に出てきている。
「出てきた!そのまま道のほうに行ってる。追いかけるよ」
長坂は車のエンジンをかけ、駐車場を出て、帰宅する女を追いかける。夜の街にはまだ電気が灯っている。感覚を研ぎ澄まして銀行員を捉えながら、車道を徐行していく。
しばらく追いかけていくと、人通りの少ない住宅地に入っていった。そこには、中ぐらいの高さの平たいマンションが建っていた。長坂は道路のわきに車を停車させる。
「いくよ!」
「おう」
二人は慌てた口調で言うと、ドアを開けて外に飛び出していった。長坂が先導し、少し速足で銀行員を追いかける。マンションのロビーに入ると、すでにあの女はロビーを通過して奥に進んでいた。管理人はいないようだが、鍵がないと入れないようになっている。
「これ、あなたの能力でなんとかできる?」
長坂は少し慌てている。
「まかせとけ」
ミトニックはロビーの端末に手をかざす。数秒がやけに長く感じられた。電子音が鳴り、自動ドアが開くと、二人は駆け足であの女を追いかける。エントランスを抜けて、マンションの階段を駆け上がると、あの女は外廊下を歩いている。長坂はミトニックの前方を手でふさぐ。ミトニックは一歩下がり、長坂はそのまま足音の一つも立てずに女に近づく。女が自室に入ろうと向きを変えたとき―長坂は女の背後から襲い掛かり、右手を彼女の口に押し当てた。女は声を上げようとするが、手のせいで息が詰まる。
「声を出さないで、今何されてるかわかる?」
女の背中には、冷たい金属が押し当てられている感覚があった。




