第1話 貴方と出会えて
豊かな国であるカプノース王国
各地に美しいと称される場所は幾つかあるが、最も美しいと噂されるのはこの庭園だ。
そこには国のあらゆる地に咲く美しい花々や各国から贈られた花々が蘭々と咲き誇り、誰もがこの庭園へと足を踏み入れてみたいと思い馳せている。
しかしながらそこには誰も踏み入ることを許されてはいない。
その美しい庭園には聖女が住まう神聖な場所であり、只人が立ち入る事など決して許されるものではないのだ。
何人も入ってはならない…
だが、時としてそれは神の導きか運命の悪戯で破られてしまう事がある。
この日、それは破られ彼等は出会う事になる。
それは素晴らしく尊い出会いであると同時に、二人を待つ運命は過酷で残酷なものだ。
これは物語の始まり。
彼等の…いや、この世界の始まりでもある。
いつもの様に花々に水をあげたり土いじりをしていた時だった。
汗を拭いながらふと空を見上げると太陽が高く昇る位置に人影の様なものが見えた
首を傾げているとその人影が段々と大きくなっている事に気が付き、その人影が落ちてきている事に気がついた。
咄嗟に風の魔法で吹き上げその人物に守護結界をはりそっと地面へと下ろした
土埃が舞う中、自身に結界をはりつつ地面に横たわっている人の方へと一歩ずつ近づいていく。
結界を張ったから怪我はしていないはず…覗き込み確認してみる。
一番に目に入った美しい赤髪に目を見張り見詰めてしまったけれど首を振り
その人の頬と右側の瞼が腫れ上がっている事に気がつき、慌てて回復魔法をかける。
他にも怪我がないか魔法で探ると何処もかしこも傷だらけでかなり危険な状態だという事が分かった。
今度は治癒魔法と回復魔法を使い、折れた骨や傷ついた内蔵を綺麗に元に戻していく。
苦しそうに眉を寄せくぐもった声と荒い息をしていたけれどそれも段々と落ち着いたものになっていく。
顔色も良くなってきた所で止めた
魔力の相性があるからどれ位で起きるかは分からないので風魔法でそっと浮き上がらせ自室のベッドへと運び寝かせる事にした。
その瞬間、先程まで目を閉じていた少年が何処から出したのか刃物を首に押し当てた
「お前、誰だ。ここは何処だ!」
子供とは思えない程の力で後ろから腕をまわされ身動きがとれない様にされ、下手に動くと喉をかき斬られてしまいそうだ。
慎重に落ち着かせるように出来るだけ穏やかな声で言った。
「私はセリー、ここは庭園だよ。貴方は何故か空から落ちてきたんだよ」
彼は深呼吸した後、黙り込んだ。
何やらブツブツ言いながら顔を顰めたかと思うとその後すぐに大きく息を吐き出すと痛い程締め付けられていた力が緩んだ。
「どうやら、世話になったらしいな…
まぁ、お前みたいなチビどうとでもなるか」
そう言って腕を離してくれる肩を強く押されよろけながらも彼の方を振り返ると彼と視線が合った
息を飲む程に美しいその赤い瞳は太陽の様に輝いていた彼という存在を目に焼き付けられる様に少しの目の痛みなど気にせずにその姿を見つめていた。
暫くお互いを見つめ合ったが彼の方が痺れを切らせた様に言った。
「おい、お前。一体、何者なんだ?チビの癖に回復魔法が使えるのか?」
またも聞き捨てならない言葉が聞こえたけれど聞かなかった事にして言葉を返す。
「そうですよ」
彼は眉を寄せこちらを見ていた視線を逸らした。
「お前達の様な高貴な奴らは俺達みたいな奴が死んだって何とも思わないんだろ…どうしてお前は俺を助けたりしたんだ?」
苦しそうに胸を抑え必死に睨みつける姿を見ていたくなくて必死に首を振って言葉をかける。
「いいえ、そんな事は決してありません。
貴方ににどんな辛い事があったのか分かりませんが…私は絶対にあなたを傷つけたりしません、約束します」
ふっと笑い首を振って嘲る様に言った。
「傷つけないだって?はっ、だろうな。
お前みたいなチビが俺にかすり傷ひとつつけられる筈がない」
そのまま去って行こうとする彼の袖を引っ張り引き止めた。
彼は眉を寄せ不快そうに腕を振り払い言った
「なんだよ!…あ〜、礼でもしろってか?
そうだよな、俺みたいな下賎なやつが高貴なお前に助けられたんだ。…で?何も無い俺から何を奪ろうってんだ?…俺は助けてくれなんて言ってねぇ」
「いいえ、違うのです。治癒したとはいえまだ体力は然程戻っていないはずです。少し休んでいっては如何ですか?」
「そんな事言って大人達が来るのを待ってんだろ?
いいから離せよ…殺されたいのか?」
彼の手からは禍々しい黒いナイフの様なものが握られていた、先程までは無かったからきっと魔法で作り出したのだろう。
「ここには、誰も立ち入れません。ここに住まうのは私だけです」
「こんな所にお前一人?、使用人や世話役は?居ないなんて嘘だろうが」
「…いま、せん。ずっと、私は1人なのです。
世話役も、使用人もこの屋敷から離れた所から決まった時間にしか来ませんし、何よりこの庭は神聖な場所。誰も立ち入ることは許されないのです」
埒が明かないと言ったように彼はきょろきょろと辺りを見渡した。
「はっ、神聖な場所…ねぇ
そんな所に俺が居てもいいのか?お前の大事な場所が汚れちまうんじゃねぇの。…分かったらさっさと帰らせろよ」
また、歩き出そうとした彼の手を取って縋り付くように握った。
「…っ!いい加減にしろよ!
俺に構うなって言ってんだろうが!!何がしたいんだよお前は!?」
どう、したい…此処から此処から出たい。
一度でもいい、少しだけ少しだけ外に!
「…お願いです。私も外に連れて行っては下さりませんか?一度も外に出たことが無いのです……」
「はぁ?お前を連れて行けって?
馬鹿じゃねーのなんで俺がそんな危険な事しなきゃなんねんだよ」
必死に握っていた手も振り払われてしまう。折角のチャンスだ、こんな事きっともう二度と無い。
「お願い…です。わたし、私も連れて行って下さい」
抑えきれない涙を流し彼の袖を掴みながらしゃがみこんでしまう。
「…なんで、外になんか出たいんだ?
お前みたいな奴に外は危ないぞ、それに俺が帰るのはスラムだお前なんか絶対に耐えられねぇぞ。
間違いなくすぐ死ぬ」
溜息をつき心底分からないと言った風に眉を寄せる
「…構いません、此処から出られるのなら」
両手を組みコクコクと頷く。
でかい溜息を吐きながら首を振り頭を掻きながら言った。
「仕方ねぇ、連れて行ってやるけど…
途中で面倒になったり危険になったらお前を放っていくぞ。それでもいいなら連れて行ってやる」
片眉を上げ脅す様な口調で言った。
それに分かりましたと言って笑って返すと彼はまたも溜息をつきながらも手を差し出してくれた。
「それじゃ行くぞ、囚われのお姫様。後悔しても知らねぇぞ」
その手をとりゆっくりと頷いた
「後悔なんて、しません。よろしくお願いします」
この屋敷から出る為に計画を立てる事にした。
まず、この庭には沢山の花々の奥には鋭い棘が壁に張り巡らされておりその上、高いので壁からの脱出は困難だ。
コイツの使用人が来る時間は朝に一度、昼に一度、そして夜に二度来るらしい。
夜には門番や、見回りが屋敷の周りをうろうろしている為、特に困難となるそれは朝も同じで昼は門番だけとなるので今のこの時間が一番絶好の機会らしい。
しかし問題なのがこの門番なのである。
どうやら、この屋敷の出入口はあの門しか無いらしく非常時の隠し扉すら無いのだとか。
「しかしなんだ、こんな必要以上の厳重さ一体、何が隠されてるっていうんだ?
…それに出入口があの門しか無いというのも気になる。普通は非常時の抜け道くらいあるものだろう?」
腕を組みながらぼやく、どうしたものかと考えているとあいつがカップをふたつ乗せたトレイを持ちながら部屋へ入って来た。
美しく長い白銀の髪を揺らしトレイに乗ったカップをひとつこちらに差し出してくるそれを受け取り一気に飲み干す、それは甘く今まで飲んだ事がないような上品な味がした。
「どうですか?出られそうですか?」
わくわくしたように希少な金色の瞳を輝かせながら聞いてくるので首を振り答えた。
「普通には無理そうだ。…少し、危険だがもうこれしか方法も無いな…」
ニヤリと笑い細かい計画を立てていく。これならきっと上手くいくだろう。
「ふふっ、貴方って笑えるんですね。
危険な事なのに、何だかとっても楽しそうですね」
形のいい赤い唇の元に手を当てクスクスと笑う。
何故か視線を逸らしてしまい何となく恥ずかしくなりそれを悟られないようにわざっと怒ったように言った。
「お前、俺を何だと思ってんだ。」
するとさっき迄笑っていたあいつが頬を膨らませて言った。
「お前ではありません。私は名乗ったのですからセリーと呼んで下さい」
「はぁ、いいか。言っておくが、ここから出たあとは俺達は一緒にいる道理がねぇ訳だ。だったら仲良くなんてなる意味も無い。お前の名前なんかどうでもいい」
「そんな、連れて行くと言ったのですからちゃんと最後まで責任もって下さい!」
今度は泣き出しそうな顔で子供らしく駄々をこね始めやがった。呆れて溜息をこぼすと肩を震わせ始める。
「責任?、俺が、なぜ取らなければならないんだ?
ここから出たいと言ったのはお前だ。
外が危険な事も話したよな?それでも出たいって言ったのは全部お前の意思だろ?それで、何故俺がお前のお守りなんてしなきゃならねーんだ?」
これは、遊びじゃねぇしガキがどこまで理解してんのかも分かんねぇけど足を引っ張られんのだけはごめんだ。
「それで?どうする、それを踏まえてもう一度聞いてやるよ。お前も来るのか?…来ないのか?」
潤む金色の瞳と目を合わせ探る様に見詰めたがその瞳が一度、閉じ暫くして開いた瞳には揺るぎない眼差しがそこにはあった。
「…出たい、です。1人でも、頑張って生きていきます。だから、だからどうか!」
両手を組み懇願する様に必死に言ってくるので、俺はひとつ頷いてから作戦について話しを始めた。
一通り、話し終わりもう一度、あの瞳を見ると変わらず輝く強い眼差しに何となく心臓の辺りがざわついた気がした。
「……リオ…」
咄嗟に言葉が出ていた。慌てて口を塞いだがあいつには聞こえていたらしく首を傾げていた。
「だから、名だよ。…リオだ今は、そう呼べ」
ただ名を教えただけなのにあいつは嬉しそうに笑った。その表情にまた、心臓がざわついた。
感じたことの無いこのざわつきにむず痒さを感じ寝るっと言ってとりあえず仮眠を取ることにした。
「…なんで、お前も来るんだ」
一度、離れようと思ったのにあいつは何故か一緒のベッドに入り込み背中にぴっとりとくっついていやがる。
「…離せよ、気色悪い」
腹に回っている腕を剥がそうとすると更に力を込めて離れまいとしていた。女とは思えない力に驚きはしたが大した事のない力だ、剥がそうと思えば剥せるが…
無理にやろうとすると細っこい腕が折れそうでそうも出来ない。
何度目かの溜息をつき諦めるとあいつがまた力を込めて今度を頭を擦り付けてきやがった。怒鳴ってやろうと振り返ると何故か涙を流していた。
「だって…ぅう、だって。久しぶりなんです。
この、人の温もりが。とっても…暖かくて」
このチビは本当にガキだな、なんて思いながら俺の周りにいるガキ共の事を思い出しつい頭を撫でてやる。
驚いた様に顔を上げ涙を浮かべながらも蜜のように金色の瞳を蕩けさせふふっと笑っていた。その表情に心臓がドキリと鳴ったが落ち着けさせるように
「ガキが、ちび共と一緒だな」
ひっそりと呟いた筈の言葉は聞き取られていて今度は顔を顰めさせ少し怒ったように言った。
「失礼ですね、私はそんな子供ではありません!
貴方よりきっと、年上ですよ。私は、16ですもの」
驚いて目を見開く。いや、そんな風には見えない
見えたとしてもせいぜい、12〜13位のものだろう。
それならもう少し育つものが育っていてもいいと思うのだが。
と首から下を不躾にも見ているとあいつは何故か焦った様に「そう言う貴方は幾つ何です?」と言ってきた。
「…14、2歳位なんて変んねぇだろ。同い年みたいなもんだろ」
そう言いながら背を向けもう何も話すことは無いと黙った。あいつもおやすみなさいと言った少し後に穏やかそうな寝息が聞こえ始めた。
静寂に包まれ一切の灯りが消えた頃、俺達は起き上がりあいつの世話役が来るのを待った。
暫くすると部屋の外から足音が聞こえドア前まで来るとノックされる。俺は扉横の壁に隠れている。
「失礼します」と言って入って来たその瞬間、魔法を発動させ黒い影をそいつの身体を包み込み眠らせた。
そして予め用意していた包帯を手足にきつく巻き付けすぐには追いかけられない様にした。
脱がせておいた衣服に着替え成り代わる算段だ。
女だと思っていたのであいつに着させようと思ったが男が来たので俺が着ることにだが
成人男性の服だぶかぶかになるが仕方が無い、身長は俺の魔法で足元を盛る。
そして、俺の魔法であいつの姿が認識出来ないように全体を覆いこれで偽装して外に出る。
こんな事がバレれば、捕まればきっと殺されるだろう。だが、そうも言っていられない。
腹を括り部屋の外へと出る、あいつの言う通り確かに人の気配がしない…これなら行けるな。
そうして門番の横を通り過ぎたその瞬間、だった。
一人の門番が声を掛けてきた。
「お待ちを……何時もより少しばかり時間が掛かっていた様ですが…何か問題でも?」
その声を聞いた途端、セリーが俺の袖を掴みこちらを見上げて首を振り口を動かした。何が言いたいのか分からず動く唇をじっと見詰めているとまたも、男が言った。
「どう……しましたか?」
肩を掴まれる、その力は凄まじくギリギリと砕かれそうな程握りこまれる。
横から見ていたセリーが大声で叫んだ。
「逃げて!」
セリーが俺を強く押したその瞬間、俺の魔法の範囲外から出たセリーの姿が夜闇に浮かび上がってしまった。
「…っ!セリニオ様!何故、外に居られるのですか!」
そう言って俺の肩を掴んでいた男が今度はセリーの腕を強く掴んで怒鳴っていた。
「外になど…貴方様が出たと陛下が知られれば何をなさるか……貴方はご自分の立場を分かっているのですか!?」
「…っ、いっ!…ごめんなさい、ごめんなさい」
涙を流しながら謝るセリーに男は眉を寄せながらしっかりと腕を掴み今度はこちらに視線を移し睨みつける。
「…お前か、お前がセリニオ様を誑かしたのだな?
この方がどれ程、尊い方か、お前になど分からないだろうが……連れ去るなど…万死に値する」
咄嗟に黒い剣を作りだし構えると先程までセリーのそばに居た姿が消え俺の目の前に踏み込んで来ていた。
振り降ろされる剣を慌てて弾くととてつもない重さに手が痺れた。なんて、威力!これをまともに受ければ…死……
「止まりなさい!…オデュセウス!!彼は、彼は関係ありません。
彼は誤ってこの屋敷に落とされたのです!」
首に刃が当てられた状態でピタリと止まった剣はカタカタと震えていた。
男の黒い右目がこちらを鋭い目つきで睨み続ける何かに抗うように息を荒くしながら剣を下ろそうとしない。
「オデュセウス……下ろしなさい」
静かな声は静寂の中響き渡り男の耳に届いたのか、落ち着きを取り戻したかの様に先程までカタカタと音を立てていた剣から力を抜き命令通りに下ろした。
俺はその場で崩れ落ちる。そんな俺にセリーが膝をつき手を差し出す。「立てますか?」その手を振り払った。
「…お前、こうなる事…分かってたのか?」
唇を噛み唸るように返事を待つがその答えは帰ってこない。
「…いいえ、そうではありません。
ただ、もしかしたらこういう事が起こるかもと思ったので私も外に出たのです。
貴方に…死んで欲しくなかったから。
…上手く行けば…とは願いましたがそう、上手くはいかないものですね?」
あの庭の時とは違う、泣きそうな笑みを浮かべてそう言い、黒髪のオデュセウスと呼んでいた男の方へと歩いていく背に向かって初めてその名を呼んだ。
「セリー!…行くな!!…俺と行くんじゃ無かったのか!?」
そう、何故か口にしていた。
自分でも驚いた様にハッとしたがもう一度名を呼ぶ。
こちらを振り返ったセリーは涙を浮かべ腕をピクリと動かしたまるで、こちらに手を伸ばそうとする見たいで、俺もそれに呼応する様にセリーに腕をのばし掌を広げて叫んだ。
「セリー!!!」
涙を流し腕をこちらに伸ばし踏み出そうとしたセリーをあの男が抱き込むように後ろからセリーの腹に腕を回した。
「薄汚い小僧が!…セリニオ様を連れて行くだと?ふざけた事を言うんじゃない!!やはり、お前はこの場で殺しておいた方が良いみたいだな?」
再び剣を握りしめる男にセリーは腹にまわる腕に触れ首を振り剣を収めるように促した。
「…リオ、良いのです。…貴方は帰る場所があるのでしょう?だから…貴方は生きて、帰らなければなりません。
私の事は、忘れて下さい…貴方の幸福を祈っています」
「セリー様、しかし、この者は禁忌を侵したのですよ?!どんな事情であれ、立派な罪人だ。陛下にどうご説明するつもりです?」
「…全ての罪は私に。彼は無辜の民、彼も飛ばされてきた被害者なのです。罰せられるには、重すぎます。どうか、陛下には内密に……」
黒髪の男はでかい溜息をつき、その直後、声を張り上げ言った。
「セリニオ様…分かりました。
小僧!いいか、30秒やる。私が目を瞑っている間は見逃そう!分かったらさっさと消えろ!!」
暫く呆けているとセリーがこちらに微笑みかけ首を振って静かに言った。
「…行ってください。リオ…さようなら」
地面に手をつき土を握りしめぱっと手を離しセリーと目を合わせて叫んだ。
「俺が…俺がいつか此処からお前を解放してやる!
俺は今はまだ弱い、必ず強くなって必ず、お前を迎えに来る!!」
それに青筋を浮かべた男の隠れていた左側の瞳は赤く光怒りのあまりか血走っていた。
それは悪魔のような形相で腰にあった短剣をこちらに投げた。
「まだ言うか…小僧!さっさと消え失せろ!!
いいか、二度はない。セリニオ様の命で見逃すだけだ」
俺はその短剣を避け無かった。
それは頬をかすり地面に突き刺さった。
俺は何も言えずただ、涙に濡れる金色の瞳を頭に焼き付けるように見つめ、誓うようにあいつに拳を突き出し走り去った。
あぁ、行ってしまう。
行かないで貴方と、貴方と一緒に行きたかった…
溢れる涙を拭いながら今はもう見えなくなった姿にひっそりと呟いた「…待ってる」
「あぁ、セリニオ様。お可哀想に、あんなガキのせいでこんなに傷ついて…貴方は此処から一生、出られないのですよ……」
腕を回したまま剣を収め今も涙を流し続けているセリニオ様を両腕でしっかりと抱きしめる。
耳元で囁いた言葉にセリニオ様は肩を揺らし腕を離すように促され言った。
「分かっています。……ちゃんと分かっています。
私は聖女の息子、決して知られてはいけない。
これは王家の秘密、私の存在は知られてはならない」
セリー、セリー、待っていてくれ。
必ず、必ずお前を迎えに行くから。俺は、誰よりも強くなってやる。こんな、こんなクソみたいな世界ひっくり返してやる。




