表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/98

第96話『退いた後で──中心が見る景色』

中心から一歩、退いた。

その感覚に、まだ慣れてはいない。


朝、執務室に入ると、

机の上はいつもより整っていた。

書類は少ない。

急を要する赤印もない。


「……何も、ありませんね」


リュシアンが、半ば確認するように言う。


「ええ」


私は、椅子に腰掛けながら答えた。


「だからこそ、

見ることがある」


午前中、私は意識的に、

指示を出さなかった。

報告も、最低限しか求めない。


代わりに、

“流れ”を眺める。


判断が上がり、

処理され、

結果だけが静かに戻ってくる。


速度は一定。

ばらつきもある。

だが、詰まりはない。


「……不安は?」


ミレーヌが、控えめに尋ねる。


「少しは」


私は正直に答えた。


「でも、

それは必要な不安よ」


退くと、

中心は弱くなる。

少なくとも、

そう錯覚する。


だが実際には、

別の役割が立ち上がる。


午後、現場から一件だけ、

例外に近い判断が上がってきた。


結論は妥当。

理由も丁寧。


ただ一つ、

これまでなら必ず確認したであろう点が、

触れられていなかった。


私は、指摘しなかった。


その代わり、

静かに返した。


「この条件について、

どう考えましたか」


問いだけ。


数時間後、

追記が戻ってくる。


「当初は軽視しましたが、

協議の中で再検討しました」


それで十分だった。


中心が前に出なくても、

問いは届く。


夕方、港を歩く。

風は穏やかで、

人の足取りも軽い。


「……最近、

あなたを探す人が減った」


ガイルが、冗談めかして言う。


「いいことね」


私は、微笑む。


「必要な時だけ、

見つかればいい」


夜、執務室で一人になる。


退いた後で見える景色は、

広い。


細部は、

現場に任せる。

中心は、

全体の歪みを見る。


それは、

静かで、

孤独な役目だ。


だが、

この距離だからこそ、

分かることがある。


組織は、

私が動かさなくても、

ちゃんと動いている。


その事実を、

今日、はっきりと感じた。


私は、灯りを落とす。


退くことは、

終わりじゃない。


次に備えるための、静かな立ち位置なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ