第85話『戻ってくる声──中心が試される時』
委ねた判断が、形になり始めた頃。
それは、少し遅れて戻ってきた。
「……異議、です」
そう告げたのは、分担例外の二件目で選ばれなかった側の代表だった。
声は荒れていない。
だが、引いてもいない。
「理由は?」
私は、席を勧める。
「少数意見が、
切り捨てられたように感じました」
率直な言葉だった。
だから、軽くは扱えない。
「切り捨ててはいない」
私は、即答しなかった。
少しだけ、間を置く。
「……残した」
代表は、眉を寄せる。
「結果は、同じでは?」
「違う」
私は、机の引き出しから、意見書の写しを出した。
「ここに、残っている」
紙を指で軽く叩く。
「条件が変わった時、
一番先に見直されるのは、
この意見よ」
彼は、黙って読む。
「今回は、
条件が揃っていなかった」
私は続ける。
「でも、
否定はしていない」
しばらくして、彼は息を吐いた。
「……聞いてもらえた、
という感触はあります」
「それなら、十分」
私は、そう言った。
中心は、
決断する場所だ。
だが同時に、
声が戻ってくる場所でもある。
夕方、リュシアンが報告に来る。
「同様の問い合わせが、
他にも二件」
「不満?」
「確認、ですね」
私は、頷く。
「いい流れよ」
不満は、隠されると腐る。
出てくるうちは、健全だ。
夜、執務室で一人になる。
判断を委ね、
戻ってきた声を受け止める。
それは、
少しだけ疲れる。
だが、逃げれば、
中心は空洞になる。
私は、椅子に深く腰掛け、
今日の出来事を整理する。
委ねるだけでは、足りない。
戻ってきた時に、
向き合う必要がある。
中心とは、
静かに受け続ける場所だ。
その覚悟を、
また一つ、確かめるのだった。




