第83話『委ねた先──動き出す判断』
例外判定を分けてから、三日。
現場は、予想以上に静かだった。
「……止まってはいません」
ミレーヌが、朝の報告でそう言う。
「むしろ、
少し早いくらいです」
私は、頷いた。
「迷いが、
共有されたからね」
例外を一人で抱えない。
判断を三人で擦り合わせる。
理由を言葉にして残す。
それだけで、
空気は変わる。
午前中、最初の“分担例外”が上がってきた。
三人分の意見書が添えられている。
結論は、割れていない。
だが、理由が違う。
「……いい」
私は、短く言った。
「そのまま通して」
リュシアンが、少し意外そうな顔をする。
「修正は?」
「不要」
私は答える。
「理由が、
それぞれ立っている」
正解が一つじゃない判断。
だが、どれも筋が通っている。
午後、二件目。
こちらは、割れていた。
三人の意見は、二対一。
少数意見も、丁寧に書かれている。
「……上げてきました」
担当者の声は、緊張していた。
「いい判断よ」
私は言う。
「“割れた”ことを、
隠さなかった」
最終判断は、私がした。
多数意見を採る。
だが、少数意見も、
記録に残す。
「次に、
条件が変わったら、
再検討する」
そう添えた。
夕方、ガイルが腕を組む。
「任せたな」
「ええ」
私は、少しだけ微笑む。
「戻ってきた時だけ、
受け取る」
「楽になったか?」
「違う」
私は首を振る。
「重さが、
形を変えた」
夜、港を見下ろす。
灯りは、以前より多い。
だが、騒がしくはない。
動いているのは、
私の指示ではない。
現場の判断だ。
中心は、
全てを動かす場所じゃない。
動いた結果が、
戻ってくる場所。
委ねた先で、
判断が育つ。
それを、
今日は確かに感じた。




