第81話『集まる視線──中心が生まれる音』
責任の置き場が定まると、人の動きが変わった。
「……最近、報告が増えています」
ミレーヌが、少しだけ困ったように言う。
「悪い内容?」
「いえ。
むしろ、その逆です」
私は顔を上げる。
「判断を仰ぐ前に、
“どう思うか”を添えてくるようになりました」
それは、変化だった。
指示待ちではない。
だが、勝手でもない。
「考えてから、来ている」
「はい」
ミレーヌは頷く。
「皆、自分の意見を持った上で、
最後の確認として持ち込んできます」
私は、しばらく黙った。
中心が、生まれ始めている。
午前中、現場責任者たちとの定例会。
以前より、発言が増えた。
「この場合は、基準的にこちらかと」
「前回の判断と、整合性は取れています」
誰も、私の顔色をうかがわない。
代わりに、基準を見る。
「異論は?」
そう問うと、沈黙が落ちる。
だが、それは思考の沈黙だ。
「……一つだけ」
若い管理役が、手を挙げた。
「この判断、
半年後も同じでいいでしょうか」
いい質問だった。
「条件が変わらなければ」
私は答える。
「変われば、見直す」
彼は、深く頷いた。
「記録、残します」
会議が終わる頃、
誰かがぽつりと呟いた。
「……楽ですね」
私は聞き返す。
「何が?」
「決め方が」
その言葉に、
何人かが、静かに笑った。
午後、港を歩く。
視線を感じる。
だが、探るようなものではない。
確認するような視線。
基準点を見るような。
ガイルが、小声で言った。
「集まってきてるな」
「ええ」
私は答える。
「“私”に、じゃない」
「中心、か」
「そう」
中心は、主役じゃない。
全てを引き受ける存在でもない。
判断が、戻ってくる場所。
迷った時に、確認される場所。
夕方、シグルが報告に来る。
「外からの接触、
形が変わった」
「どう?」
「裏からじゃない。
正式な書面ばかりだ」
私は、軽く息を吐く。
「遠回りが、
無意味になったのね」
夜、執務室で一人になる。
静かだ。
だが、孤独ではない。
中心に立つと、
音が減る。
その代わり、
重さが集まる。
私は、その重さを受け止める。
揺れないように。
押し返さないように。
ここが、戻る場所だと、
誰もが知っているから。




