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悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


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第73話『残る声、去る影──名が選別する夜』

採用の最終結果が掲示されたのは、翌朝だった。

港の管理棟前。

簡素な紙一枚。


名前は多くない。

だが、その前に立つ人影は、想像よりも多かった。


喜ぶ者。

肩を落とす者。

無言で紙を見つめ、立ち去る者。


「……静かですね」


ミレーヌが、小声で言う。


「ええ」


私は頷いた。


「不満が爆発しないってことは、

皆、薄々分かっていたのよ」


理由を。

基準を。

そして、この場所の“重さ”を。


昼前、選ばれなかった者の一人が、私の前に立った。

若いが、目は鋭い。


「理由を、聞いても?」


「いいわ」


私は即答した。


「でも、慰めは言わない」


「それでいい」


彼は、唇を引き結ぶ。


「君は、能力はある」


私は言った。


「でも、“早く上に行きたい”って気持ちが先に立っていた」


彼は、図星を突かれたように息を詰めた。


「悪いことじゃない」


続ける。


「でも、ここは

“積み上げる場所”なの」


しばらく沈黙が流れ、やがて彼は深く頭を下げた。


「……分かりました」


去り際、その背中には、悔しさと同時に納得があった。


午後、シグルが静かに報告する。


「影が、動いた」


「蒼月の翼?」


「いや……残党だな。

名を利用できないと分かって、引いた」


「去るのは?」


「痕跡を消して」


私は短く息を吐く。


「分かりやすい」


名は、盾にもなる。

だが、同時に、踏み絵にもなる。


夕刻、採用された者たちを集めた。

多くは語らない。


「期待はしない」


そう前置きして、言う。


「信頼は、これから作る」


誰かが、強く頷いた。


「ここは、厳しい」


続ける。


「でも、不条理じゃない」


その一言が、空気を引き締めた。


夜、港を歩く。

灯りの数は、昨日と同じ。

だが、立っている人の顔が、少し違う。


ガイルが、隣で言った。


「……削れたな」


「ええ」


私は答える。


「でも、形は整った」


名が走り、

人が集まり、

そして、削ぎ落とされた。


残ったのは、声を上げすぎない者たち。

だが、足を止めない者たち。


遠くで、船が出港する。

去る影。

残る光。


私は、その両方を見送った。


選ばれなかった者も、

去った影も、

無意味ではない。


だが──

ここに残るのは、

この名の下で立つと決めた者だけだ。


夜風が、静かに吹き抜ける。


名は、もう独り歩きしている。

それでも私は、

その中心に立ち続ける。


揺らがずに。

選び続けながら。

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