表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/86

第67話『選ぶ側の覚悟──差し出された手の重さ』

視察の波が一段落した翌朝、屋敷は久しぶりに静かだった。

静けさは、休息ではなく、考えるための余白だ。


机の上には三通の書簡が並ぶ。

一つは商会連合からの共同出資の打診。

一つは隣領との物流協定案。

そして最後の一つ──王都経由で届いた、名義だけ整った「助言書」。


「……露骨ね」


私は苦笑し、三通を順に指でなぞった。


「金。

道。

そして、口出し」


リュシアンが頷く。


「どれも、甘い。

だが、代償がある」


「ええ」


私は立ち上がり、窓辺へ向かう。

港では、朝の荷下ろしが始まっていた。


「今までは、選ばれる側だった。

でも、これからは違う」


ガイルが腕を組む。


「断るってのも、勇気が要るぞ」


「分かってる」


私は振り返り、はっきり言った。


「でも、握った手が、そのまま首を絞めることもある」


午前中、最初に呼んだのは商会連合の代表だった。

応接室で向かい合い、私は前置きなく言う。


「出資、ありがたいわ。

でも、経営への口出しは受けない」


男は一瞬、目を見開いた。


「それでは、こちらの利益が──」


「保証はする」


私は資料を差し出す。


「数字で。

契約で。

信頼じゃなく、条件で」


沈黙。

やがて、男は低く息を吐いた。


「……噂通りだ。

あなた、簡単には飲み込めない」


「飲み込まれるつもりはないから」


交渉は長引いたが、結論は出た。

出資は限定的に受け、権限は渡さない。


次に、隣領との協定。

こちらは、条件が明快だった。


「道を繋ぐ代わりに、港の優先使用権を」


「優先はいい。

独占は不可」


私は即答する。


「競争があるから、価値は保たれる」


若い女領主は、私をじっと見てから笑った。


「……本当に、似た者同士ね」


協定は成立した。


問題は、最後の書簡だった。


「“助言”という名の、介入」


シグルが低く言う。


「受け取れば、王都の影が常駐する」


「ええ」


私は封を切らず、暖炉の前に立つ。


「燃やす?」


ガイルが半ば冗談めかして言う。


「いいえ」


私は首を振る。


「返す」


そして、封筒をリュシアンに渡した。


「全文写しを添えて。

“必要になったら、こちらから呼ぶ”って」


午後、その返書が出ていった。


その直後だった。

見張りからの報告が入る。


「北の街道で、不審な動き。

商隊を装った一団です」


「数は?」


「少数。

だが、統率が取れている」


私は目を閉じ、一瞬だけ考える。


「……見せに来たわね」


蒼月の翼。

直接は出てこない。

だが、“選択”の直後を狙う。


「迎撃はしない」


私は言った。


「追わない。

ただ、こちらの動きを見せる」


シグルが静かに頷く。


「影には、影で応える」


夕暮れ、街道沿いの拠点で、こちらの部隊があえて姿を現した。

整然とした配置。

過不足のない装備。


戦わない。

だが、隙も見せない。


遠目に、その一団が引いていくのが見えた。


「……踏み込んでこなかったな」


ガイルが言う。


「ええ」


私は答える。


「今は、“測り直し”の段階」


夜、屋敷に戻ると、疲労と同時に、奇妙な充実感があった。

選んだ。

切った。

繋いだ。


ミレーヌが静かに言う。


「怖く、ありませんか?」


「怖いわ」


私は正直に答えた。


「でも──選ばない方が、もっと怖い」


窓の外、港の灯りが揺れる。

増えた光と、深くなった影。


この領地は、もう流れに任せて進む場所じゃない。

舵を握り、進路を決める場所だ。


差し出された手の重さを知った今、

私はもう、軽い選択はしない。


選ぶ側の覚悟。

それが、ここで生きるということだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ