表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/87

第64話『選ばせるという脅し──揺らぐ境界線』

密書の文言が、頭から離れなかった。


――“次は、人を選ぶ”。


それは宣戦布告でもあり、試金石でもある。

刃を振るうよりも残酷なやり方だと、私は知っていた。


「……人を選ぶ、ね」


執務室の灯りの下、私は封蝋を指でなぞる。

蒼月の翼は、こちらの動きをよく見ている。

公開、集会、透明化。

すべてを理解した上で、その逆を突いてくるつもりだ。


「レティシア様」


リュシアンが静かに入室した。

彼の手には、今朝届いた報告がある。


「離脱者が、出始めています」


胸が、きゅっと縮む。


「人数は?」


「大きくはありません。

主に、商業区と港湾部。

家族単位で、隣領へ移る動きが」


ガイルが壁際で歯噛みする。


「……噂にやられたか」


「違うわ」


私は首を振った。


「“噂”じゃない。

“恐怖”よ」


恐怖は、理屈を超える。

正しい情報を与えても、

家族を守りたいという気持ちまでは否定できない。


「追わない」


私は即座に決めた。


「引き止めもしない。

ただし、条件がある」


リュシアンが視線を上げる。


「条件、とは?」


「離れる人にも、事実を伝える。

この領地で何が起きているのか、

何が危険で、何が守られているのか」


ガイルが眉を寄せた。


「それで、余計に不安を煽らねぇか?」


「隠すより、ずっといい」


私はきっぱり言った。


「恐怖は、分からないから膨らむ。

分かって、それでも離れるなら──

それは、その人の選択よ」


その日の午後、もう一つの“選択”が突きつけられた。


「レティシア様……」


ミレーヌの声が、震えている。


「ベルトランが……消えました」


一瞬、時間が止まった。


「……いつ?」


「今朝の巡回以降、姿がありません。

倉庫にも、部屋にも……」


裏切り者。

協力者。

それでも、こちらに繋ぎ留めていた“線”。


シグルが、低く言う。


「選ばれたな」


「ええ……」


私は、深く息を吸った。


「追跡は?」


「足跡は途中で消えています。

……手引きがあったでしょう」


ガイルが拳を握る。


「くそ……!」


「いいえ」


私は彼を制した。


「これは、想定内」


想定内でなければ、耐えられない。

でも──心が痛まないわけじゃない。


「蒼月の翼は、“選ばせる”と言った。

つまり、こちらの人間を、向こうに引き込む」


「見せしめでもあるな」


「ええ」


私は、窓の外を見る。

曇り空。

重たい雲が、低く垂れ込めている。


「……でも、彼らは一つ、読み違えている」


リュシアンが静かに問う。


「何を、ですか?」


私は振り返り、三人を見る。


「“選ばせる”という行為は、

同時に“選ばれなかった側”を固める」


沈黙。


「恐怖で離れる人もいる。

でも、怒りで残る人もいる」


シグルが、わずかに口角を上げた。


「分断は、刃にも盾にもなる」


「そう。

だから──ここからは、受け身をやめる」


私は机の上の地図を広げた。


「蒼月の翼が“人”を動かすなら、

私は“場所”を動かす」


ガイルが目を細める。


「……まさか」


「ええ」


私は頷いた。


「港と市場の再編を前倒しする。

仕事を、居場所を、繋ぎ直す」


「不満も出ます」


「出るわ」


それでも、と私は続ける。


「空白を放置しない。

空白は、影の居場所になる」


夜、屋敷の廊下を歩きながら、私はふと立ち止まった。

壁に掛けられた、簡素な地図。

ここへ来たばかりの頃、

何もなかった土地。


失ったものもある。

これから、もっと失うかもしれない。


それでも。


「……選ばせる、ね」


小さく呟く。


私は、選ばない。

恐怖でも、脅しでも。


ここに残る人を、

ここで生きると決めた人を、

私は、選び続ける。


それが、領主としての私の答えだ。


雲の切れ間から、ほんの一瞬、光が差していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ