表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/86

第62話『静かな刃──裏から動く者たち』

公開文書の配布が始まって三日。

領地の空気は、目に見えて変わりつつあった。


市場では噂話が増え、酒場では数字の話が交わされる。

「税がどこに使われてるか分かるって、案外悪くねぇな」

そんな声もあれば、

「余計なことを知っちまった気がする」

と、不安を滲ませる声もある。


光が差せば、影もまた濃くなる。


「……来ましたね」


リュシアンが差し出したのは、一通の匿名文書だった。

差出人なし。

だが、筆跡も紙質も、明らかに“素人”ではない。


「“領主による財政操作の疑い”。

ずいぶん具体的ね」


私は目を通しながら、静かに言った。


「数字を知ってる者の書き方だ」


ガイルが舌打ちする。


「内部か?」


「可能性は高いわね。

少なくとも、公開前の資料に触れている」


ミレーヌが不安そうに言う。


「領民に広まったら……」


「広まる前に、こちらから出す」


即答だった。


「隠さない。

反論も、証拠も、全部セットで」


「正面から潰すってことか」


「ええ。

裏で刃を振るう相手には、光が一番効く」


その夜、もう一つの“動き”があった。


警備交代の時間。

外れの見張り塔で、異変が起きた。


「侵入痕あり。

だが、物的被害はなし」


報告を受け、私は眉を寄せる。


「……探りね」


シグルが静かに頷いた。


「蒼月の翼のやり方だ。

襲わない。

だが、“入れる”と示す」


ガイルの表情が険しくなる。


「脅しかよ」


「警告でもある」


私は立ち上がった。


「なら、返事をしないと」


見張り塔へ向かう途中、夜風が冷たく頬を打つ。

星は明るい。

静かすぎるほどに。


現場には、足跡が一つだけ残っていた。

意図的に、消されずに。


「……伝言ね」


私はその跡を見下ろし、言った。


「“見ている”って」


シグルが低く告げる。


「こちらも、見返す必要がある」


「ええ」


私は振り返り、彼を見る。


「影の中で戦うのは、あなたの役目。

でも、線は越えない」


彼は一瞬だけ目を伏せ、やがて頷いた。


「承知した」


屋敷に戻ると、机の上には新たな報告書が積まれていた。

他領からの問い合わせ。

連携の打診。

そして──沈黙。


王都からの、完全な沈黙。


「一番厄介なのは、これね」


リュシアンが言う。


「動かないという“動き”」


「ええ。

だからこそ、焦らない」


私は深く息を吸う。


「相手が刃を隠すなら、

こちらは盾を磨く」


その夜、私は領地全体の防衛配置と、情報経路の再確認を指示した。

攻めるためじゃない。

立つために。


窓の外で、風が木々を揺らす。

静かな音。


でも、その静けさの奥に、確かな殺気が潜んでいるのを、私は感じていた。


それでも──

私はもう、怯えない。


表で、正面から、選んだ道を歩く。

影が何を企もうと、その覚悟は揺らがない。


夜明けは、必ず来る。

その前に、どれだけの刃が交錯するか──

それだけの話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ