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悪役令嬢に転生した元OL、婚約破棄で辺境追放されたけどチート生産スキルで大繁栄! 今さら戻ってこいと言われても、もう遅いですわ!  作者: 和三盆


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第38話『決断の刃──追い詰められた選択と、告白の余韻』

朝靄が薄れて、村の輪郭がはっきりしてくる。屋敷の窓から見下ろすと、畑と道と屋根が格子模様のように整っていた。ローデンの暮らしは小さな歯車の連なりで回っている。だが今、外側の歯車がこちらの歯車に触れ、軋ませ始めているのだと私たちは知っていた。


「連盟が、明日の夜に交易路を完全封鎖する構えだという情報が入っている」リュシアンが短く切り出す。彼の声に余計な装飾はない。机の上には赤いスタンプの押された文書がひとつ、幾つかの地図と一緒に置かれている。地図には、我々の主要な収送路と補給点が赤線で囲われていた。


ガイルが黙って地図に目を落とす。彼の拳は固く、指の関節が白い。

「封鎖されれば、数日で主要な備蓄が危うくなる」彼は短く言う。現実はいつも淡々としていて、感傷には向いていない。


私は一瞬だけ窓の外を見てから、静かに立ち上がった。決断の時間だ。戦術を決めるのは早いが、私の決め方は常に一点を軸にしている──「なるべく村を傷ませずに、持ちこたえること」。力を持って潰すのではなく、相手の理を崩す。だからまずは、内側の信頼を極力強固にする。


午前は住民への説明と最終的な分配調整に当てた。広場で私は端的に話した。

「明日は外部の圧力が強まります。物資は計画どおり分配します。だがパニックで奪うことは許しません。私たちは互いに守り合う。疑心が生まれたら、まず広場に来てください。話し合いましょう」


トマスが杖をつきながら私の横に来て、低い声で言った。

「言葉で安心させるのは簡単じゃないが、あんたの言葉は届く。皆、今日の夜はぐっすり寝られるとは思わねえが、戦える気にはなるだろう」


昼、リュシアンと私は封鎖に対する“奇策”の最終案を詰めた。彼は金融的なトラップを使って相手の資金網をより露わにする準備を進めている。私はその一方で、外交的に“正面”へ出る手も用意していた。アレン王子を通して公国の市場保証を明確にさせ、王都へ向けた公的な抗議文を整える。物資が動かなくなっても、市場が閉ざされればローデンだけが困るのではない――公国や王都の商人にも損が及ぶことを、はっきりと示すつもりだ。


夕方、私が屋敷の裏手で書類に目を落としていると、一通の小包がエイナから手渡された。封を切ると中にあったのは、小さな布袋と一枚の手紙。手紙は震える文字でこう書かれていた。


「レティシア様へ——私、昨夜の件で告白します。私が連盟側と接触していました。借金のために、頼まれた物資の受け渡しを手伝った。今は心が痛む。村に謝りたい。どうか……許してほしいなら、広場で話をさせてください。——ミカ」


ミカ。小さな雑貨屋の若い男だ。彼はいつも明るく、子どもたちに飴をくれるような存在だった。私は瞬間、胸が締め付けられるのを感じた。裏切りは簡単に決めつけられるが、その背後には事情がある。彼の手紙は、罪の告白であり、赦しを乞う行為でもある。


私はすぐに彼を呼んだ。薄暮に包まれた広場に、人はまばらだ。ミカは真っ直ぐ私の前に立ち、逃げるように目を伏せる。村人たちが集まり出し、空気は重くなる。私は深く息をつき、声を絞り出した。


「ここであなたが何をしたか、皆知りたいでしょう。だがまず聞かせて。なぜ動いたのか」


ミカは震えながら答えた。

「借金が……人質めいたことを言われました。家族が苦しいと言われた。断ったら、家の食い扶持を奪うと。怖かった。情けなかった」


言葉は薄く、でも真実だ。怒りが沸く者もいた。だが私は止める。ここで糾弾しても、根本は消えない。私は広場の人々に向き直り、静かに言った。


「私たちは裁きを求めるだけの共同体ではありません。だが同時に、自由を売るわけにはいかない」


私はその場で判決を下すのではなく、処置を提案した。ミカには公に事実を認め、連盟側へ近づいた経緯と相手の名を証言してもらうこと。代わりにローデン協議会が彼とその家族の短期的保護と債務の一部肩代わりを行う。さらに、今後同様の買収が起きた際、匿名で通報できる「守りの箱」を各地区に設置する──人が安全に情報を出せる仕組みだ。


賛否の声が上がる。だが最終的に、村の年長者たちが私の案に賛同した。トマスは杖を地面に突き、低く言う。

「赦しは難しいが、放り出すのはもっと難い。ミカを守ることで、次に同じ手口が来たときに彼は盾となるはずだ」


ミカは顔を上げ、涙ながらに深く頭を下げた。声は震えていたが、その姿はどこか潔かった。彼は村の一部として、生きる道を選んだのだ。


夜、屋敷の小さな食堂でガイルが私の手を取った。彼の手は大きくて、温かい。疲労はあるが、目は優しい。

「今日は酷い日だったか?」彼が囁く。私の答えは短い。


「酷いけど、必要だった。人を叱るのは簡単。でも、守るのは難しい」


ガイルはぎゅっと手を握り返す。彼の沈黙はいつも深い確信だ。リュシアンは書斎で作戦の最終通告を出している。彼の声が時折会話の合間に聞こえ、角度のある笑いが微かに混じる。戦はまだだ。だが、私たちの刃は決まっている。


翌朝、封鎖の日時が迫る。リュシアンは最後の罠を仕掛け、証拠の一部を王都の監査へ送り付けた。アレンは外交ルートを通じて公国の商業保証の発表をスケジュールする。ガイルは住民の護衛体制を最終確認する。私の仕事は最後に、広場で声を上げることだ。


「明日の夜、外は厳しいでしょう。だが我々はここにいます。誰も見捨てない。誰も買われない」私は広場の人々を見渡し、言葉を紡ぐ。声は震えていない。真実は、いつだって強い。


夜が来る。村の灯は少しだけ控えめにされ、外の空は静かに雲を孕む。遠く、交易路の彼方に小さな光が集まり、やがて消えた。封鎖の動きか、それともただの巡回か。私には分からない。だが覚悟はある。村を守る刃を抜く日が来れば、それは人の心のための刃だ。


最後に、私はミカの家の扉をノックする。彼は震える手で出てきて、深く頭を下げる。私は小さな包みを差し出した。中身は保存食と、村の商人が用意した小さな仕事のチケットだ。言葉は少なかったが、行為は雄弁だ。ミカは目を潤ませながら、それを受け取る。


窓の外、雲間から月が一瞬顔を出す。その光は冷たいが確かに道筋を作る。明日は刃が振るわれ、政治の塵が舞うだろう。だが今夜は違う。今夜は村が一つに寄り添い、小さな誓いを交わした夜だった。

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