第2話『荒れ果てた辺境領、最初の仲間は無愛想な騎士団長!?』
「……ここが、私の新しい領地、ですのね」
馬車を降りた瞬間、思わずため息が漏れた。
目の前に広がるのは、草もまばらな荒れ地。
崩れかけた石壁の向こうには、屋根の抜けた屋敷。
風は乾ききっていて、遠くから狼の遠吠えが聞こえる。
(まるで終末世界……いや、これ本当に領地なの?)
王都を追放され、長旅の末に辿り着いた辺境ローデン領。
だが、実際に見てみると「追放」よりも「放棄」に近い。
領民らしき姿もほとんど見えない。
そんな中、無骨な鎧の音を響かせながら、一人の男がこちらへ歩いてきた。
「……レティシア・アーベントハイン殿下、で間違いないな」
「ええ。あなたは?」
「ローデン領騎士団長、ガイル・バーンズだ。領主代行として、しばらくお前の監視役を任されている」
監視役――そう来たか。
冷たい灰色の瞳に、短く刈られた黒髪。
まるで鉄のように無骨な男だ。
「お前のような貴族が、こんな地に来て何ができる? ここでは金も名誉も通用しない」
「ふふ……そうかもしれませんわね。でも、だからこそ面白そうじゃありません?」
「……は?」
ガイルの眉がピクリと動く。
その顔を見て、私は笑ってしまった。
(ああ、こういう無愛想タイプ、ゲームだと攻略対象の一人だったな……たしか“隠しキャラ”扱いだったはず)
「まずは、屋敷の片づけから始めましょう。寝る場所がなければ仕事もできませんから」
「貴族が自ら掃除するのか?」
「元OLですもの。デスクの片づけとExcel整頓には自信がありますわ」
「……何の話だ?」
不思議そうな顔をするガイルをよそに、私はクラフト・マスターを発動。
壊れた家具を修復し、屋敷の窓枠を補強。
さらに、地下倉庫の食料を調べてみると――。
「腐った干し肉、カビたパン……。よくこれで生きてこられましたわね」
「物資は王都からほとんど届かん。自給自足が基本だ」
「なるほど。なら、畑を作りましょう!」
「この土地で農業? 無理だ。干上がっている」
「大丈夫。試してみますわ」
私は屋敷の裏手に出て、固い地面を鍬で叩く。
第1話で改良した“チート鍬”が光を放ち、土がふわりと柔らかくなった。
同時に、足元に淡い緑の光が広がる。
【生産効率最適化:土壌改良モード】発動。
瞬く間に、ひび割れていた大地が栄養を取り戻し、湿り気を帯びていく。
そこへ保存していた種をまくと――
「芽が……出た、だと?」
ガイルが目を見開く。
数分前まで砂のようだった土地から、青々とした芽が次々と顔を出していた。
「ね? やってみないと分かりませんわ」
「お前……何者だ」
「ただの転生者ですわ♪」
「は?」
(言ってみたかった台詞ランキング第3位、達成☆)
その日の夜。
屋敷の片隅で、焚き火の明かりを見つめながら、ガイルがぽつりと呟いた。
「……本当に、この地を変えられるかもしれんな」
「ええ。領民の方々が戻ってくる場所にしたいのです。
働く人がいて、笑顔があって、美味しいものがあって――そういう場所に」
ガイルはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「なら、俺も手を貸そう。……ただし、甘くはないぞ」
「望むところですわ!」
この瞬間、荒れ果てた辺境で、
“悪役令嬢レティシア”と“無骨な騎士団長ガイル”による再生物語が、静かに始まった。




