第1話『婚約破棄、そして追放。──悪役令嬢、開き直ります!』
「レティシア・アーベントハイン。
この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」
――開口一番、それだった。
豪奢な舞踏会場の中央で、王子エドワード殿下が高らかに宣言する。
その隣では、ゲームのヒロインだったはずの侯爵令嬢ミリアが、涙ぐみながら王子の腕にすがっていた。
……うん、知ってた。
これは、乙女ゲーム『フローラル・メモリーズ』の悪役令嬢断罪イベント。
つまり、レティシア破滅確定ルートである。
「わたくしは……何をしたと?」
一応聞いてみるが、返ってくる答えはわかっている。
「お前がミリアをいじめていたことは、すでに証言が揃っている!
お前のような女は、この王都にふさわしくない!」
――はい、テンプレ断罪きた。
しかも証拠はほぼ濡れ衣。
前世で何百回もプレイしたから、セリフまで覚えてる。
「では、わたくしはどうなるのでしょう?」
「辺境のローデン領へ追放だ。二度と戻ることは許さぬ!」
周囲の貴族たちがざわつく。
破滅END確定。……なのに、なぜか私は心の底からスッキリしていた。
(ああ、仕事に追われて倒れたあの日より、ずっとマシかも)
転生してすぐはパニックだったけれど、今となっては思う。
ブラック企業で過労死した私にとって、辺境追放なんて、自由へのチャンスだ。
追放の馬車に揺られながら、私はふと空を見上げた。
まぶしい太陽、広がる大地。
そして――頭の中に浮かぶ、ステータスウィンドウ。
【ユニークスキル:生産効率最適化】
・素材の品質を自動で最適化
・生産速度+500%
・資源管理効率+∞
(……え、何これ。チートじゃん!?)
このスキル、現代の生産管理システムとクラフト要素を組み合わせたみたい。
試しに、馬車の荷台に積まれていた古びた鍬を手に取る。
「クラフト・マスター、改良開始!」
光が走り、鍬が新品同様――いや、それ以上の高品質に!
ついでに持ち手は握りやすく、重さも最適化されている。
「……これ、もしかして……いけるかも?」
破滅ルート? 上等。
どうせなら、辺境を理想郷に変えてみせる。
農地改革、生産革命、物流ネットワーク構築――。
元OL、悪役令嬢、ただいま開拓モード突入です!




