第八話 ウネマ王国の王子
帝国騎士団の問題が片付き、いよいよウネマ王国の使者との謁見。
「アンジェラ、本当に良いのだな」
謁見の場には私も参加する。
皇族としてこれでもかと着飾った私をお父様は優しく手を取って念を押してくる。
何の念押しかというともちろんウネマ王国との婚約のことだった。
お兄様は心配そうにしながらこちらを見ているが、口を出す気は無いようだった。
「はい、意思を変えることは絶対にありません」
お父様は軽く溜め息を吐き、一度ゆっくりと瞬きをするともう父の顔ではなく皇帝の顔になっていた。
「アンジェラ、ホリングワース帝国皇帝として其方の気高い魂を称えよう」
「ありがとうございます。この帝国の平和を築けることを幸せに思います」
お父様の言葉に私も娘というよりも一国の皇女として礼をし、お兄様も交えて謁見の間に向かう。
今日は皇帝とウネマ王国の王子との初の顔合わせでもあり、今日から一ヵ月、私と王子とで親交を深め、そのまま婚約をしてウネマ王国に私も向かう手はずになっている。
何しろ片道2か月の船の旅なので彼らが帰った後に長距離の船の旅に耐えられる船員を選出して出すよりも彼らと一緒に私も行ってしまった方が双方に手間が少なくて済むのだ。
ウネマ王国の王子は聞くところによると20歳、それ以外に性格やどういった種類の動物になれるのかなど全く噂すら聞こえてこない。
私も緊張しながら待っていると、使用人が来てお父様に耳打ちしていた。
お父様が軽く手をかざせば謁見の間の扉が厳かに開かれる。
入ってきたのは5人程。
残念ながらその中にはマシャドさんはおらず、全員褐色の肌に銀や黒の髪色、そして手前の青年以外は皆一様に体に入れ墨をしていた。
手前の青年以外は皆、ストレス値が60前後とやや高め。
手前の褐色の肌に銀色の髪、そして角の様な物が頭に生え、体には所々にうろこが浮き上がった青年が軽く頭を下げる。
「お初にお目にかかります。ホリングワース帝国皇帝。ウネマ王国国王の王子、アマデウスと申します」
「噂に聞いていた通りの精悍な青年で安心した。私がホリングワース帝国皇帝アーベル・ホリングワース三世だ。そしてこちらが皇子のフレデリク、その奥が皇女のアンジェラだ」
お父様に紹介されるとアマデウス王子と目が合った。
軽く微笑みながら目で挨拶をする、アマデウス王子も軽く微笑んで返してくれる。
うん、よかった。
マシャドさんはともかく、王族はとんでもない性格の持ち主とかも少し思っていたけど、大丈夫そう。
「皇女殿下も噂通りお美しいですね」
「ありがとうございます」
「では長旅でお疲れだろう。部屋を用意させている。婚約に関する内容は明日から話合おうと思うがそれでもよろしいかな?」
「はい、かまいません……よければ皇女殿下にご案内いただいても?」
チラリとお父様から視線で聞かれ、私は軽く頷く。
「いいでしょう。アンジェラ、案内してさしあげなさい」
「はい陛下、失礼いたします。アマデウス殿下、こちらです」
恭しく頭を下げ、謁見の間を出た瞬間アマデウス殿下は長い溜め息を吐いた。
『はぁー、息が詰まるかと思った』
『殿下、まだ皇宮の中なのですから気を抜かないでください!それに皇女様もいらっしゃるんですよ‼』
『問題無いだろ、どうせ分かんねぇよ!それより見ろよあの細い手足!あんなのが俺の女になるかと思うとぞっとする‼』
『殿下‼』
私がウネマ王国の言葉が分からないと思っているのだろうか?
たださっきのが演技であったことは十二分に理解出来た。
一昔前の私ならここで言われっぱなしで我慢していただろう。
帝国のために両国でいい関係を築かなければならないことは分かっている。
けれどこれは度を越えたやりとりだ。
「あら、ウネマ語で何を話されているんですか?」
知らないフリをしてにこやかに聞けば、アマデウス殿下は小馬鹿にした笑いを隠そうともせずに答えてきた。
「いえ、貴方がとてもお美しいので緊張すると話していたのですよ」
「あら光栄ですわ。私も殿下が夫になるかと思うとぞっとしますもの」
にこりと振り向けばアマデウス王子含め、周囲の男性陣も目を見開いていた。
『お前……いえ、皇女殿下、言葉がお分かりに?』
「まだ嗜み程度ですわ。さぁつきました。この南宮の1階と2階は全て自由にお使いいただいてかまいません。足りない物があれば使用人に申しつけてください。ではごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
最後まで淑女の笑みを崩さず、私は言い切りその場を後にした。
殿下やその周辺の人間はバツが悪いのか生返事だけをして部屋に入って行く。
あれが未来の夫とは先が思いやられる。
ふとマシャドさんのことを思い出し会いたくなったが、会う手段は無かった。
アマデウス殿下に聞けばいいのだが、一応婚約者になる者同士、しかも王国に行けばすぐに婚姻するというのに他の男性のことを聞くのは気が引ける。
共に船で来たのが5人だけの訳が無いため、多分彼らは宿などにいるのだろう。
近くの使用人を呼び止め、アマデウス殿下の使用人も南宮に呼び寄せていい事、あとウネマ王国から以前輸入していた茶葉で紅茶をお出しするように言いつけた。
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