第7話 決戦
騎士団長に私の部隊を披露してから一週間。
決戦の日。
私の住む虹宮で私は騎士団長と睨み合っていた。
騎士団長の後ろには5人の副騎士団長含めた屈強な騎士が並び、私の後ろはというと誰も居ない。
皆さんには事前に隠れているようにお願いしていた。
「ついに体罰も終わりですね騎士団長?」
「ハッ!世迷言を‼金輪際我が帝国騎士団に口出ししない準備はよろしいですかな?皇女殿下??」
じっとりと睨み合い、私と騎士団長の間で審判となる公爵が手を挙げた。
審判は騎士団の人間であっても皇族の人間であっても不正が起きかねないので、皇族に逆らえるほどに高位の貴族、ということで公爵に決まった。
まぁ逆らうとなれば全面戦争張りに本気で行かなければならないのが本当だが。
「それでは勝敗規定の確認をさせていただきます!制限時間は3時間!場所はここ、皇女殿下の住まう虹宮の庭!庭を区切る石垣から一歩でも出たらその者は失格とします。
この赤いシデの実を体に命中させればそれは死を表し、庭から退場していただきます!より多くの人数が残っている方が勝利とします!
では……始め‼‼」
ルール的に言えばケイドロ+かくれんぼと言った感じ。
合図と共に騎士団長の後ろに居た騎士達は散って行った。
皇女の住む宮と言っても広さはあるが警備のために入り組んだ作りはしていない。
そのため3階のテラスからなら、庭の様子が一望出来るようになっていた。
「騎士団長、今回は指導に関してのことなのでお互いに指示はしない約束でしょう?上から3時間、私とお茶でもしませんか?騎士団長の好きなイノシシのステーキも用意していますよ」
「……いいでしょう、承りました」
ゆっくりと私は紅茶とフィナンシェを、そして騎士団長はイノシシのステーキを食べながら下を眺めていた。
まず動きがあったのは棍棒の男こと副騎士団長のエイベルだった。
大木横の茂みに隠れていた祖母を発見し、そっと後ろから近づいて行く。
「ばあちゃんごめん、これも仕事だからさ……」
「エイベル‼」
祖母が彼の声で気がつき、エイベルが赤いシデの実を振りかぶったその瞬間‼
「教育しなおしちゃると言ったろうが‼‼」
「え?」
エイベルの祖母が勢いよく蔓を引っ張ると、エイベルの頭上、木の中に隠されていた袋が一気にほどけ、中身が彼を直撃した。
もちろん中身は大量のシデの実だ。
祖母の希望により、拳大の固い木の実もちょっと追加☆
「のわぁぁぁあああ‼あ、痛!痛っ‼痛ってぇぇぇええええ‼」
「こん馬鹿垂れが‼‼たまには痛みも味わわんか‼‼」
ついでに祖母からのきつ~い拳骨も一発追加。
「ばぁちゃ~ん!勘弁してくれよー‼」
副騎士団長エイベルVS老女
老女の圧勝‼
普段ならあの副騎士団長も頭上の仕掛けに気がつかないわけなが無いのだが、まぁ、よく知っている腰の悪いお祖母ちゃんが仕掛けを作るとも思えないわよね。
「あの馬鹿……身内だろうが手加減するなと言っておいたのに」
「まずは一勝ですね、騎士団長!」
騎士団長が頭を抱える中、私はそれを見てクスクスと笑った。
マシャド式 劣勢勝利術極意その二
地の利を最大限に生かすこと。
『特に次期王妃殿下は騎士団長よりも権力があるわりに力の差は歴然。なら場所の指定は必ずこちらでして、罠をしかけましょう』
ふふ!思ったよりも上手くいっていますよ‼マシャドさん‼
罠の張り方はマシャドさんから基礎だけ教えてもらい後は図書館を漁った。
『罠の基本は3つですかね。1つ目は相手の興味を引きそこに罠を張る。興味を引くのは普通戦利品になりそうな物に絡めますが、今回はご本人達が一番気を引けるでしょう。2つ目は目立たせないこと。そこにあっても不思議でない……皇宮の庭がよく分かりませんが綺麗過ぎるなら少し散らかして蔓などは使いやすいので不必要にばらまいた方が良いでしょう。3つめは…』
私がマシャドさんから聞いたことを思い返していると屈強騎士Bに動きがあった。
相対するは10歳年の離れた双子の弟と妹。
「マイン!ケネス!出て来なさい‼そこに居るのは分かっているんだ‼」
双子の妹、マインが茂みから顔を出すと屈強騎士Bは溜め息を吐いた。
その顔は既に泣き崩れていたのだ。
「うぇぇええん‼お兄ちゃん‼ケネスが置いて行ったぁあああ‼」
「あぁもう!だからこんなことは止めろと言ったんだ!ほらこっちおいで!」
「無理ぃぃ!もう歩けない~~‼足捻ったぁぁああ‼」
「全く仕方が無いなぁ!」
普段の演習では若い騎士達に殴る蹴るを繰り返していた彼らしくもなく、屈強騎士Bは妹の方に2歩進み出た。
そして……。
「うわぁぁあああああ‼‼」
屈強騎士Bが4m程に掘られた落とし穴へ落下。
下にはもちろんシデの実を敷き詰めている。
落下した彼はシデの実を潰してしまい、ゲームオーバーなのだが…。
「痛っ!止めなさい‼それ痛いから‼」
「母ちゃんが人にやられて嫌なことは駄目って言ってたのに何でやるんだよ‼兄貴の馬鹿ぁ‼」
「お兄ちゃんなんて大嫌い‼‼」
エイベルの祖母から分けてもらった固い木の実を双子は屈強騎士Bへと投下。
分けてもらった分が無くなるまで続いた。
次に屈強騎士C。
「皇女殿下がどこで罠の知識を得たのか知りませんが、油断さえしていなければ我々騎士は負けません」
イノシシを平らげ、優雅にお茶を飲みながら余裕綽々の騎士団長。
そう、先にゲームオーバーとなった2人の悲鳴を聞いているため残り3人の騎士達は慎重になっていた。残り時間は約2時間。
屈強騎士Cに相対するのは妻と自身の母。
「あなた……いくら訓練だからってあんなに若い子達をやせ細らせて!酷いわ‼」
「クラーク‼食べれないことがどれだけ惨めかアンタも知ってるだろう⁉」
妻と母が茂み越しに屈強騎士Cに声をかけるが騎士は茂みの前で一度立ち止まった。
「ジェニー、母さん‼俺達には俺達の道理があるんだ!分かってくれ‼」
茂みを超えた先にある落とし穴をひらりと躱し、屈強騎士Cことクラークは何事も無かったかのように二人の方へと歩き出す。
普段鍛えている騎士からすれば、注意さえしていればこんな落とし穴や仕掛け、素人に毛が生えただけの物で何でも無いのだ。
注意さえしていれば。
唖然とする大切な2人を前に屈強騎士Cは悠然と、そして格好よく歩いて近づき……。
「のわぁあああああ‼」
2つ目の穴に落ちた。
『罠の基本3つ目は油断を誘うことです。まぁ、いくつか罠が見つかれば警戒する者も現れるので、分かりやすい罠をあえて仕掛けてその後に本命を仕掛ければかかるでしょう』
さすが、自身で強いと言い切るマシャドさん。
貴方に会えてよかったです。
心の中で彼に合掌しつつ、私はフィナンシェを一口頬張った。
ここまで私の部隊は全員無事、騎士は残り2人。
後の2人に対する兄弟やその育ての親達には隠れているようにお願いしていた。
一週間前、庭師にお願いして見つかりにくい植え込みを、見えないようにドーム状にくりぬいてもらい、各々の場所で隠れてもらっている。
マシャド式 劣勢勝利術極意その三
勝利条件の明確化
『相手がこちらを侮っているからこそ上手く罠にかかることを忘れてはなりません。深追いはせず、勝利条件を達成したらあとはこちらに被害が出ないように粘りましょう』
と、いうわけで。
無事にタイムオーバー。
「…………数々の非礼、伏してお詫び申し上げます……」
騎士団長含め身内に痛めつけられた騎士達は深々と私に頭を下げてくれた。
「方針さえ改めて頂ければもう結構です。ふふ!私もこの勝負を楽しんでしまったところがありますし」
頭を下げながらも納得がいっていない感満載の騎士達だったが一応従ってはくれるらしく、その日から食事制限はなくなり、棍棒も撤廃、そして私も面接に参加した人材による職場改善部署が出来上がった。
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