23話 最高の指針
私、騎士団長、副騎士団長、近衛騎士隊長、その他各隊長達が集まり会議は開かれた。
あの夕食会からだいぶ騎士団全体の私への態度は良くなった気がする。
そして会議当日、初めに話しだしたのは騎士団長だった。
上等な紙を見つつ騎士団長が眉間に皺を寄せて真剣な瞳で私を見つめてくる。
「まず、本日の議題にうつる前に1つ報告がある。皇女殿下」
「はい?」
他の者も私が何かやったと思っている雰囲気だが、あいにくまだ何もやった覚えはない。
ドキドキしながら騎士団長からの次の言葉を待っていると不意に彼は悪戯っぽく笑顔になった。
「予算申請のご助力、誠に感謝いたします。おかげさまで来期の予算は削減どころか増減されました」
騎士団長が手にしていた紙をテーブルの上に出せば、そこに書かれていたのは申請受理しましたという内容のものだった。
騎士団長が深々と頭を下げるなか、周囲は拍手をしてくれる。
う、嬉しい。
完全に対立しているところからのスタートだったのに、こうして喜んでもらえるまでになるなんてちょっと泣きそう。
「いえ、歴代の騎士団の方々が細かく帳簿をつけていたからこそ発見できたことだと思います。それに私1人ではなく歴史学者や数学者の先生にもご助力いただきました」
一応謙遜はしながらも、私が行動しなければ起こらなかった結果。
その事実が嬉しくてたまらなかった。
「では場も和やかになったところで、本日の議題にうつりたいと思います」
進行役の副騎士団長が進めていく。
失礼だがこうして棍棒をもっていないときに会って見ると普通の人に見える。
「まず一つ目は騎士団の信頼の失墜、二つ目、士気が下がったことによる訓練の質の低下、三つ目は以前のやり方を希望する声が多いこと、この三点ですね、何か案がある方はいますか?」
私が軽く手を挙げると周囲が一斉にこちらを見た。
「皇女殿下、どういった案でしょうか?」
「はい、まず三つ目の以前のやり方についてですがお手元の資料をご覧ください。それが帳簿を確認した際分かったことです。
食事制限は300年前の大飢饉が原因であり、元は存在しなかった伝統なのです。今は平和な世の中であり、これを継続する必要性は無いかと存じます」
私が言うと、周囲の騎士達はブツブツと言い始めた。
以前心理学の本で読んだことがある。
心理的恒常性。
人は変化を拒む生き物なのだ。
私は準備していた資料を円卓の上に出し、そして使用人にも指示も出した。
今日の朝、書きたてほやほやの一枚の表が全員に配られる。
「皆さん、どこに向かって進みたいと思われていますか?」
「どこに?」
近衛騎士隊長の声に軽く頷く。
「先日の夕食会で私はアンケートを取りました。そして多くの騎士の方々が『今後騎士団にどうなってほしいか』という問いに帝国をより守れるように強くなりたい、民から愛される騎士団になりたいとありました。皆さんはどう思いますか?」
「それはそうでしょう、守るもの無くして騎士にあらず、また強さ無くして騎士にあらず、でしょう」
この世界の有名な騎士の一説を騎士団長が言ってくれる。
周囲の騎士団の面々も頷いているところを見るにやっぱり皆騎士に憧れて、カッコいい騎士になりたい人が多いのだ。
「今までと違うやり方で問題も発生して、戸惑われるのも分かります。ですが騎士団が目指すものがなんなのか、今一度考えてください。それは言葉にするとどういったものでしょうか?」
何となく言わせたい言葉はあるけれど私からは絶対に言わないと決めていた。
OODAループの大前提である、同じ目標をもつためにも実際に行動して続けていく彼らにどうなっていくのか選び取ってほしい。
そのために、渡した資料には一般の騎士達の書かれていた内容を匿名で抜粋したり、多い意見に関しては表にして見せたのだ。
あくまでも、このグループのリーダーは騎士団長であるべきだと思うし。
座り直してじっと待っていると、ザワザワとした声の中から騎士団長が口を開いた。
「我々騎士団は、強く、優しく、気高く、民の模範となるべき姿を体現し、規律と守護の象徴であらねばならない、これが初代騎士団長の手記には書かれている、もう一度これを目指すべきだと思う」
周囲に確認を取るように騎士団長が見まわす。
最後に私と目が合い、私は軽く頷いた。
「帝国の騎士団に最適な、最高の指針だと思います」
「そうですな、今一度原点に戻るべきかもしれませんな」
「懐かしい、新人だったころに先輩から聞いて心震えたものです」
口々に賞賛され、騎士団長は強く頷いて立ち上がった。
「諸君、今を捨てる恐怖は私も分かっている。だが!300年前の大飢饉が原因だったという事実があった以上、食事制限を続ける理由は無いだろう‼」
騎士団長が吠えるように言うと、周囲は頷いていく。
私はただ笑顔でその姿を見つめるだけで脇役に徹した。
これぞ、OODAループの二つ目と三つ目Orient (状況判断)とDecide(意思決定)である。
「ですが、体罰の方はどうされますか?やはり訓練には必要不可欠かと」
場の空気を壊すように副騎士団長が言い始めた。
「それについては私も考えていました。何かしらの検証結果でもあればよかったのですが情報収集がそもそも出来ていないのです。何か良い案はありますか?民の模範となるのであればしないのが絶対だと私は思うのですが」
「国内に情報が無いのならあのウネマ王国の者に聞いてみては?正直、どういった集団が強いのかなど興味があります。民の模範となるとはいえ弱くなっては騎士は務まりません」
副騎士隊長が言い、確かに一理あると思った。
体罰は絶対に良くないとは思うけれど、私もその根拠を示すことが出来ていないのだ。
でもあまりマシャドさんに聞いて彼の立場を悪くもしたくない。
「一応、騎士団長から頼まれていることもあって聞いてみますが、彼は帝国にとってお客様で、書類上は留学という形をとっています。期待はしないでください」
「では、次に騎士団の信頼の失墜と士気の低下ですが…………皇女殿下、私の目がおかしくなっていなければこれは……」
私が事前に配っていた資料の二枚目を見て副騎士団長は頭を抱えていた。
周囲の騎士達も目を丸くしている。
二枚目のタイトルは実にシンプル。
【騎士の偶像化計画】
資料には挿絵も交え、そこには男性アイドルのごとくイケメンが決めポーズをしている姿が描かれていた。
この問題に対しての騎士団はどうでるか、私は半ば楽しみであり緊張しながら偶像化計画の詳細を説明した。
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