第二十二話 夕食会
【騎士団アンケート】
【問1】
貴方はなぜ、騎士団に入ったのですか?
【問2】
貴方の誇れることはなんですか?
【問3】
現在、騎士団は市民からどう思われていると思いますか?
【問4】
子供の頃の貴方が今の貴方を見たらどう思いますか?
【問5】
今後、騎士団にどうなってほしいですか?
ピクニックの翌日、私は夕食会に参加する騎士達用のアンケートを確認していた。
タダ飯タダ酒というのが魅力的なのか、冷やかし半分なのか、ほとんどの騎士が夕食会には参加してくれるらしい。
まぁそれは良いとして、問題はお父様とお兄様だった。
ピクニックから帰った際、マシャドさんと二人きりになったこと、そしてマシャドさんが獣化するためとはいえ、服を着ていなかったことについて本当に!かなり‼怒られた。
言いたいことは分かるけれど、騎士から離れたのはちょっとの間だし、そんなに怒らなくてもいいだろうに。
もやもやしつつも、私の住む宮殿の庭には次々と料理や酒、お菓子が運ばれてくる。
夕食会は立食形式のビュッフェを予定していた。
会場の前の方には他とは違う色のテーブルクロスをつけそこには10冊ほどの本の山と反対側に3冊の本。
そして料理や酒の前には生産者や調理者などの携わった者の名前が記載されている。
「ただの餌付けではないのですか?」
声をかけられて振り向くと予想通り騎士団長だった。
「アンケートのためだけにただの餌付けをするほど、私の財布は緩くありませんよ」
皇女とはいえ年間のお小遣いは決まっている。
今回は結構予算ギリギリだ。
「ふむ、いや失礼しました。軽口を叩くのが癖になってきていまして」
「フフッ私も今更騎士団長に態度を変えられても困ります」
「……」
「なんです?何かありましたか?」
話にのっかっても微妙な反応をしたため聞いてみると、騎士団長は眉間に皺を寄せたまま話し出した。
「あのウネマ王国の者、皇女殿下を抱えて崖から飛び降りたと聞きました」
「騎士団長までその話ですか?マシャドさんとは本当に友人でそれ以上のことは本当に何もありませんでした‼」
ひたすらに肉球をプニプニしたり爪を出してみたり、耳や頭、顎を撫でくりまわしたけれど本当にそれ以上のことは何も無かったのだ。
昨日のピクニックはすごく幸せな時間ではあったけれど、マシャドさんと身分や状況が違い過ぎることは私も分かっている。
「いえそうではなく……どれくらいが彼らの身体能力の限界か、見てみたいのです。皇女殿下から頼めませんか?」
いつか戦うかもしれない者として。
そういう意図が感じられた。
「……聞いてはみますけど、期待はしないでください」
確かに相手がマシャドさんだから少し怖かったということで終わる話だが、もしも彼が私を誘拐しようとしていたならあのとき止められる者は居なかったと思う。
騎士団長と話していると使用人達から次々と準備終了の知らせが入り、騎士達も集まってきていた。
「騎士団長、今日は貴方達にとって良い日になるように準備したんです。楽しんでいってください」
私の言葉に騎士団長は軽く微笑み会釈を返してきた。
それにしても〝あの〟騎士団長が必要に迫られたとはいえ私に頼み事。
だいぶ歩みよれている?
少しすると、場内では騎士達の喧騒が広がっていた。
美味しそうな匂いの中、私はグラスを軽く叩いて注目を集める。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今日は私と騎士団の皆さんの友好を願い、そして日々の騎士団の活動についてお伝えしたいことがあり夕食会を開きました」
一度言葉を区切るが反応は最悪だ。
明らかに睨んでくる者達も多い。
でもこれは想定内。
また自分達が糾弾されると思っているんでしょう?
でも私はもうそんなことはしない。
だからこそ、私の言葉の代わりにカフェの店主や街の有識者達に頼んでこの本を用意したのだ。
「美味しそうな匂いの中お待たせするのも良くないのでサクサク進めていきますね?まずは騎士団長!」
「はい?」
お前はまた何かやる気かと目が言っている。
それは無視してそのまま続ける。
「騎士団長!騎士団の仕事とは帝国の剣となり盾となり、帝国の民や財産を守ること。相違無いですか?」
「えぇまぁ」
ここで社畜杏流、話し方の小技。
いやまぁ、多くの本に書いていることではあるのだが、相手に肯定して欲しいとき初めは必ずYesとしか答えられないことから会話を始めると成功率はぐっと高くなる。
「ではもう1つ、現在その守るべき民から騎士団は馬鹿にされている、騎士団長はそう思っている、そうですね?」
「……えぇ、それが事実でしょう」
ほぼキレかけの騎士団長や騎士達に私は笑いかけた。
「私は先日、他でもない騎士団の帳簿を拝見して考えていることと事実には大きな差が生まれることがあるということを知りました。そして皆さん、ここにある13冊の本、これはあるカフェに置いて街の人に騎士団への思いを書いてもらった物です!」
まずは少ない方の3冊を手で示す。
「こちらに置いている3冊が騎士団への文句が書かれた方、そしてこちらの10冊の本が騎士団への街の人からの感謝の気持ちが綴られた物です!」
ざわめきが広がり、騎士団長も目を丸くしていた。
「それだけではありません!今日の全ての食事は騎士団への感謝を伝えたい人だけが参加してほしいと伝えて出来た品々です!ここに書かれている本も‼そして全ての料理に書かれている人々も‼私も含めて皆が‼貴方がたの日頃の働きに感謝をしているんです‼それでは私達からの感謝の夕食会をどうぞお楽しみください‼‼」
私が淑女の礼をすると、まずは騎士団長が拍手し、そこから拍手の波が広がり歓声にまで広がった。
そう、どうしても彼らの尊厳を取り戻したかったのだ。
外側よりもまずは彼らの折れてしまった心を少しでも取り戻す。
街の人々が書いた本は自由に読めると伝えると続々と騎士達は読んでいった。
中には特定の騎士に対しての感謝などもたくさん書かれていて、自身の名前を見つけた騎士達は少しだけ涙していた。
よかった、これでやっと進められる。
少しは私の心証も良くなり、騎士達のアンケートも集まり、何より街の人からの具体的な不満という貴重な情報も集まり、数日後の騎士団との会議に向けてやっと晴れやかな気持ちで挑めるようになった。
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