第二十一話 俺は何のために生きている?
俺は何のために生きているんだろう。
産まれて、物心がついてからずっと考えていることがある。
俺、マシャドは娼婦の母と恐らく客の誰かから生まれた子供だった。
毎日ギリギリの食事で物心がつく5歳くらいのときに母親は病気で死んだ。
保護者などいないし、ゴミ溜めの中からマシなゴミを漁って食べて、戦争にも無理やり連れていかれてただ死にたくないから必死で生きているだけの日々。
けれど初めての戦争に勝った12の年、功績として美味い食べ物と金をもらってから徐々に俺の人生は変わり始めた。
もっと頑張ろう、もっと良い暮らしがしたい、もっと上にいきたい。
強くなればなるほどに俺の状況は良くなっていくが、それと同時に分からなくなってくる。
俺は殺しまくって何をしているんだ?
俺は他のヤツを踏み台にしてまで生きる価値があるのか?
そんな疑問に蓋をして10年。
気がつけば戦争の英雄とまで呼ばれるようになった。
国王や周囲から賞賛され、そして同時にアマデウス殿下や上層部の者達からの嫌がらせが始まり、俺はますます分からなくなった。
俺は何のために生きている?
『マシャドさん、イル?アンジェラです』
軽いノックと共に少しだけ変なウネマ語が聞こえ、俺はすぐに扉を開けた。
『護衛ですか?』
『うーん……護衛というかどこか行きたいところは無いかなと思って。私、本当は今頃アマデウス殿下と婚約してウネマ王国に行く準備をしていたはずだったから時間は空いているし、今日は仕事っぽいことはしない予定だからそれで……あの、デートみたいな誘いかたになったけどそうではなくて、嫌なら断ってもらってもいいし』
モゴモゴと言いながら慌てている姿はかなり可愛い。
彼女は俺が下っ端と思っていたときも、強いと分かっても、アマデウス殿下に嫌われていると分かっても戦争の英雄と知っても態度が変わらない。
それがたまらなく嬉しかった。
ここ数日彼女に会えたら言おうと練習していた言葉を俺は緊張しながら言ってみた。
「もちろん、ご一緒させてくだサい。皇女殿下と一緒に行けるならどこでも嬉しいデす」
「帝国の言葉‼覚えてくれたんですか⁉」
「はい。まだ早口は出来ませんガ」
貴方に喜んでほしくて。
それは流石に言えず、でも彼女が想像以上に喜んでくれたことに達成感がヒシヒシ伝わってくる。
楽しい。
こういうのを幸せというのかもしれない。
結局、近くの山にピクニックに行くことになった。
何とも平和な予定だ。
「マシャドさん、1つお願いがあるんだけど」
「なんですカ?」
じっと皇女殿下は俺の耳を見てくる。
そういえば今日は馬車に乗っているときもずっと見てきていた。
「耳を……触らせてほしくて!」
「耳?」
「そう、別に嫌なら断ってもらっても」
「アハハハ‼もしかして馬車の中でもずっとそんなこト考えていたんですか?」
ケラケラと笑えば彼女は恥ずかしそうにしながらも、俺が怒っていないことに安心しているようだった。
もちろん耳くらいいくらでも触ればいいと思う。
けれど、どうせならお願いには対価がほしい。
「いいですヨ。でもその代わり、俺の本気の散歩に付き合ってください」
「本気の散歩?」
きょとんとしている彼女を見ていると無性に悪戯をしたくなる衝動に駆られる。
「はい、俺ノ本気の散歩に付き合ってくれるなラ頭でも耳でも好きに触ってもらっていいですよ」
「欲を言えばウネマ王国の人って動物の姿になれるって聞いたんだけど」
それ、端的に言えば俺に脱いでほしいと言っている意味です。
とは言わずに出来るだけ人の良さそうな顔をして頷く。
別にウネマ王国では動物の姿で歩いているのが全裸と同等ではないが、服を脱いでから変わらなければならない性質上、異性に正面から言う言葉ではない。
「えぇ、なりまショウ」
「なら肉球も触りたいのだけどいい?」
「お好きにドウゾ」
「やるわ!本気の散歩ってどういう……ヒャア!」
了承した瞬間、俺は軽く彼女を抱き上げた。
皇女殿下と会っているときはいつも心地良いが、俺は1つだけ根にもっていることがあった。
それは俺を猫かと聞いたこと。
この国では知らないが、ウネマ王国では強い男はモテる。
というか強くないと異性として見られないほどにその辺りは重要なことだ。
だからこそ俺は、皇女殿下に強さを見せつけたい。
「お前‼皇女殿下に何を!」
「好きについて来てクダサイ」
怒る護衛に一言かけ、俺は軽く走りながら皇女殿下に目を向けた。
彼女は怖がっているというよりも驚いているだけのようで大丈夫そうだ。
「しっかり掴まっていてクダサイ」
「掴まってってマシャドさん、その先崖‼‼」
ふわりと躊躇いなしに崖に飛び込めば彼女は俺に必死で抱き着いてくる。
軽く崖の出っ張りを足場にしつつ、次は木に飛び乗りそのまま他の木へと軽く渡っていく。
「怖いデスカ?」
「こ、怖いわよ‼‼」
「大丈夫、絶対に落としまセンよ。それよりもいい景色デショウ?」
落とさないという意思表示のために支える手を強くすれば、彼女は少し余裕が出来たようで周囲を見渡した。
現在はこの周辺で一番高い木のギリギリ人が立っても問題無い枝の上。
「すごい、もう私たちが居た所が遠い」
「えぇ、少しは見直しまシた?」
そして惚れました?
「フフッはい、驚きました」
彼女の笑顔が嬉しい。
じわじわと胸に広がっていく幸福感を感じつつ俺はまた軽く飛び降りて、皇女殿下に衝撃がいかないように地上に降りた。
降ろせば彼女は初めて会ったときの様に足が震えてうまく立てないようだ。
「スミマセン、俺は本当に強イと言いたかっただけナンです」
「前会ったときに、猫って言ったから?」
「それもアリマス。あと1つ忠告デス」
言うと共に俺は服を脱ぎ始めた。
流石に皇女殿下も驚いて逃げ腰になっている。
「男に獣化の姿を見せてほしいというのはこういう意味デス」
「え、わ、私そんな意味で言ったんじゃ」
「知ってまス、後ろ向いていてクダサイ」
バッと後ろを向くが、なんとも無防備だ。
平和ボケも大概にした方が良いとは思う。
全身に力を込めて獣化した後、回り込んで彼女の視界に入る。
「どうゾ、存分に愛でてくだサイ」
「……もしかして私、すごく失礼なお願いばかりだった?」
「獣化以外はそうでもナイです」
「ごめんなさい、今後気をつけます」
「イイエ、本当に触っていいですヨ?気になるんでしょウ?」
「…………じゃあ、失礼します」
ゴロンと彼女の傍に背中を向けて寝そべれば恐る恐る触れてくる。
同性同士、特に女性の方ならお互いの髪を触ったりするようによくあることだ。
だから俺以外の男に言わなければいいんです。
好きに触らせていると案外気持ちよくてゴロゴロと喉を鳴らしてしまい、2人で笑い合っていると息を切らした護衛が戻り、そのまま半日のんびりと過ごした。
触られるのもこの平和な空間もどれも心地いい。
そしてふと、ある考えが俺の頭に浮かんだ。
ずっと悩んでいた二つのこと。
俺は何のために生きているのか、そして、市民から願われているように王位を取りに行くのかもしくはそれを放棄するのか。
皇女殿下は何を思ったのか、俺に名前で呼んでほしいと言ってきた。
ずっと友達でいたいからと。
明らかに身分が違う。
驕った考えかもしれないがそれを理解したうえでの彼女なりの歩み寄りにも思えた。
彼女は俺と同じ気持ちなのか?
俺と同じように一緒に居るこの時間に幸せを感じてくれているのか?
一瞬、彼女、アンジェラのために俺は生きようとも思ったがすぐに何かが違う気がした。
アンジェラのことは好きだ。
もう完全に惚れている。
けど彼女の願いとは違い俺には欲がある。
俺は、俺の欲を大事にして生きたい。
俺はもう人を殺したくない。
俺はこの平和な時間を王国にも作りたい。
贖罪のためにも、生まれ育った母国を愛する意味でも王国を幸せにしたい。
振り回される生活ももう嫌だ。
そして、あわよくばアンジェラが欲しい。
「アンジェラ様、以前俺は王国で三番目に強いと言いマシたが、訂正シマス」
あれは一番強いのが国王で、二番目がアマデウス殿下という意味で言ったことだった。
「俺は王国で一番強くなります」
彼女は俺の言葉の意味が分からずに軽く頷くだけだった。
もしかしたら、この先王位が取れたとしてもアンジェラには振られるかもしれない。
それでも俺は王位が欲しい。
俺は、俺の幸せと欲のために生きたいと強く思ったから。
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