第十九話 どこを向いているの?
まずPDCAサイクルとは。
Plan(計画)
Do(実行)
Check(評価)
Action(対策、改善)
からなる目標達成や業務改善のためのステップのことであり、OODAループはPDCAサイクルよりも早い回転をすることにより他社よりも素早く動くことで販売戦線を勝ち抜けることで注目を集めつつあるものである。
内訳としては。
Observe (観察)
Orient (状況判断)
Decide(意思決定)
Act (行動)
実際に考え出したのが某国の軍人さんでこれを使って任務を完遂したとかしないとか。
まぁでも話のミソはそこじゃない。
OODAループは早い判断をするために大前提として、従事する者が同じ目標を向いていること、これが重要だと言っていた。
私は今、騎士団を説得することだけを目標にしている。
でも騎士団の人達が何を目指してどこを向いているのかを今の今まで知らなかった。
前提から私は間違っていたんだ。
貸し切りのため近くのテーブルに腰かけるように促した騎士達を見れば、彼らはきょとんと私を見つめていた。
「あの、騎士団は……」
(騎士団は何を目指しているの?)
そう言いかけて私はやめた。
帝国の剣となり盾となること。
それこそが騎士団の存在意義であることは私も彼らも知っている。
でも私が知りたいのはそうじゃない。
建前じゃない、彼らの本心が知りたい。
「皇女殿下?騎士団がどうされました?」
また何かを思いついたのかと思われているのか、微妙な面持ちで見てくる三人の騎士達。
「ルイス、ジェイコブ、ブレッド、貴方達はなぜ騎士になったの?」
「「「え?」」」
「私、騎士はとてもかっこいい職業だと思うけど、文官や領地経営も同じように素晴らしい職業だと思う。私は騎士に守ってもらいながら貴方達のことを知らなさ過ぎたわ。どうか教えてください」
「え⁉あ、いや……その…騎士になった理由……ほらルイス、皇女殿下がこうおっしゃっているんだから!」
と肘でルイスを小突くブレッド。
ルイスは神妙な面持ちでジェイコブを見る。
何?
志望動機がそこまで言いにくいなんてことはあるのだろうか。
「こほん!皇女殿下……我らは正義と信念を胸に帝国の剣となり盾となるためにetc.」
「もっと個人的な理由もあるのかと思っていたけど、皆そんなに崇高な理念の元に働いているの?」
私が社畜だったときは、私が働けて近くて資格が無くて給料がそれなりだったからだったのに。
「……俺は‼‼帝国中の全種類の女の子を口説き落としたい‼‼そのために近衛騎士にまで上り詰めました‼‼」
とブレッド。ルイスとジェイコブは頭を抱えていた。
「お前……皇女殿下の前だぞ」
「やっぱ馬鹿だこいつ」
「いいだろ‼その皇女殿下が本音を思し召しなんだ‼何より言い方は気をつけた‼」
言い方を気を付けたということは口説くだけではなくて、その先を見据えているのかもしれない。
でも、ブレッドが爆弾を投下してくれたのだ。
のらない手は無い。
「騎士ってやっぱり女性に人気があるの?」
「えぇ!あーでも〝騎士〟だけじゃあそこそこですね。人数は多いし役職が無いと特色が無いので後は飲みの席の雰囲気で押し切るしかなくなります。けど近衛騎士の破壊力は」
「やめろ、この面汚しが!」
「なんだよ、ジェイコブだって似たようなもんだろ!皇女殿下、こいつなんてドラゴンを打ち倒すっつってガキの頃騎士を目指し始めたんですよ!」
「ドラゴン!もしかして姫と救国の騎士に出てくるドラゴン?素敵ね‼」
姫と救国の騎士とはこの世界でよく読まれる童話だった。
よくあるドラゴンを打ち倒して姫と結婚する物語である。
「いや、今はもう流石に信じていませんが当時は本当に居ると思っていて……だって闇市でドラゴンの鱗とか売っているんですよ⁉」
『貴方が殿下を倒すんですか?告げ口はしませんが無謀では?』
『え?』
『ん?何か変なことを言いましたか?ドラゴンを倒すと聞こえたのですが、違いますか?』
突然話に入って来たマシャドさんに私はフリーズした。
彼が殿下というならそれはアマデウス殿下のことだろう。
『アマデウス殿下はドラゴンなノ?それ言ってモ大丈夫?』
『え?はい、見れば分かることですから』
どうりであの厳つい角で、体格は負けているのに側近に抑え込まれてもかろうじて動けたわけね。
『アマデウス殿下を倒すという話ではなく、こちらノ国ではドラゴンは空想上のモノだったノ』
情報量が多い、とりあえず私は最後のルイスに視線を送った。
「俺は選択肢が無くて、考えることは好きじゃ無いし家族仲も悪いし、独り立ちできるなら何でも良いと思ったんです。今はここが家族なので誰も傷つかないように頑張ってます」
「「このいい子ちゃんが‼」」
仲が良い。
さっきまで私のことを怪訝に見ていたのに、今は三人でじゃれ合っている。
うん、これが私の一番好きな道なのかもしれない。
「フフッありがとう、良い参考になったわ。丁度紅茶も来たみたいだしいただきましょう」
店主の妻らしき女性が出してくれた紅茶も新作チョコクリームもチーズケーキも絶品だった。
チョコレートクリームをマシャドさんはいたく気に入ったらしく、食べた瞬間目をまん丸にしているのが無性に可愛い。
猫にチョコレート。
本来だったらアウトな組み合わせに私は一瞬固まり彼を見た。
確か皇宮の食事はウネマ王国側から何も指示が無かったはず。
『こんな美味しいもの初めて食べました』
『そう……失礼だったらごめんなさい。マシャドさん、玉ねぎとかチョコモ平気なのよね?』
『チョコレートは初めて食べましたが、玉ねぎはよく食べますよ?』
どうやら消化器官諸々はヒョウとは違うらしい。
ウネマ人はやっぱり難しい。
そして数日後、私は騎士団を夕食会に招待することを騎士団長に相談した。
もちろん料金は私持ち。
「夕食会……今度は餌付けでしょうか?」
若干仲良くなったとはいえ、騎士団長との仲はまだそれなり。
でもこのはっきりした物言いも慣れれば好きになってきているのだから不思議だ。
「いいえ情報収集です!まずは皆さんが何を思って働いて何を目指しているのか、なぜこの仕事に就いたのか、全部知りたいんです!なので、アンケートと夕食会を一緒に決行しようかと」
OODAループのObserve (観察)と、言っていいのか分からないがとりあえずは情報収集が私は足りていない。
「それと情報通のカフェ店主に協力してもらって、街の人から見た騎士団のことも色々と調べているんです。夕食会に賛同していただけるなら良ければその結果をお教えしますよ?」
私の提案に騎士団長は視線だけ反応した。
「……どうせ我々が不甲斐ないとか言われているのでしょう。知っていますよ」
「その節はすみません。けど本当にそう言われているのか?言われているなら私との勝負は公のものでは無いしたった一回です。にも関わらず言われる原因を知る必要があると思います」
実を言うと、私は既にこの答えを知っている。
けどこれは交渉。
今言ってしまってはカードが無くなってしまう。
「はぁ、分かりました。タダ飯を断る理由もこれ以上ありませんし良いでしょう。全員は参加しないと思いますが」
「はい、来てくださった方だけで大丈夫です‼それと騎士団長もう1つお願いがあるのですが」
「まだあるんですか⁉」
「そう怒らないでください、ここにサインをしてもらえませんか?財務大臣に聞いたら騎士団長のサインが必要と言われたので」
そっと差し出すと、騎士団長は内容を一瞥してすぐにサインをして返してくれた。
「これくらいなら構いませんが100年前から400年前の帳簿なんて何に使うんですか?」
「食事制限が本当に伝統的な慣習だったのかを検証します‼」
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