第十二話 実験
お父様達の会議室に侍女を派遣したのは、単に会議の終了時刻を知りたいからだった。
敵の敵は味方理論を実行するためにも、ウネマ王国の状況を詳しく知りたくて、会議終了後に専門家をちょっと連れてきて欲しかった。
それだけだったのに……。
私は現在、会議室にお兄様と共に足早で向かっていた。
もちろん会議に参加するためである。
「大丈夫だよアンジー、一応当事者だからお父様も呼んだだけだろうし、緊張しなくていい」
「はい」
皇女で、私の場合自国ではなく他国に嫁ぐ可能性がとても大きいのに会議に出席することなど通常あまりない。
ことの発端は数十分前に遡る。
数十分前、私が会議室に送った侍女は休憩に入ったお兄様達と鉢合わせてしまったらしく、そのままお兄様付きで戻って来た。
「アンジー?」
「待ってくださいお兄様!私は別に邪魔をしようとかそういった意図はありません‼」
怒られる前に先に言うと、お兄様は大きなため息を吐いた。
「ハァ、分かってる。お父様がお呼びだ。アンジーも会議に参加するようにとのことだ。一週間アマデウス殿下達を滞在させることは決定したけど、それ以降の方針が決まらなくてね。
それと、アマデウス殿下の側近から謝罪をしたいと連絡が入った、その対応についても話し合っているところなんだ」
「え…」
「え、じゃない。今回のことは首をつっこむ気満々だったんだろう?やるなら正規のルートからやりなさいとお父様が言っていたよ」
「……はい」
そして、現在に至る。
お兄様のエスコートで歩きながらヒールの音が廊下に響く。
モーリス先生の話を聞いて、私は敵の敵は味方の〝敵〟とはウネマ王国が抱える問題にしようと思っていた。
実際の敵ではなくても【現在の私達の関係よりもより早急に解決しなければならない問題】を共に解決するように仕向ければ同じ状況が作れるのではないかと思ったのだ。
ただの思いつきに近いもののため、本当はもっと情報を集めて資料を作ってまともに、前世で言うところのプレゼンが出来るレベルまでもっていってから話始めるつもりだったのだが。
確かにお父様の言うことは正しい。
何かするなら正規ルートでするべきだ。
会議室の前につき、私はゆっくり深呼吸をした。
多分歓迎されない。
17歳で実績も無い小娘の言うことなんて聞きたくもないだろう。
完全に政治は大臣や宰相、この場に居る人達の土俵であり、自分は部外者。
けど、裏を返せばこれはチャンスだ。
この会議室の人達が、私に対しての敵対心が強ければ強いほどに一緒に問題に取り組めば、敵対心が薄まるということ証明できる。
そう、実験だと思えばいい。
「ありがとう。開けてください」
私の気持ちが整うまで待ってくれた衛兵に礼を言い、会議室の扉は開かれた。
初めて入ったわけでは無いが、以前お兄様とふざけて入ったときとは空気が違う。
普段は温和な顔を見せてくる高位貴族や大臣達が一様に私を見てくる。
ウネマ王国の様子や警備の問題も話合われているのか、騎士団長とメイド長も席についていた。
頭の中で、前世で読んだコミュニケーションの本を思い出しつつ動く。
まずは第一印象。
緊張している時ほどゆっくりと、大きく聞こえやすい声、肩は落として姿勢は正す。
そして私は淑女なので嫌味にならないほんの少しの微笑を加えて。
「お待たせいたしました。ホリングワース帝国第一皇女、アンジェラ・ホリングワース、ただいま参りました。帝国の英知が集うこの場にお招きいただいたこと、嬉しく、また誇らしく思っております。皆さまのおかげで帝国がここまで繁栄していること、この場を借りて感謝をさせてください」
どんな本だったか忘れたが、感謝を先に述べられると人は本当に強く出られなかったりする。ただし自然にやった場合に限る。
また、これは私の方には敵対心は無いし、あなた方の日々の仕事を尊敬しており荒す気はありません、という意味ももっていたりする。
それでも総勢20数名の半数くらいは渋い顔をしているが、残りの半数は少し表情を崩してくれた。
「アンジェラよく来たね。ここに座りなさい」
お父様に促されて、お兄様の後に続き席に着く。
「それでは会議を再開しましょう。では」
「発言をよろしいでしょうか?」
宰相が続けようとしたところ、一人の男性が遮った。
「シモンズ侯爵、何か」
「皇女殿下は聡明であらせられると聞きます。先ほどのウネマ王国を滞在させる案も皇女殿下から発せられたとか?であれば皇女殿下からの案をまずは聞いてみましょう」
シモンズ侯爵は以前から皇室に敵対的で、野心が強すぎる感じがあった。
それもあってか、ニタニタしながら私を見てくる。
会議に到着したばかりで他にどんな案が出たかも分からず、通常どういった流れでことが進んでいくかも分からないほぼ丸腰の私をいびろうとしているのだ。
お局様にそっくりのそのやり口に腹が立つ。
進行役の宰相はお父様に目配せをして、お父様は私を見てくる。
「どうする?何か案はあるか?」
「はい、僭越ながら」
はっきりと断言すると、周囲からはざわめきが広がった。
シモンズ侯爵は目を丸くしつつも、怒りをにじませている。
「まず、資料等はご用意出来ていないことを謝罪致します。そして案ですが、これは皆様のご協力なしには叶いません。私はこれを機にウネマ王国の詳細な調査と貿易を進めることを提案致します」
「ハハッ貿易⁉正気ですか?」
「はい、まず皆さんアルサナス共和国の建国の経緯をご存じでしょうか?」
「たしか、貴族が出資して平民が革命をした後に再建された国家だったと記憶しています」
周囲が口々に私に言わずに私の提案の感想を言う中、ひと際大きい声で三大高位貴族の一人、エリオット公爵が言ってくる。
エリオット公爵はこの状況を楽しんでいるのか、不謹慎にもちょっと笑っている。
「当時、平民も貴族もお互いに嫌悪感は抱いていましたが、それでもかまわずに手を組んだのは王家という強大な共通の敵がいたからです。つまり、問題が重複しているとき、その大小によって優先順位がつけられることが分かります。ここまでよろしいでしょうか?」
なんだか授業みたいな言い回しになってしまったけど、エリオット公爵やほかの貴族達もコクコクと頷いてくれる。
「なら、その優先順位を私達の期待する方向にもっていけばいいと思ったのです。ウネマ王国は現在複数の問題を抱えていることが考えられます。彼らに我が帝国の物を紹介して、問題解決へと繋がることを提示します。ウネマ王国側も本来婚姻を結びに来たことから考えてもこちらとは仲良くしたいと考えているはずです。
ではエリオット公爵、目の前にお金を出せば解決できる大きな問題が二つあります。貴方ならどうされますか?」
人に説明するとき、私は専門用語を基本使わない。
誰でも分かりやすいからこそ人は話を聞いてくれるのだ。
エリオット公爵が好感をもってくれていそうなので指名すると、公爵は笑顔で期待通りの回答をしてくれた。
「金額と問題の大きさによりますが、見合っていればすぐに解決に取りかかりますね」
「ありがとうございます。我が帝国と敵対するかどうかという問題の優先順位が下がったこと、そして解決すべき問題の優先順位が上がったことが見受けられます」
広がる先ほどとは違う好感触のざわめきに手ごたえを感じつつあると、シモンズ侯爵が割って入ってきた。
「ですが!その問題とはなんでしょうか⁉絵空事では政治はこなせないのですよ‼‼」
「はい、シモンズ侯爵のおっしゃることはもっともです。私の拙い考えだけでは実行は難しいでしょう。ですので、皆さんのお力が必要なのです。ウネマ王国の問題の詳細な調査も、その解決方法の提示も、今まで帝国を繁栄させてきた皆様の手腕が必要です‼どうか、お力を貸していただけませんか?」
難癖をつけたはずなのに、それをそのまま認められたからか、シモンズ侯爵は私をどう扱っていいか分からないように変な顔をしていた。
「皇帝陛下、私はこの案、まずは調査だけでもしてみる価値はあるかと存じます」
エリオット公爵が率先して言ってくれると宰相や他の高位貴族も頷いてくれた。
「ふむ、フレデリクはどう思う?」
「ハハッここまでやり込められる日がくるとは思いませんでした。私も同意し、アンジェラに負けないように精進致します」
「良い答えだ。ではアンジェラの案でまずはウネマ王国の問題の調査といこう。だが期間があまり無い。すぐに見つからなければ元々フレデリクが出していた和解金ということで手を打とう」
その後、メイド長から発せられた滞在中のウネマ王国のある問題がきっかけで、私は翌日南宮へと向かうことになり会議は終了した。
終了後、私は一目散にある人の元に向かう。
「騎士団長‼」
私が呼び止めると、冷たい表情で騎士団長は振り向いた。
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
ちなみに、一緒に問題を解決していく方向にもっていくのは泥棒洞窟実験という実際にあった心理実験からきています。
アンジェラはそんな実験を知らないので『敵の敵は味方』から半ば無理やり派生させました。
もしかすると付け焼刃の知識なので、私が書いた内容とは違うかもしれませんが、興味のある方はぜひ検索してみてください。




