第11話 事例
「じゃあアンジー、僕も宰相たちのところに行くから部屋で大人しく休んでいるんだよ?護衛を増やしているとはいえ、あちらがどう出てくるかまだ分からないからね」
「はい、あのお兄様!部屋には居るので人を呼んで会うのはいいでしょう?会いたい方がいるんです!」
私の言葉に、お兄様は扉の外に半分以上体を出していたのに、ちょっと戻って探るような目でじっとこちらを見てくる。
「一応聞くけど、ウネマ王国側の人間じゃないよね?」
「違います。歴史の先生とかあとは……必要に応じて?」
お兄様相手なので可愛い子ぶって小首を傾げれば、頭を抱えられてしまった。
「ルイス、ジェイコブ、カルメン、皇子命令だ。アンジーの希望は出来る限り叶えてもいい。行商を呼ぼうが音楽隊を呼ぼうが好きにさせろ。だがこの部屋が安全な限り、出すな、分かったな?」
ルイスとジェイコブは部屋の前に居る近衛騎士、カルメンは私の専属侍女。
「「「承知致しました、皇子殿下」」」
「お兄様、私のこと信用してないの?」
「最近のアンジーは妙に行動的だからね。じゃあもう本当に行くよ」
「はい」
宮が違うとはいえ、面と向かって私に襲い掛かろうとしたウネマ王国の人間が居るからか、お兄様も騎士達もピリピリしていた。
まぁそれはそれとして。
私は早速歴史学の先生を自室に呼び寄せた。
「こんにちは、モーリス先生。急に呼び立ててごめんなさい」
「いえいえ!それよりも大丈夫ですか?ウネマ王国の人間に襲われたと聞きましたが」
30代後半でボサボサの髪を一つにまとめてビン底眼鏡、いつもギリギリの清潔感で皇宮への入場を許可されるモーリス先生。
彼は私やお兄様の歴史の先生であり、私の知る限り最も名高い歴史学者だった。
「いえ、襲われてはいませんが……それよりも先生に聞きたいことがあってお呼びしたんです。今まで戦争まではいかないまでも険悪な国が仲良くなった事例はありませんか?」
先生の好きなお茶やお菓子を勧めつつ、聞くと怪訝な顔をされた。
それはそうでしょう。
今、政治に詳しい学者や大臣、ウネマ王国に行ったことがある者は会議をしている。
そのため、王国に関する者や、政治に詳しい者を私が呼ぶわけにはいかない。
それに彼らが相談して今の状況を打開する方法を見つけられないのなら、私にも無理だ。
でも長い歴史の中には天才といえる頭の良い人達が数多くいる。
そこから何かヒントが見いだせないかと思ったのだ。
「あるにはあります。ですが、アンジェラ様が希望するようなものは存在しません」
モーリス先生はおもむろに鞄から一枚の地図を取り出して広げた。
それはこの世界の地図。
この世界は私の知るどのゲームでも小説でもない、ただただよくある感じの異世界。
主に二つの大陸からなり、その二つの間には海が広がっている。
モーリス先生は帝国側の大陸にある国々を指さしていった。
「この国は隣の国と長く対立していましたが、現在では比較的友好的な関係にあります。その要因として一番は携わった人間の努力がありますが、その次が時間です」
「時間?」
「はい、元々ある国王の愛妾誘拐事件とその犯罪者への対応がきっかけで関係が悪化したのですが、そこから約200年経ち、当時の状況を詳しく知る者がいなくなったことにより対立するよりも友好的にした方が互いに利がある、ということで友好的になった傾向が強いですね。
あとこの国に関しては布の精製技術が特殊で、それが隣国で流行し当時の国王が惚れこんでいた側室にせがまれて貿易のために平和協定を結んだとも言われています」
私が頷くと、モーリス先生はまだ私が納得していないことに気がついて一つ一つ国を指さしながら説明してくれた。
戦争に至る直前、その戦力差からすぐに降伏したためほぼ無傷で属国となった国。
世界制覇を夢見て戦略を始動させる直前、その責任者が死亡したため方針を転換させ関係改善に努めた結果100年越しでやっと不可侵条約を結べた国。
どれも私の求めるものとは違うし、時間がかかりすぎる。
「アンジェラ様、そう落ち込まないでください。これは誰にも正解を導き出せないような問題なのです」
「分かっています、それでも出来るだけのことをしたいんです」
言いながら紅茶を飲むと、ある国が目に入った。
帝国から少し離れた小さな共和国。
「モーリス先生、このアルサナス共和国って確か革命で生まれた国ですよね?」
「え?えぇ、今から約500年前の革命で誕生した比較的新しい国です。革命以前は王政を敷いていたのですが、王家の腐敗が酷く、平民が主導し王家と対立していた貴族が出資して起こされた革命です」
「当時の貴族と平民も仲が良くなかったですよね?」
「まぁ、お互いに思うところはあったと思いますが実害のある王家を滅ぼすことを優先したんでしょう。平民は行動を起こしたいが金が無い、貴族は王家を打ち倒したいがリスクを負いたくないという利害が一致した結果です。あのアンジェラ様?」
「つまり敵の敵は味方ということですよね?これ、もしかして使えませんか⁉現状の私達よりも大きな敵が現れればお互いに協力して互いを知る機会も増えると思うんです‼」
「えっと、大きな敵ってどこにいるんでしょうか?今や帝国とウネマ王国は2大勢力ですが?それにそもそも戦争を起こさないための行動で戦争を起こすのは矛盾していませんか?」
「思うのですが、敵って別に見える敵だけが敵じゃないと思うんです」
「はい?」
頭にハテナマークが飛んでいる先生をよそに、私はお父様達が会議をしている部屋に侍女を一人派遣した。
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