第十話 間違ってた
この小説の表紙を絵の練習かねてノリで描いたわりに上手く描けたので載せました。気になる方は一話にあるので見ていただけたら嬉しいです!
「何の騒ぎだ‼‼」
怒り狂い自国の側近に羽交い絞めにされている殿下、そして私の後ろで臨戦態勢に入りつつある護衛騎士が複数名、そんな最中にお父様とお兄様はやってきた。
どう見ても怒っている。
チラッと見れば私の護衛をしている騎士が一人足りなくなっていたため全て事情を説明に行ったようだった。
「皇帝陛下‼違うのです!少々行き違いがアリマシテ‼」
殿下から少し離れていた初老で牛の様な大きい角をもつ男性がまくし立てようとするが、その瞬間無数の剣がお父様を守るように初老の男に刃を向けた。
お兄様の魔法だ。お兄様はお父様を守るように立ち、その前にまた騎士達が立つ。
殿下やその側近、初老の男も目を剥き、驚いている様子を見るに魔法のことは知らなかったのかもしれない。
「お兄様お止めください、最悪の事態になってしまいます‼これはただお互いに相手のことを知らないから起こったようなものです!」
お兄様はこちらをチラリと見たがそのままウネマ王国民に刃を向けるのを止めない。
一触即発とはまさにこのことだろう。
布のこすれ合う音さえ聞こえそうな静寂の中、お父様が軽く息を吐いた。
「互いに状況を話し合わねばならないな。アマデウス殿下、フレデリクや騎士に剣を収めさせるが其方もこちらには危害を加えない。約束出来るか?」
「えぇ」
流石に頭が冷えたのか、アマデウス殿下が頷くとゆっくりと殿下から離れる彼の側近たち、お父様が軽く手を挙げればこちらの護衛も剣をしまい始め、お兄様の宙に浮いていた剣も地面に落ち始めた。
その後、当事者である私も自室での謹慎を命じられ、事細かにお父様や宰相に事情を聞かれた。
「お父様、これって婚約は…」
「無しに決まっているだろう⁉ほらおいで私の可愛い娘。怖かっただろう?」
お父様は皇帝の顔を脱ぎ捨て、父の顔になり私の頭をよしよししてくれる。
お兄様もまだ怒りが収まらないのか、目つきが鋭いまま私の背中をさすってくる。
「今の時点で気がついてよかった。もしもアンジーがこのまま嫁いでいたかと思うと…」
「……でも…こんな終わり方ではいつ何が起こるか分からないわ。お父様、帝国側もウネマ王国のことを何も知らずに見下しています。彼らも同じなのです!だからこれから知っていけば!」
「なりません!そんな生半可な態度をとれば見下しても良い相手だとみなされてしまいます‼この件は正式にウネマ王国に抗議しなければなりません。帝国の威信をもって舐められるわけにはいかないのです!彼らにも本日この帝国から出て行っていただきます‼」
宰相も怒り心頭で私から聞いた情報をまとめ、礼をして去って行った。
「アンジー、優しさは分かるがこれはそんな簡単な話ではないんだ」
お兄様は私を引き寄せ、抱きしめてくれた。
お父様もお兄様も周囲の侍女達も皆心のお疲れ度、つまりストレス値は上がっていく。
いつもは高くても30前後、なのに今は70を過ぎてさらに上がっていく。
嫌、こんなのは嫌。
大切な人達が傷つくのは嫌。
だから、少し引っかかるものがあってもそのまま結婚しようとしたのに。
【これは前の私からの一生のお願い。少しでも自分に正直に生きて】
杏の声が聞こえ、私は自分の手を握りしめた。
「自分に……正直に……」
「アンジー?」
握りすぎて爪が痛いくらいに手に食い込み、お兄様もお父様も私を見つめる。
私の望みって何?
騎士団ではいじめっ子である騎士団長を打ち負かした。
それが正しいことだって信じていた。
けど結果は騎士団長達は渋々私や急遽出来た制度に従っている。
今回も同じように戦って勝てばいいの?
今度は騎士団長達とやったお遊びとは違う。
本当の犠牲者が出る。
お互いに相手のことを知らなさ過ぎることは合っていると思うのに……。
口に出して分かった。
お互いに知らないことが多いから理解し合いましょうなんてことは、互いに友好的にしようという根本があって成り立つ。今の状況でいけば夢物語だ。
でも、私はもう知っている。
ヒョウ耳の入れ墨細マッチョ、マシャドさんの顔が思い浮かんだ。
マシャドさんが特別かもしれないけれど、全く友好的に出来ないわけじゃない‼
お兄様の胸を軽く押し、抱きしめられているところから抜け出し、私はお父様の方に姿勢を正して頭を下げた。
「皇帝陛下、今からお伝えすることがどれだけ我儘か、自分で分かっているつもりです。ですがどうか、一週間彼らを追い出すのを遅らせていただけないでしょうか?」
私の言葉にお父様は悲しそうになりながら頭を振った。
「アンジーそれは出来ないよ。アンジェラのせいじゃない。これは起こるべくして起こった仕方の無いことなんだ」
小さい子に諭すように語り掛けてくるお父様を静かに見つめる。
大丈夫、出来る。
私はアンジェラでありつつも、杏の記憶もしっかりと思い出した。
コールセンター時代、まだストレスで頭がぼやける前は実は結構勉強していたのだ。
コミュニケーションの基本は相手の話を聞き、相手の思考を読むことにある。
それはクレームであれ、商品説明であれ、変わらない。
ゆっくりとお父様のテンポに合わせて、けれど社会人として語りかける。
「では陛下は両国の関係がこのまま悪化することをお望みなのでしょうか?」
お父様の判断基準はいつも家族と国民のため。
そして国民全員の命を預かっているからこそ、正義や信念、そういった言葉を嫌っていることを知っている。
お父様は私の言い方が変わったことで、肩眉を上げ、すぐに皇帝として答えてくれた。
「もちろん平和を望んでいるが……それでも今回のことは看過できない。アンジェラが娘だから大切で嫁に出すことが出来ないというのもあるが、このままこのことを無かったことにして婚姻を結んだ場合、我が帝国は王国に人質を渡すことになってしまう。平和を願うからこそ、毅然とした対応と婚約話の破棄が必要になるんだ」
「アンジー、一応言っておくが自分が婚姻した後戦争が起きたとしても無視してくれっていうのは聞けないよ。実の愛娘を見捨てれば国民からも周辺国からも信用を失ってしまう」
お兄様も隣から補足してくれた。
私はゆっくりと頷き、またしても2人のテンポに合わせて話す。
「皇帝陛下と王子殿下のお気持ちは分かりました。ですがやはり今のアマデウス殿下方の状況を考えて、一週間は遅らせた方が良いかと思います。彼らは約二か月間の長い船旅を終えてやっとこの国に来たばかりです。まだ出航の準備はおろか、船員たちの休養も取れていません。彼らから見ればまともな準備をさせず、話も詳しく聞かずにただ追い出したように取られても仕方が無い状況です。こちらに非が無いことを示すためにも、出航の準備期間分くらいの猶予は必要不可欠です‼」
私が言いきるとお父様は口元に手を当てながら深く考え込んだ。
ウネマ王国は最近急成長している話題の国。周辺国も今のウネマ王国の問題には敏感なはず。
ならば、周辺国に帝国は全く非が無く、被害者なのだとアピールするためにも一週間くらいの猶予は必要だと、お父様ならそこまで考えるだろうと思って言ったけど……。
静かな室内でドキドキと私の心臓の音だけが耳に響く。
あまり長く、一から十まで話しても人は聞かない。
お父様が推測しそうなことは言わなかったけど、もっとはっきり言った方がよかった?
頭の中で色んな案が出てくるなか、長い沈黙を破りお父様が一言。
「……………………一理あるかもしれない…」
お父様は静かに言い、チラッとお兄様を見た。
お兄様の意見を聞いているのだ。
「……私も、出航の準備が整うぐらいの猶予は与えるべきかと存じます」
「うむ、宰相や大臣達と話をしてくる。アンジェラ」
「は、はい‼」
「大きくなったな。紛れも無く国を担う者の言葉だ」
それだけ言うと私の頭を軽く撫でてお父様は出て行った。
じわじわと達成感とも承認欲求ともいえるものが沸き起こってくる。
キュッと口を引き結び、私は喜びを止めて次のことへと思考を進めた。
今喜ぶのは違うのだ。
私はこれから、敵対するでもなく舐められるわけでも無い、3つめの選択肢を見つけなければならないのだから‼
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