そしてお約束の展開だよ、男子諸君
「な、何するのよ!」
「離してください!」
何故か女子だけが狙われて、その灰色で太い触手で縛り上げられてしまった。粘り気の高い粘液は行動を阻害するので、避けられなかったのは仕方ない。なぜ、女子のみを縛り付けているのか。それを知っているのはイソギンチャク本人のみだ。とにかく女子は掴まれた触手の中から脱出しようと試みるものの、粘液と筋肉の硬さによってなかなか抜け出すことは出来ない。挙げ句、締める力がジリジリと強くなっている。
「チッ、戦闘力のない方を狙ったってことか……?」
「早く助けないとヤバいぞ、アウル!」
「わかってる!さっさと奴の弱点を叩くぞ!」
「【恨め、怨め、憾め。悪意と敵対す己を。悩め、迷え、悔いろ。邪の力を持たぬ己を】」
イカルの玲瓏たる詠唱を背中に受けながら、アウルとユウセイ、クレソンが並んで駆け抜ける。アウルの手にはナイフ、ユウセイは十手を持っている。
イソギンチャクは先ほど縮めた時に触手の再生を始めていて、もう既に八割ほどの触手が再生している。よって無論先程のように触手が降ってくるが、その数は明確に少なくなっている。女性陣の拘束に複数本の触手を使っているために違いない。その間隙を縫って、テンポよくイソギンチャクに近づく。多方向からバラけて近づいていることで、どこに火力を集中すればいいのか分からなくすることも行っている。なので、誰か一人が攻撃を受け持つことになるだろう。そしてそうすることで本命たるイカルの魔術を通す作戦だ。
「【邪は力を削ぎ、志を挫く。闇なる力の拘束を何人も逃れることはできぬ】!」
「───!!」
「【闇よ、縛り貶めろ】!」
攻撃は前衛を走るアウルたちに集中したおかげで、無傷でイカルが詠唱を完成させた。魔力が跳ね上がり、魔術が発動する。地面が闇色に染まり、その闇の池から黒いナニカが何本も飛び出てきた。よく視ればそれはタコの足のように吸盤がついており、見るからに身体に悪そうな色合いをしている。
それらの闇の足はうねりながら伸びて、イソギンチャクの触手を逆に絡め取ろうとする。どうやって感知しているのかは定かではないが、触手のようなものが迫っていることはわかっているのだろう。拘束に使っていない触手を数多射出して、その闇の触手と激突する。
灰色と漆黒、二種の触手が互いに絡み合い、拮抗する。
「おい、拮抗してんぞ!大丈夫か!」
「ハッ、俺の魔力をだいぶ食ったんだ、それだけで終わるかってんだよ」
「────!?」
イカルがそう啖呵を切った瞬間、闇の触手の様子が変わった。黒いモヤが滲み出てきて、灰色の触手を蝕みだしたのだ。そう、それはまるで灰色の触手が粘液を分泌して相手を戒めるように。
二つの成分は混ざり合いながら拮抗して、だが明確に優勢が着き始める。灰色の触手がブルブルと震え始めたのだ。無論、そこに込められる力も減っているのがその勢いから分かる。イカルは腕を組んで魔力を注ぎ込みながら、ドヤ顔で解説をし始めた。
「そいつに触れている間、力が抜けていくんだよ……テメェみたいな厄介なヤツを仕留めるために覚えておいて正解だったな」
「ナイスだ、イカル!」
アウルは快哉を叫んだ。闇色のオーラが触手から伝わって本体を染めていく。力が緩まったことで、女性陣が開放された。だが、その身体は粘液まみれである。チラと見ると、あられもない姿で放り出されていた。その姿は皆服がアウルの願力を使わなくともスケスケで、なんとも眼に毒だ。直ぐ様視線を外すものの、その魅力的かつ扇情的な姿は脳に焼き付いて離れない。カレハの姿など二回目だし、より一層意識してしまうもの。どうにか振り払って、イソギンチャクに八つ当たり気味に攻撃を重ねていく。
「うちのパーティメンバーをこっ恥ずかしい姿にしやがって……最こ、じゃなかった、絶対倒してやる」
「本音が一瞬出てるぞ、ユウセイ」
「しーっ!」
軽口を叩き合いながら、イソギンチャクを叩いていく。その間にも漆黒の侵食は着実に進んでいて、ついにどす黒い色がイソギンチャクの根元部分を染め始めた。そこの部分はとても柔らかく刃が突き刺さり、力だけでなく防御力をも落としているのがわかった。だが多分最もダメージを与えているのはクレソンの双剣であり、血を掻き分け飛び散らせながらどんどん傷を刻みつけていっている。
「ユウセイ、トドメを!」
ちまちまと削り倒すのも悪くないが、この魔獣は再生能力を持っている。触手だけに再生能力があるとは限らないので、一発で倒してしまうほうが得策に決まっている。本当であれば、カレハかハニナの一撃がいいが、あの二人は今粘液まみれだ。露骨に動かせるはずがない。
「あいよ。【情報付与】対象:ユウセイ・シナノガワ 効果:脚力増加、動体視力向上」
「こいつも使え。その杖よりかはトドメに向いてるはずだ」
「ありがとう、イカル」
ユウセイはイカルが差し出したフランベルジュを掴み、魔力の改変によって強化された脚力を使って飛び上がる。高速で飛び上がった身体はすぐに天井近くへとたどり着く。身体中を切り傷刺し傷でいっぱいにしているイソギンチャクは知ってか知らずか、その黒く染まりきった触手をどうにか動かそうと震わせる。だが、完全に力が抜けていて動かない。笑みを深めたユウセイが、天井を蹴っ飛ばして隕石のように落下する。その手のフランベルジュが鈍い輝きを尾のように残し、流星がイソギンチャクの中心に墜ちる。
「はあああああああああッッ!!」
「─────!!」
防御すら出来ずに身体の中心を刺し貫かれたイソギンチャクは、一度ビクンと跳ねると、すぐに動かなくなった。触手はぐったりと力なく垂れて、粘液が垂れ流される。
「やった、か」
「面倒くさかったな、本当に」
「だからこいつは嫌いなんだ……」
物言わぬ身体となったイソギンチャクを睨みつけて、アウルたちは愚痴る。
クレソンは吹き飛ばされた仲間の元へ駆けていった。すると。
「……そろそろ助けてくれませんかねえ」
「イカル、水の魔術が欲しいさね」
背中の方からどんよりとした声と、ハニナの変わらない声が聞こえてきた。そう言えば、女性陣は未だに粘液まみれである、と思い出したアウル。イカルはそれを覚えていたようで、振り返ることなく返答する。
「今あの魔術で魔力使い切ってんだわ、この魔道具を使いな」
ポイと投げたのは筒状のもので、中に水を生成する魔法陣が刻まれた魔道具である。
どんよりした声の主であるエディアは、ユウセイの肩を後ろからガッチリと掴んだ。ぎりぎりと、やけに力がこもっているのはなぜだろうか。
「ユウセイさん、一瞬私の方を視てましたよね」
「え、なんでそれを……じゃなくて、そんなことしてないが」
「誤魔化しきれてないじゃないですか!ひどいです!」
「俺悪くなくなーい!?!?」
「それでも視ないようにすることは出来たじゃないですか!」
ぎゃあぎゃあと叫び合うユウセイとエディアに嘆息しながら、シェイカを迎えに行くアウルなのだった。
自分もカレハの肢体を視てしまったことを隠しながら。




