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見た目に反して

「後ろに下がってな」

「わかった」


シェイカを後ろに隠したその直後だ。ブルルル、と触手の根本が震えた。そこが本体なのだろう。そしてその本体は何処にも眼がついているようには見えないが、的確にアウルたちの方向を狙って触手が何本も放たれた。


「しかも粘液のおまけ付き……確かに面倒な相手だな」

「つーかその…………言わぬが花か」


アウルは触手を横っ飛びで避けながらそう評した。バックステップで回避するユウセイは、なにか言いたそうな顔だが結局言葉を紡ぎきらなかった。まあ、その先に繋がる言葉は女子がいるこの場では言えないだろう。

先手を取られた。ヌタヌタとして掴みづらい触手が雨のように連続で降り注ぐが、全員それらを慣れた動きで避けていく。

なぜ攻撃に対して反撃しないのかと言えば、先程イカルが切り飛ばしたときに、再生しながら粘液を撒き散らしたのを見たからだ。絶え間なく飛んでくる触手を全て切っていては、そこら中がベチョベチョの海となって、魔獣側のフィールドと化してしまう。だからこそ、反撃せずに、本体を一気に叩こうという作戦だ。

とはいえ避けるのも完璧とはいかない。何度も打ち付けては引っ込んでを繰り返す触手を予測するのも簡単ではないのだ。たたらを踏んでしまうことばかりで、本体に近づくことも難しいのが現状だった。


「クッソ、めんどくさい!」

「もう我慢の限界よ!」


しびれを切らしたカレハがジャンプする。もちろんそこにうねる触手が殺到し、カレハを打ちのめさんとする。だが、カレハも無策で飛び出すほど馬鹿ではない。空中でクルッと一回転し、その勢いのままに正面から伸ばされる触手に、蹴りを叩き込んだ。ぼにゅん、という間抜けな音が響くが、衝撃は確かに触手を撃ち抜いた。蹴られた触手はたじろぐように後退するも、たかだか一本。それ以外の周りの触手はあいも変わらず揺らめいていて、すぐさま飛び出せるのは眼に見えていた。だからこそ、一石を投じる価値がある。


「カレハ!これを使え!」

「ありがとう、ユウセイ!」


ユウセイが何かを投げ飛ばす。それは、細長い武器──ユウセイの十手だ。パシッと上手くキャッチして、カレハは構え直す。

触手たちが一斉にカレハに殺到し、そのまま圧潰される寸前。カレハは十手をバットのように構えて、全力でフルスイング。誰かを叩いたときの肉音を数百倍したかのような凄まじい音が響いて、殺到してカレハを押し潰すはずの触手が半ばから千切れ飛んだ。それと同時に、粘液が取り囲んでいた触手全てから弾ける。


「────!!」

「千切れました!けど……再生しない?」

「いや、ほんの僅かだが肉が増えてる。ゆっくりと再生しているんだろう」


そう、エディアが気づいた通り。カレハが全力でぶっちぎった触手の先は、まるできれいな断面で、先程イカルが切ったときのように、すぐさま再生しないのだ。多分、ほぼ同時に大きなダメージを複数の触手に与えたことによって再生が鈍っているのだろう。触手の弾雨が途切れた今こそ攻めどきだとアウルは判断し、ヤツの身体を隅々まで観察し、発見する。


「触手の根本、その真ん中!そこが魔力の流れの起点だ!」

「了解」


アウルの叫びに返答をしたのは意外にもクレソンだった。その手には、対で一つの武器をなす短剣……双剣が握られていた。クレソンはバネのように全身を伸ばして低い姿勢で飛び出し、一気にイソギンチャク本体へと肉薄した。手の内の双剣が閃き、イソギンチャクの身体に浅からずの傷を刻みつけていく。無論何もしないで無抵抗に殺される生物など存在しない。イソギンチャクは先が千切れた触手を勢いよく引き戻し、後ろからクレソンを強襲する。


「おい、クレソン……」

「危ないですよ!【精光弾(クゲル・リヒト)】!」


エディアの魔力がトリガーして、光の弾丸が生成、射出される。引き戻る触手にクリティカルヒットし、その表面を焼き焦がす。もう一つの属性である土属性の魔弾ではないのは、触手を覆う粘液に阻まれることを予測したからだ。光の熱で焼けた肌は粘液では防ぐことが出来ない。イソギンチャクはその触手をのたうち回らせて、痛みに震えた。

後ろからの攻撃を知らず知らずのうちに防いでもらったクレソンは、眼の前のイソギンチャクに幾重にも傷を重ねていく。そのまま身体に登って、身体の中心を目指す。


「────ッッ!!」

「なっ!?」


だが、それだけで終わるのならば10階層程度の魔獣でしかない。イソギンチャクは身体全体を震わせる声なき声を響かせて、上に乗ったクレソン(はむし)をふるい落とす。触手が空を滑って本体に集まり、力を貯めるように一斉に縮んだ。


「何を……!」

「気をつけろ!ここからは、高速だ!」

「ッ!」


刹那、縮んだ全ての触手が音速ほどの勢いで射出された。先が尖っていないとは言え、筋肉の塊たる触手がこれまでとは段違いの速度で放たれるのだ。避けきることが出来なかったクレソンのパーティメンバーが一瞬で壁に吹き飛ばされて、脱落する。機転を利かせてしゃがんでいたエーゲン・ラフトやイカルたち、クレソンは無事であるが戦力になかなか大きな影響を与えてきたのは確かだ。


「危なかった……」

「安心するのはまだ早い!こいつの厄介なところは──!!」


一直線に柱のように伸ばされた触手からが妖しく輝く。そして、その全てから粘液が大量に放出された。しゃがんでいた皆にその追撃が避けられるはずもなく、頭から粘液を被ってしまう。


「きゃああああっ!」

「うぇー……ぬたぬたする……」

「チッ、こっからが本番だ……」


皆々が気持ち悪いと呻く。粘液は生暖かく、この状態で走ろうものならすっ転ぶこと確実といった粘り気がある。みんなの声を聞けば、怪我はしていないが粘液をべっとりと被っている状態だということが分かる。

無事かどうかを確かめるためにアウルはカレハを見るが、服が粘液で透けて、見えてはいけないものまで見えてしまいそうになっていた。慌てて視線をそらすものの、一瞬見えたものはなかなか脳に焼き付いて離れない。意外と胸あるんだな、という男の感慨を振り払おうとするものの、アウルだって年頃の男だ。同い年のあられもない姿に、動揺するのは当然の帰結である。

アウルはイソギンチャクのことを恨みがましい眼で睨みつけるものの、どこ吹く風と言うよりかは眼がないから気づいていないのだろう。どこまでもおちょくる魔獣である。

当然これが有利に働くのはイソギンチャク側なので、この機会を見逃すはずもないだろう。

触手が蠢き、女子の身体を縛り上げたのだった。

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