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犯人はどこに行ったのか

「さて、とりあえず帰還の目処を立たせるのが先だな」

「こんな瓦礫、どうやって退かすんだ?」

「カレハとハニナの力で吹っ飛ばすっていうのは……」


ユウセイがそう提案するが、ハニナ本人がゆるゆると首を振って否定した。


「できないことはないさね。でも、やらないさ」

「何でだ?」

「よく考えろ、この先の通路のことをよ」

「あ……」


この先の通路は部屋に接続しているだけあって部屋よりも狭く細い。そんな場所に、大量の瓦礫を人外の膂力で吹き飛ばせばどうなるか。答えは簡単。さらに連鎖して崩落が起こり、大惨事となるだけである。

それに遅ればせながら気づいて、ユウセイは自分の失念を恥じた。気にすんな、と笑いつつイカルは続けた。


「こちらの食料が長く持つんなら、地上からの救援を待てるが……クレソン、お前らの食料は?」

「生憎、持って2、3日ってとこだな。お前らこそ持ってないんだろ」

「ああ。こんなことになるんなら、保険を掛けておくべきだったな」

「つまり、地上からの救援を待っている暇はないってことだよな?」

「ああ。このままいけば、全員餓死して魔族の墓の中だ。守護者上層部(うえ)が、この事態を静観しないわけがないから、いずれ救援は来るはずだが、期待はできないな。即座に動けるわけではないし」


必要なのは、文字通りの閉塞状況を打破する策である、ということだ。

アウルは思考の沼に潜り込んで、なにか策を考えようとする。だがしかし、返ってくるのは手詰まりという無情な現実だけ。無論、皆で協力して少しずつ運び出すという作戦もなくはないが、あまりに時間がかかる上に余計な体力を消費してしまう可能性すらある。最後の最後まで取っておくべきだろう。


「あー!余計なこと考えていても仕方ないわ!とにかく動くのはどうかしら?」

「そんなことしてる余裕は…………いや待て」


カレハが我慢の限界だというように唐突に立ち上がってそう言った。そんな向こう見ずな提案はすぐさまイカルに却下される……かと思ったが、イカルは手を顎に当てて急に考え込み始めた。なにか閃くものがあったのだろうか。

ポンと手を打って、それからクレソンの肩を掴む。


「おい、何処の階層まで降りたことがある?」

「いきなりどうした……第42階層だ」

「なら、お前らが知らないのも無理ないか」

「まさかイカル、あそこまで潜るつもり?」

迷宮要塞(ここ)で安全が確保されてんのは、あそこしかねぇだろ」


一体何処なんだと、クレソン一行とエーゲン・ラフトは首をひねる。

まるでいたずらの種明かしをするかのような笑みで、イカルは下を指さした。


「第50階層。そこに築かれている、人間たちの防衛前線まで行くぞ」

「「第50階層!?」」

「ああ。あそこは食料を育てて自給自足が成り立っているはずだ、そこに転がり込めばいい」

「50階層まで行けるのか?」

「ああ。俺たちは何回か行ったことあるしな」


話を聞く限り、メリットしかない話だ。というか、生き残るためにはそれが最善とも言える。ここから30階層下というのが唯一の懸念点であるが、42階層まで潜っていたというクレソンたちの助力もあればある程度リスクを低減できるだろう。

アウルはそこまで考えて、エーゲン・ラフトの総意として頷く。クレソンもそれで異論はないようだ。


「じゃあ、とっとと移動するか」

「移動のついでに、犯人も見つかるかもしれないな」

「そうだ、犯人。犯人は、絶対ここより下にいるはずなんだよ」


アウルがそう言葉を紡ぐと、話しかけてきたユウセイとエディア、カレハが首をひねった。なぜそれが言い切れるのかと言う表情を浮かべているので、言葉をつなげて補足する。


「あの破壊痕を見たか?」

「いや、じっくりとは……」

「じゃあ思い出してくれるだけでいい。あの瓦礫の上、こちら側から攻撃をかけたようにひび割れていたんじゃないか?」

「た、確かに……抉れ方が、こちらから何かを高速でぶつけたような感じだったし、天井の奥がクモの巣状に亀裂が入ってたな……」


だから、犯人は向こう側にいるのでなくこちら側にいるとアウルは考えたわけだ。もちろんそういう偽装工作を行っていて、それに乗せられているのも否定はできない。だがそんなことを逐次考えていては文字通り全てを疑わなければならない。しからば、まだこちらにいると考えるほうが労力も少ない。


「おい、お喋りはそこまでのようだぜ……魔獣だ」

「また魔獣か……普段の迷宮要塞(ダンジョン)でも、こんな頻度で出会うのか?」

「ああ。というか、上層が魔獣が出なさすぎるだけだ。これくらい出るのは中層じゃ当たり前、下層付近になってくると、ひっきりなしに襲われるのも茶飯事だぞ」

「そうなのか」

「──迷宮要塞(ダンジョン)とは、魔族の悪意と害意の象徴であり、魔獣はその漏れ出しである。なんて言葉もあるさね。魔族が人間を居住区域に近寄らせないために下の方に戦力を固めるのは自然よな」


ちなみにだが、その言葉には続きがある。

──しからば、その悪意と害意を受け止める盾が、そして刺し返す槍が必要である。その盾であり槍たるのが、守護者だ。

という続きがある。これは守護者になる時に叩き込まれる格言であり、これを忘れるものは守護者に非ずと徹底されている。


「おい、ハニナ。奴が見えるか?」

「ゲッ、アイツが来るかね……この階層で一番会いたくない魔獣な」


ハニナが気落ちする。そんな七面倒臭い相手なのか、とアウルも少し興味が突き動かされて、パーティの戦闘に出てみる。そこにはなんとも名状しがたい形状の、化け物としか言えない魔獣が居た。てらてらと光る気味の悪い触手が何本も生えた針山のような生物だった。サイズはかなり大きく、その一本一本の触手が人間1人分と同じくらいの太さと言えば巨大さが分かるだろう。

ふと、ユウセイが隣にきてその魔獣を分析した。


「イソギンチャクか」

「いそぎんちゃくってなんだ?」

「ああいう、触手がいっぱい生えた生き物だよ。俺の故郷だと、海の中に生きるやつだが……」

「めっちゃ陸だな」

「まあ魔獣ですしね、普通の生物と違うのは当たり前でしょう」


そこまで話していて、奴もこちらに気づいたようだ。うねる触手の一本が高速で伸ばされて、こちらを掴もうとしてくる。その触手を炎型刃剣(フランベルジュ)で切り飛ばしながら、イカルは飛び出した。


「くっちゃべってないで、さっさとヤツを倒すぞ!さもないと!」

「さもないと?」


その言葉が繋がり切る前に、イソギンチャクが不自然に蠕動した。

その瞬間、切り飛ばされた触手が再生し、ぬちょぬちょとした粘液を撒き散らしたのだった。

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