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犯人探しの始まり

「う、嘘だろ……」

「明らかに人為的、だな」


アウルがシェイカに言われて気づいたのに遅れて、ユウセイも気づいたようだ。呆然と、その光景に言葉が漏れてしまったのをアウルが拾って結んだ。そしてそのやり取りを聞いたことで、他のみんなも気づいたようだ。


「今までの異変も、仕組まれてたってことかよ」

「やはり、あの転移陣や石のトラップは……」

「これをやった犯人と同一人物だろうな」


イカルは忌々しさから舌打ちを零して、腕を組んだ。その顔はまるで渋柿を5個一気に食ったような歪みで染まっている。

ここは20階層唯一の上につながる通路であるので、ここ以降の階層にいる人間は全員生き埋めになったといっても過言ではない。そこが偶然潰れるということはまさかありえないだろう。つまりは、誰か知性のある敵がこちらをハメるために仕掛けた可能性が状況証拠から考えられるということだ。


「一体誰が……魔族にしたって影も形もないじゃねえか?」

「崩れた瓦礫の感じからして、ついさっき壊されたように見えますね」

「じゃあ、この近くに犯人が潜んでる可能性があるさね」


ハニナがそんな怖いことを言って、ユウセイとエディアが互いに見合っている。と、ここで後ろに音を感じたような気がした。アウルが振り返ると、この部屋の入口に男たちが屯していた。どうやら、こちらの異常を察して立ち止まってしまったらしい。時折こちらを指さして、仲間内でなにか話していた。


「……あれは、誰だ?」

守護者(どうぎょうしゃ)か、魔族(はんにん)のグループか……分からねぇが、下から来たってことは間違いないだろうな」


とりあえずソイツらにも話をしてみよう、という流れになったので全員でゾロゾロと歩いていく。

近づくにつれて、イカルの不機嫌な顔が更に渋さ10倍くらいにまで上がっていった。そして向こうの男集団も顔が見えてくると、苦々しげな顔を呈しているのがわかった。


「ゲ……お前らかよ」

「こんなところで会うなんてな、最悪だぜ」

「知り合いなのか?」


不本意だがな、とイカルは吐き捨てた。どう見ても友人関係という雰囲気では無さそうで、険悪な場が形成されている。


「守護者の方たちですか?」

「違ぇよ、俺たちはそんな崇高なもんじゃない」

「では……」

「傭兵だよ」


傭兵。守護者とも警備騎士とも違うその職業は、この世界にある迷宮要塞(ダンジョン)に潜ることのできる職業のうちの一つだ。一般的に言えば、守護者は国から委託されて迷宮要塞(ダンジョン)に潜って魔族と闘っているが、傭兵は個人や団体に雇われて迷宮要塞(ダンジョン)に潜っているのである。

守護者と違って公的なものではないので、脛に傷を持つものだったり教育を受けられなかった貧しいものが多い。いわば、アングラな職業に近いものである。アングラに近いとは言え、高名な傭兵となると相応の実力を持っていることが多いため、半ば守護者じみた扱いを受けることもある。

話が逸れたが、とにかく守護者とは似て非なるものである。

先頭の男がイカルに近づく。


「それで、あの惨状はなんだ?まさか、お前がやったわけでもあるまい?」

「ふざけんな。ぶっ飛ばされたいならそう言ったほうが早いぜ?」

「冗談に熱くなるんじゃねえ、守護者サマよ」

「……どこまでもムカつく野郎だ」


二人の会話はやはり険悪で、冗談とも本気とも取れないような発言が連発する。聞いている側からすれば旧知であればもう少し仲良くしてもいいだろうにとも思うが、なにか因縁でもあるのだろう。


「それで、質問の答はどこだ?」

「チッ……俺達もわかんねぇよ、気づいたらこうなってたんだ」

「なるほどな。犯人がいる可能性アリ、と」


男はそこまで話して、こちらの存在に気づいたようだ。顔をこちらに向けて、怪訝な顔を浮かべた。


「この子どもらは?」

「カムフトームの後輩たちだ。なんとか、授業の一環だとか」

「引率役ってことだな。一瞬、お前の弟子かと思って焦ったが……」


男は一転柔和な表情を浮かべた。その笑みは粗野ながらも力強さと芯の硬さが伺えて、いかにも闘う男ですというようなオーラを発している。


「俺はクレソン・ミズーリ。こいつとは、過去にとある事件絡みで因縁があるんだ」

「俺達は『エーゲン・ラフト』。カムフトーム一年のパーティだ。よろしく」

「カムフトームの1年ってことは、16歳か。その年で20階層まで到達してんのは、凄いな」

「ありがとう。で、クレソンさんはなぜ下に潜っていたんだ?こんな異変が大量にダンジョンに起こっているというのに」


アウルがそう言うと、男は首を傾げた。


「異変……なんて、あったか?」

「え?」

「別に、普段通りの迷宮要塞(ダンジョン)攻略だったな」

「転移陣とか、通路の途中の罠は?引っかからなかったのか?」

「引っかかるもクソも、そんなもんなかったぞ。うちのパーティの盗賊は、罠を感知する特殊技能(スキル)を持ってるんだが、それには何の反応もなかったからな」

「じゃ、じゃあ、いつ頃潜ったんだ?」


アウルは慌てたように聞く。クレソンは懐から、時間を見ることのできる魔術が刻まれた魔道具を取り出す。


「4、5時間前だな。間違いなく」


4、5時間前であれば、アウルたちが3階層あたりをゆっくりと進んでいた頃である。その間にすれ違ったパーティは記憶にない。

記憶と証言の齟齬に首を捻りながら、情報提供の感謝を告げる。


「礼はいい。それよりも、帰還の手立てを立てる方が先決だ」

「違いない」


苦笑して、ふとイカルがチョイチョイと手招きをしているのが眼に入った。そそくさと近づくと、秘密の話をするように手で口を覆いながら、耳を貸すように言われた。


「奴の言ってること、どう思う?」

「嘘を言っている、というわけではなさそうだが……違和感は拭えないな。記憶違いでなければすれ違ったパーティはゼロだったはずだ、その時間にクレソンたちが降りて来たなら追い抜かれてないとおかしい、はず」

「同意見だ。奴は虚言癖じゃない、それにここで嘘をつく理由がないだろ」


とにかく何かありそうだ、という意見で一致を見せたので、一旦そこで切り上げる。

すると同時に、シェイカとカレハのお腹から元気よく虫が鳴いた。照れるシェイカとカレハに、イカルとハニナは顔を合わせて苦笑しだ。アウルも、そういえばご飯をろくすっぽ摂っていなかった、と思い出す。


「一旦飯にするか。これをやった犯人探しはそれからだな」

「ここは安全なのか?」


先ほどマンティコアがいたのだ、安全と言い切れないのではと不安を口にするアウルに、イカルは不敵な笑みで答えた。


「迎撃罠の魔術陣を敷いてやる。それでいいだろ?」

「なら問題ないな」


問題の棚上げとは分かっているが、空腹の魔力には抗えないアウルなのだった。

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