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撃破、だがその難度は

「ゴアアアアアッ!」

「うるさいから、とっとと鎮めるわよ!」

「引き付けられる可能性もあるさね、道理よな」


二人は互いに笑みを返して、そして1歩、踏み込む。その1歩で、地面を踏み砕きながら距離を一気に詰めた。その速度は角ゴリラが捉え切れる速度では到底なく、ゴリラは眼を見開いたまま硬直した。


「ガッ!?」

「シッッ!」


呼気。それはカレハが吐いたものなのか、ハニナが吐いたものなのかの判別はつかない。だが、そんなものつけなくとも、二人の殴打は本物だ。まるで限界まで引き絞られた弓から矢が放たれるように、二人の拳がほぼ同時に放たれる。直後、耳を聾する轟音。角ゴリラの人間の1.5倍以上はある巨体が、その衝撃によって浮きあげられる。腹はベコンと凹み、角ゴリラは刹那白目を剥いた。


「グアアアアアアアッ!?」

「まだまだ」


冷ややかな言葉とともに、さらにもう一打、もう一打と鉄拳が叩き込まれ続ける。二方向からの絶大な衝撃に、ゴリラの身体は何度も大きく揺さぶられ、その茶色い肌は青あざを通り越してどす黒く染まっている。

拳が頼りなく揺れて、もはや憐れみすら抱いてしまいそうになる。

だが相手は魔獣だ。遠慮も手加減も不要であるので、その連打は死ぬまで途切れることはない。


「ゴォォォアアアアアアッ!!」

「最後の抵抗にしては、かなりか細いわね!」


ゴリラがどうにかその自慢の拳を横から叩きつけようとするが、そんなものに当たるはずもない。上に軽やかに飛び上がって避けて、そのまま回し蹴りを決める。転瞬、ドォン!!と、遠雷のような音が鳴り響く。それは浮き上がった身体を落とし、地面に強打させた音だ。ゴリラはその一撃が致命傷になったようで、ピクリとも動かない。


「ふぅ……」

「安心するのはまだ早い、もう一体来るぞ!」

「ッ!?」


ズズン、とまた床が振動する。今しがたその元凶たる角ゴリラの魔獣を倒したのだ。つまり、更に追加で魔獣がやってきているということ。しかも、先程の角ゴリラの振動とは音が、衝撃が、そして数が違う。それは…………。


「「「ガアアアアアアアアアッッ!!」」」


様々な魔獣の群体が、左手側からドバドバと、堰き止められた水の側面の一点に穴を開けたときのように溢れ出る。数えることが馬鹿らしくなる数の魔獣は血走った眼でこちらを補足すると、一斉に襲いかかる。大小さまざまな魔獣が迫るその様は、まるで壁が物理的に動いて迫ってくるかのようだ。


「各自、対応!死ぬんじゃねえぞ!」


全員の眼が据わり、戦闘態勢に移行する。シェイカを背中に隠して、アウルも魔眼布の結びをはらりとほどいて、眼力を使う準備をした。

そこから始まるのは、殲滅戦だ。上から飛びかかってくる鳥のような魔獣にナイフを突き立てて、這ってくる蛇の魔獣を蹴飛ばす。猿のように二足歩行をする魔獣に願力を当てて落とし、また鳥をナイフで切り裂く。

後ろに守るべきものがいるからこそ、絶対に通させないという意志の力が無限に湧き続ける。

数が多いので見る余裕はないが、隣からも途切れることのない戦闘音が聞こえてくる。アイツらが死ぬなんてありえない、と余裕を決め込みつつ、自分もうまく立ち回っていく。

走ってくるサイの魔獣は他の魔獣の方向に誘導して、カメレオンの魔獣の伸ばされた舌をナイフで切り落とす。

ウィーナに作ってもらって正解だったな、と口許に苦笑が浮かぶが、手は、足は止まらない。


「はあああああああッ!」


巨大な蝶の魔獣を横一文字に切りつけて、一息つく。視れば、流石に魔獣たちも警戒をし始めたのか、ある程度の距離を保ち始めていた。人垣ならぬ魔獣垣を作り出している。カレハやハニナ、イカルの周りには死体が折り重なっていて、相当の数撃破したということが伺えた。


「クソ、一体一体対処していくとキリがねぇ……」

「なにか一気に焼き払うことのできる魔術とかないのか?それか吸血種の技とか」

「あるにはあるが、時間がかかる。それなりの詠唱と、魔術陣が必要だ」


本当なら、アウルも【魔眼(エーゲン)絶明(ウェイズ)瞬閃光(サーシェマター)】を使えれば良かったのだが、使えない理由がある。その理由とは、ここが迷宮要塞(ダンジョン)だから、という一言に尽きる。迷宮要塞(ダンジョン)は、闘いは常に連戦で何が起こるかわからない。そんな状況下で、かの魔法の副作用である魔力の枯渇と視界の断絶は、致命的と言っても過言ではない。

それに、行うためにはユウセイの魔力まで食ってしまう。だからこそ、使えないということだ。


「時間を稼げば、いいってことか?」

「ああ。3分、稼げるか?」

「正直、あの量をさばき切れる自身がないが……必要なら、やってやるぜ」

「ハッ、無理して逃げるんじゃねぇぞ?」


彼の声を背中で受けつつ、アウルはそのままジリジリと前進する。魔獣たちも距離を詰められることを嫌ったのか同じくらいの速度で後退していて、まさに一触即発。だが、アウルの警戒虚しく静寂を破ったのは、味方のカレハだった。カレハはメリケンサックを装備した拳を振り上げて、そのまま地面に勢いよく叩きつけた。直後訪れる、地震と紛うほどの振動に、魔獣は思わずよろめく。その隙を見逃すほど、エーゲン・ラフトは甘くない。カレハとユウセイの前衛は疾風怒濤に攻めかけていく。拳が当たる範囲であれば、一騎当千なのだから。また高速で飛んでくる白と灰色は、エディアの魔法に決まっている。それらも一発の大きさが大きく、多数を巻き込んで飛んでいくようにしている。魔獣の壁はもう崩れて、イカルに向かうものは殆どいない。アウルたちが全ての狙い(ヘイト)を集めているのだ。


「よし、魔術陣はこれでOKだな………………【呼び給え、自然の化身たる災禍を】」


背後から、厳粛な詠唱を紡ぐ低い声が聞こえてくる。その声に笑みを深めつつ、また一体、魔獣を眼力で落とす。


「【其は風、嵐、颶。求むは我が敵を巻き込む、凪を薙ぎ霧を斬り裂け】!」


魔獣たちも、自然魔力の不自然さから何かがあると察したのだろう。一斉にイカルの方を振り向いて、襲い掛かろうとする。しかし、そんな突撃よりも速く、イカルの詠唱が終わる。


「【颶風よ、暴れ猛ろトルネード・スラッシャー】!」


イカルの体内魔力が、自然魔力に伝播する。巻き起こるのは、暴風というのも生ぬるい、疾風だ。生まれた超速の気流は即座に駆け抜けて、魔獣たちを吹き飛ばし、切り裂き、互いにぶつけあわせる。凄まじい豪風が、魔獣の群れを一度に壊滅させる。

放ったイカルは肩で息をしながら、すぐさま怒鳴る。


「今のうちに立て直すぞ、着いてこい!!」


了解の声は上げなくとも、全員が聞こえている。未だふらついている魔獣どもを尻目に、魔獣が迫らなかった右手方向に逃げていくのだった。

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