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またしても

「カレハ、元気になったな」


カレハが勢いよく飛び出して、魔獣に立ち向かっていく。その光景を後ろで見ながら、アウルはしみじみと呟いた。その言葉が聞こえてきたのか、そばで立っているシェイカがアウルの方を向いた。


「?どういうこと?」

「さっきまでアイツ、見るからに元気がなかったんだよ。それが、キミと出会って急に元気になったから」

「……わたし、ちょっとわかる。おねえさん、にてる」

「似てる?」

「うん」

「だから、共感できて元気になったってことか?」

「そうかも」


迷いなく頷く彼女に、アウルは思考に耽る。シェイカの言葉は何故か説得力を帯びていた。だがその思考を遮ったのは、皮肉にもカレハが魔獣を蹴飛ばす轟音だった。視れば、少し鈍りがあるものの、普段と何ら遜色ないカレハの機敏な動きが、ヤギの身体に甲羅が乗っている姿をしている魔獣を翻弄している。


「はあああああッ!」

「カレハさん、援護しますよ!【精土弾(クゲル・ボーデン)】!」

「メェェェェッ!!」


魔力によって土の弾丸が装填、速射される。カレハは後ろを振り返ることなく感謝の叫びを返して、更に突撃していく。ヤギは威嚇するかのように嘶くと、その両角から高速で液体を射出した。角から出ているので、狙いがつけにくいのだろう。カレハが避けていくことで地面にバシャバシャと叩きつけられるそれは無色透明で、水のようだった。


「亀の部分に引っ張られてんな」

「狙いも正確じゃないわね、本当に殺しにかかっているのかしら?」


そう疑問を漏らしながらも、攻撃する手は緩めることはない。ヤギの頭に裏拳を叩き込んで、追撃に蹴りをもう一発。泣きっ面に蜂よりもひどく、さらに石の霰が身を削る。ヤギはなけなしの水を使った砲撃をするも、当たらない。カレハは拳を握り込んで、構える。当然メリケンサックを装備して、決めにかかる心づもりだろう。


「これで終わりよ!」

「メエエエエッ!?」


ッダン!!という凄まじい音が、いや衝撃が、快哉の声とともにヤギの身体を貫いた。そのまま断末魔を上げて、物言わぬ体となった。

その威力を視れば分かる。完全ではないものの、カレハの調子は明らかに戻っている。シェイカと出会ったから、なのだろうか。真相はわからないが、とりあえずは一安心だろう。気を揉んでいたカレハの問題に一区切りがついたことに、一つ息を落とす。

ユウセイもやはり同じように思ったのか、カレハに後ろから近づいた。


「カレハ、調子戻ったのか?」

「ええ。なんか、あの子と話したら自然と肩の力が抜けたのよね」

「子どもの無邪気さに触発されて、ってとこか?」

「わからないけど、ユウセイが言うのならそうなのかしら?」

「ただの推測なんだがな……」


そうこう話しているうちに、イカルたちも素材の回収が終わったようだ。こちらに近づいて、渋面の顔を見せてきた。


「どうしたんだ、イカル?」

「お前ら、ソイツの扱いは決まったのか?」


イカルの指摘に、アウルたちは思い出す。そうだ。シェイカの処遇を考えている時に、タイミングよく魔獣が現れたのだ。


「あ」

「さっきみたいに避難させるのはいいが、いつどこから襲われるのかわからないのが迷宮要塞(ダンジョン)だ」

「逃がす暇もない、なんてことが起こり得るってことか」

「ああ。そんなことになったら俺も寝覚めが悪い。()に持っていくのが安牌だろうな」


イカルはそう自分の所感を纏めた。アウルも正直同意見だ。シェイカ本人が、強い意志と覚悟を持ってついていくと言わない限りは絶対に上に送ってやろうと思っている。

イカルの言葉を聞いたシェイカは、首を横に振った。


「いやだ。わたし、いく」

「はぁ?危ないんだぞ?」

「それでも、いく」

「もしかして、私達に守ってもらえると思っているのさ?それならちょっと考えを改めてほしいのさ。私達はできる限り助けるけど、あくまで“守護者”。誰を守護するって、人類の全体を守護するのさ」


ハニナが、その言葉に含んでいるのは、「切り捨てられる覚悟の如何」である。つまるところ、人類を多く救うためにシェイカを切り捨てなければならない時に、切り捨てられる覚悟があるか、ということだ。

だが、シェイカはそんな手厳しい言葉すらも飲み込んで、眦を決して頷いた。


「わたしは、おとうさんがしたにいるきがする。だから、ついていく」

「それに確証は?道のりは絶対に危険だぞ?」

「ない。でも、ぜったいうえにはいない、はず」

「その口ぶり……もしかしてお前の父親は、守護者(どうぎょうしゃ)か?」


シェイカは首を曖昧に振った。わからないということだろう。だが、それでも覚悟の決まった瞳は揺るがない。


「はぁ……好きにしろ」

「私達もできるだけシェイカちゃんを守ってあげるけど、その時が来たら、さ」


アウルはこっそりとシェイカに耳打ちする。


「二人はああ言ってるけど、本当はみんなキミを守りたいと思ってるんだ」

「……ありがとう」

「お礼なんていらないさ。俺達はそういう人を助ける職業……になりたい人たちだからな」

「なってないのね……」


最後に付け足した冗談に、彼女はくすっと、相好を崩した。年齢相応の、あどけなくて無垢な笑みだった。


「ふん、話がまとまったのならどんどん行くぞ。そこのお前も復活したみたいだしな」

「……悪かったわ。ペースを鈍らせてしまって」

迷宮要塞(ダンジョン)内なら反省より改善のほうが先だ。これから役に立てよ、ひよっ子」

「度肝を抜かせてやるわ」


カレハもハニナも、ふたりとも頼もしい背中を見せながら進んでいく。前衛が二人になったことで、近づいていくる魔獣を文字通りに物理的に吹き飛ばしていける。時々後ろから石の弾丸やら光の玉やら鋭い風やらが飛翔して、前を遮る魔獣を打ち倒す。


「一気に速度が上がったな!これならすぐに着きそうだ!」


ユウセイが叫んだその言葉通り、数分もしないうちに5階層の下へ続く道にたどり着いた。

先程のように守る番人もいない、楽勝に下へ行けそうだ。そうやって希望を膨らませながら、下り坂を走り抜ける。

()()()()()()()()()()()()()()


「なっ!?」

「また罠!?」


白く染まっていく視界に、アウルは嫌な予感をひしひしと感じている。そんな予感を丸ごと、魔力の事象改変が包みこんでいく。

光が消えたあとに、アウルたち一行の姿は、まるで最初から存在していなかったかのように消えていたのだった。

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