表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/191

下へ、だが

最初のトカゲを皮切りに、ポツポツと魔獣が少しずつ襲来した。

1階層では全く出会うことはなかった魔獣が、2階層では出てきている。アウルの思考は考えすぎだとしても、仕組まれているようにも考えられるものだ。


「フッ……流石にこれで終わりか」


【情報付与】済の十手で、近づいていた顔くらいの大きさのネズミの魔獣を斬り飛ばして、ユウセイが一息つく。〈ヴータリティット〉にはなかった死体の処理と素材の剥ぎ取りという工程が、余計に疲労をためる原因になっている。戦い自体は〈ヴータリティット〉と全く同じである──姿や能力は多少違うが──ので、楽ではある。


「もうちょっと進めば3階層だ、そこに入ったら休憩とするか」

「食べ物もあるさよ」

「頑張りますかぁ」


イカルを旗持ちとして『エーゲン・ラフト』は更にずんずんと進んでいく。何処を視ても似たような石造りの迷宮は、進んでいくと方向感覚を失ってしまいそうになる。ここいらは魔族の居住区域である地下国よりも最も離れている場所である。そんな場所を飾り立てる理由などないだろう。

イカルはひょいひょいと十字路や曲がり道を進んでいき、やがて一本道につながる角にたどり着く。


「おっと、ここにも……下への番人、的な感じか?」

「……………この配置なら」

「どうした、目隠しのひよっ子。なにか作戦でも?」

「ああ、今までは一直線なんて道で闘うことはなかったからできなかったが……試してもいいか?」

「ああ、アイツならそこまで強くはない。全然いいぞ」


アウルはゆっくり角から顔を出して、魔獣の姿を確認する。長く伸びた足が6本、大きく後ろに突き出た腹に複眼。蜘蛛の形をとっているが、その大きさが規格外だ。遠くからの目測なのであまり信用するわけにも行かないが、最低でもアウルの腰ほどの大きさがある。能力も容易に想像できるし、一本道で相手するには多少の苦戦がありそうな相手だが、それこそ不足なしというものである。


「はあああッ!」


気合を入れて叫びながら、一気呵成に距離を詰める。突然眼の前に躍り出た人間にその蜘蛛は面食らったようだが、すぐさま戦闘態勢に入ってきた。腹と思しき部分を海老反りの容量で前に突き出してきたのを視界に捉えた瞬間、魔眼布を下ろす。あらわになった魔眼で蜘蛛を睨みつけた。

不自然に蠕動して、蜘蛛は動きの一切を止めた。


「────」

「ふう、魔獣にも有効だな。一本道なら回り込まれることもなかったし、作戦勝ちだ」


アウルはそのまま軽く押して、動かなくなった蜘蛛の身体を倒す。眼力で意識を刈り飛ばしているが、いつ起きるのかわかったものではない。とっとと捌いて、トドメも兼ねるべきだと判断したからだ。幸いにも、無抵抗にアウルのナイフは突き刺さってくれた。


「さばき方、知ってたのか?」

「いや?授業で軽く触れてたな、程度だぞ」

「じゃあどうやって……」

「え、視て覚えた」

「それ、地味にイカれてるからな。何つー能力だよ……」


ユウセイは呆れたように嘆息しているが、アウルからしてみればユウセイの魔法の方がイカれている。汎用性が強すぎるであろうよ。

無事に門番的な魔獣を打倒し、3階層へと続く下り道を開放できた。だが、未だに様子がおかしいのがカレハだ。ずっと黙りこくっていて、流石に様子がおかしいと誰でも分かるくらいだ。


「カレハさん?」

「っ、なんでもないわ」

「集中したほうがいいですよ……?」

「わかってる、わかってるわ」


ならいいんですけど、とエディアは心配げに見上げる。カレハは頭を振って、イカルについていくが、何処かその足取りもおぼつかないように見えた。

イカルは何も気にせず進んで、坂を下っていく。その道中だった。

カチリ、となにかスイッチの入るような音が響く。それは、地面から鳴った音らしかった。


「?」

「3層に、罠があるだと……!?」


エーゲン・ラフトの面々は不思議そうに首を傾げるが、イカルとハニナは違った。その顔を驚きに染めて、動きが固まってしまった。

ドスン!という何かが落ちる鈍い音。前の光景は全く変わっていない。つまり。

後ろを恐る恐る確認すると、どでかい岩が、こちらに転がってきている!


「に、逃げろッッ!!」

「言われなくともォー!?」

「逃げてますよ!!」


全員が、弾かれたように走り出す。あんなのに巻き込まれたら、人間などぺしゃんこだろう。しかもここは下り坂。位置エネルギーと運動エネルギーの合せ技によって、文字通りの破壊的な威力になっていること間違いないだろう。


「出口を出たらすぐに曲がるぞ!」

「了解!」


もう少しで出口というところで、アウルは気付く。自分の速度が、遅くなっているということに。


(や、っば……運動不足が裏目に出たか……!)


チラと横を見たら、エディアが青い顔をしながら必死に走っていた。多分自分も同じような顔を浮かべているのだろう、と呑気に考える余裕は少しだけあるが、それでももう少し速度を緩めたら巻き込まれてしまう。どうするか、と考えていると、ハニナが少し速度を緩めてきた。


「ちょっと失礼するさ」

「な、何をするん……だ……?」


ハニナはエディアをガシッと掴んで、小脇に抱える。速度を全く落とすことなく、だ。抱えられたエディアは、呑気に一息ついているが、アウルは驚きの感情しかない。エディアと同じくらい、もしくはほんの少し大きいくらいの背丈の彼女がエディアを軽々と持ち上げていることは、驚嘆に値するだろう。


「その身体能力……スキル?」

「あはは、まぁそんな感じさ。アウルくん、捕まって」

「は?」

「ついでに引きずっちゃうよ」


もう何も言えなかった。この人も、カレハと同じ類の前衛(化け物アタッカー)であるということだろう。言われるままに伸ばされた手を掴むと、やはり強い力で引っ張られた。

そのまま坂下まで降りて、角度をつけて曲がる。転がる岩は曲がることなどできるはずもなく、壁に激突して粉砕された。


「はぁ……はぁ……力、強いんですね」

「実は私も前衛なのさ。というか、前衛もできる中衛なのがイカルなんだけどさ」

「そうだったんですね…、ふぅ……」


息も絶え絶えになってはいるが、全員に怪我一つない。イカルは不機嫌そうに腕を組んで、何かを思案している。


「どうしたんだ、イカル?」

「いや、踏んだ時にも言ったが……3階層のこんなところに、罠があった記憶がねぇんだわ」

「思い違いとかは?」

「あるわけねぇだろ、ほぼ毎日通ってたんだぞ」


イカル曰く、罠というのは迷宮要塞(ダンジョン)内ではありふれたものらしい。しかしこんな上層に、殺意が高すぎるトラップは普通作られるものじゃない。そもそも、こんなところにあるなら誰かが踏み抜いていて不発になる可能性が高い、らしい。


「罠っていうのは魔族が設置しているんだろ?」

「そうだな。だから下層の方は常に新しいトラップができては使われを繰り返してるんだ」

「じゃあ、こんな上層まで魔族がいたってことか……?」

「可能性はあるな、クソ」


イカルはそう吐き捨てて、前に進み始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ