“星断ち”
「先客おるかぁ……」
ザッ、と13階層の石畳を踏む音が響く。髪を無造作に後ろで結んだ、ガサツな風貌の男だ。
何が面白いのかわからないが、彼はニヤリとした笑みを浮かべる。
「あの子達やんけ。なんやおもろい相手と闘ってんな……」
男の腰には、二本の鞘。だが、奇妙なのは、その二つの剣の形状が大きく異なるということだ。一本は、両刃のロングソードとショートソードの中間位の長さの剣、いわゆる「混血の剣」の鞘だ。そしてもう一本は、特徴的に反り上がった片刃の長剣、有り体に言えば、極東に伝わる「カタナ」の鞘、である。
「付き合ってあげてもいいが……儂が出しゃばったら楽しくないやろな」
彼の瞳には、何が見えているのか。それは、アウルたちエーゲン・ラフトの面々と男子生徒が、異形の化け物と戦っている光景だ。その手前には、ゴーレム型〈ヴータリティット〉の大群の姿も見える。男の眼は魔力の輝きを纏っていて、魔法による遠見をしているのが明らかだ。
男はその腰からカタナ……愛刀"アカツキ"を抜き放つ。
「ま、露払いくらいはええやろ。決闘に集中したいやろうしなぁ」
ぬらりと輝く刃文が美しいその刀を、構える。はたから見れば、何をやっているのか意味不明であろう。なぜなら男の前には、なにもない空間しかない。空振るにしたって、相手がいなければただの素振りである。
だが、男の眼は真剣そのもの。文字通りの、研ぎ澄まされた刃のような輝きを持っている。
「『星斬り』」
薄く、かすかにそう呟くと同時。なにもない筈の空間を、袈裟斬りにする。
──────────────そして、入口に屯している〈ヴータリティット〉どもが、一様に身体を引き裂かれたのだった。
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この学院……カムフトーム魔塔学院は、トーム・ポイントという重要なファクターがある。ポイントが多ければ多いほど、その人の強さがわかるということだ。
つまり、第一位に次ぐ、第二位は比肩する者なき実力である、ということだ。
過去に、無謀にも学院ランキング第2位に挑んだ愚者たちは、こう語る。
曰く、「ただ立っているだけで斬られていた」
曰く、「姿や気配はおろか、声すらも聞こえない状態で負けた」
曰く、「本気で怒った彼は、階層全ての〈ヴータリティット〉を一閃で屠った」
曰く、「第1位に勝るとも劣らない化け物」
実際、彼のスキルも魔法も、周知されているのだ。だがそれでも2位に立ち続けている。それは、対策が不可能である証左。それは、知られようとも構わないという余裕の表れ。
また彼は、チカラに頼らなくとも、剣術だけでも最高峰だ。彼は数々の剣術指南院に入っては、異端の烙印を押されてそこを潰すことを何度も繰り返している。
彼の剣は、能力と技量、どちらの本気をも出せば空に瞬く星を斬つことすらできる。
ついた名は、『"学院の十傑"の剣聖』。
そして、────────────────────『"星断ち"』。
化け物たちの巣窟において、全生徒5万人近くの二番手に構えるその男こそ、フィズ・ガンジス。正真正銘の、最強の剣使いである。
そんな彼の持つ権能は、シンプルなものだ。
彼の振るう剣は、距離も、硬度も、大きさも、全て見境なく斬り飛ばせる。それだけだ。
そしてそれを成しているのが、彼の魔法とスキルの合せ技である。
彼のスキル、それは視界の空間を二次元的の層的に捉えることができるというチカラ。
彼の魔法、それは二次元上の空間に干渉することで、三次元に影響を与えるというチカラ。
それら2つが合わさると、どうなるか。
眼の前に広がり続ける空間を、ちょうど金太郎飴を切ってその断面を見るかのように捉える。そしてそこを剣で斬ることで、遠く離れたところから攻撃を加えられるということだ。理屈っぽく言うのであれば、Z軸を無視して斬り伏せられるということ。
それがなぜ硬度も、大きさも無視して切れるのかと言えば、あくまで切っているのは二次元空間だからというほかない。
二次元空間であるので、物体に硬度もあるはずがないし遠くに離れていれば遠近法で小さくなるだろう。
そういう理由で、フィズ・ガンジスに距離を置いていようとも、絶対安全とはならないのだ。
「……彼は、一対一の戦闘に置いては私を倒しうるやもしれん」
世界最強の守護者たる、キーカ・エニセイも彼をそう評しているのだった。
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彼は抜き放っているカタナ……“アカツキ”を鞘にしまう。
「後輩ちゃんたち……頑張りぃや」
彼はほくそ笑む。後輩たちの成長に。




