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相対す異形と男

皆が起き上がったあと、口を開く。


「ユウセイ、カレハとゴドウィンにかけられるだけの支援魔法(バフ)をかけてくれ」

「了解、短期決戦と洒落込むつもりだな?」

「まあな。〈ヴータリティット〉と融合するなんて普通じゃないことをやってるんだ……体力はこちらを大幅に上回っているとみて間違いないと思う」

「私はどうしますか?」

「エディアは、奴の武器を削いで欲しい」


エディアは武器?と純真無垢な顔で聞き返す。童顔の彼女がやると、とても似合っている。

アウルはひとつ頷いて、肯定する。


「奴は骨や肉を武器にするのはわかってるんだ、それを、光で焦がせるか?」

「光で焦がす……なるほど、わかりました。光属性の魔法は細かい調整をしにくいんですけど、頑張ってみますか」


エディアは腕にかかったローブを捲って、細い腕を見せる。微笑ましい彼女に笑みを深めた後、アウルは正面の、異形の蛇人(マルル)を見据えた。


「さて、お前が本気を出したのなら……こっちも出し惜しみはしない。本気で闘わせてもらう」

「それが?」


冷ややかな声だった。もはやそんなことを議論する意味もないと、にべもない声色だった。つまり、本気を出さないとついていけるわけがない、と言外に言っているのだ。


「上々、俺の眼力で沈んでくれるなよ?」

「ご期待に添えると思うわよ、なぜなら万が一ゴドウィンに倒されるまで私は倒れないからね」

「ハッ、違いない!」


アウルとマルルの啖呵が交わされて、それが開戦の合図となる。カレハとゴドウィンが弾かれたように走り出す。マルルは腕の骨をズルリと取り出すと、それに肉をつけていく。長い骨の先に円錐状に変えられた肉が取り付けられた。それは、歪な短槍だった。


「【情報付与】対象:カレハ・ライン 効果:脚力増強、反射神経鋭敏化!」

「はあああああッ!!」


ユウセイの支援魔法(バフ)を受けてすぐさま、カレハが飛び上がる。それは、鎌首をもたげるような姿勢である蛇の下半身よりも、マルル本体……というよりかは元のマルルの身体にダメージを与えていったほうが良いのではないか、という思考からだ。更に飛び上がったカレハに後光が差すかのように、数多の光弾が姿を見せた。

移動方向を定め、後ろから居場所を教えるかのように風切り音を鳴らしつつ飛んできた石を蹴る。砲弾として、射出されたカレハの、蹴たぐり。正確無比に胸を捉えんとしていたその攻撃は、彼の手が伸びてきたことで止められた。ガクリと、上下逆さまになるように、吊るされてしまった。

いや、よく視てみると、違う。伸びたのは、彼の手ではない。

彼の掌に生える(・・・・・・・)ぬらりと輝く(・・・・・・)赤く細い舌だった(・・・・・・・・)


「ッッ!?」

「何なら、こういう事もできるのよ?」


口ではないところに唾液で濡れる舌が生えている、というあまりにもおぞましく冒涜的なソレにカレハですら絶句する。その輝きはカレハの形の良い脚を絡め取っていて、振りほどこうにも解けない。

マルルは舌を生やしている左手とは逆の、右手を前に出す。そこに魔力が集まると、ニョキリと、何かが生えてきた。ギザギザとしているソレは、見間違いがなければ、手にあるはずのないもの────────毒液を滴らせる、鋭い牙だった。


「一体それをどうするつもり……!」

「もちろん、貴女に突き刺すのよ」

「くッ!?」

「させません!【精光弾(クゲル・リヒト)】!」


エディアが叫ぶ。その魔法名と同時に、光の玉が奔った。避けることが難しいその白い弾丸は、牙の生えたというあり得ない形容詞のつくような右手を弾き飛ばす。更にその光弾は熱を放射している。毒は焦がされて無力化された。

更に駆け抜ける影が一つある。


「────おいおい、いたいけな女の子にそんなものを見せるんじゃねえよ、姉貴!」


ゴドウィンが、迫る。その両の手には、キラリと輝く獲物(モノ)。氷でできた、対なる短剣、双剣だ。ゴドウィンがマルルに肉薄するその速度は、先程までの速度とは比にならないほど疾い。それはなぜかと言えば、ゴドウィンの足と足元を見ればわかる。ゴドウィンが通ったあとは、まるで御神渡りのごとく、氷が道のように伸びているのだ。そこからわかるのは、無論一つ。


「ゴドウィン……足元を凍らせて滑ってきたのね!!」

「そうさご明察!」


ゴドウィンが叫びながら、魔力を練る。それを阻害するかのように、マルルは高速で尾をしならせた。ビュッという凄まじい音とともに、ゴドウィンの身体を吹き飛ばさんと横合いからとんでもない質量の尻尾が迫る。だが、その一撃を見越していたのか、ゴドウィンの顔に焦燥はない。もうあたるまで数センチと迫ったところで、突如ゴドウィンの身体が持ち上がる。今まで足元を薄く凍らせていたのを、その高度を跳ね上げたのだ。


「よっと」


さらに、その高度を上げたことは回避だけではない。未だに宙吊りになっているカレハを助けるために、氷の短剣を逆手に握って振り抜く。釣っている舌を一刀両断し、カレハが無抵抗に墜ちていく。


「ありがとう、ゴドウィン!」

「さあ、ゴドウィン。来なさい」

「言われなくとも!」


ゴドウィンの氷剣と、マルルの肉槍が唸りを上げる。突き出される短槍を肘をうまく使って受け流す。地面を蹴飛ばして加速、そのまま剣を振り抜いて肌をピッと薄く切り裂く。背中を叩く尾の衝撃に眼を開きながら、左手で剣を背中で降ることで追い払う。

拮抗した闘いを演じていられるのは、互いに攻撃のクセを知り合っているから。

遠慮なく切り結べるのは、もはや感情しかないから。

高速で移動しながら大量の手数で切りつけていくゴドウィンに対し、がっしりとその異形の身体を構えて泰然とするマルル。それは、巨大な壁に何度も鎚を打ち付けて傷をつけていくようなことだ。すなわち、体力と時間を消費してしまうということ。ゴドウィン自身、あまり良くないとは思いつつも、剣で舞うほかない。それが決められた運命のごとく。


「フッッ!」

「ハアッッ!」


飛んでくる尾の薙ぎ払いは紙一重で避けて、お返しに下半身を……文字通りの蛇腹部分を撫で斬りにする。腹部から鮮血が飛び出たのを確認し、心のなかで攻撃がしっかりと効いていることに安堵する。だが、その安堵は早すぎた。頭上から高速で投げられた短槍に気づいたその瞬間、避けようとした肩に鈍い痛みが走った。つい横を見てしまうと、魔力で伸びた左手を手刀にして、肩口に叩き込まれていた。さらに、振ってくる肉の短槍を弾こうとするも浅く腕に突き刺さる。


「痛ッ」

「ゴドウィン、支援するわ!」


カレハが叫び、何かを投げつける。それは、岩を削り出したような礫だ。そこいらの砕けた石畳の瓦礫を使ったのだろう。少しでも視界を奪えばいいという投石だが、投げているのはカレハ。それだけで洒落にならないまでの威力を誇ってしまう。

そしてそれこそさらにブラフ。本命の支援はカレハではない。


「──────【情報付与】対象:ゴドウィン・コロラド 効果:脚力増強、魔力量増加」


ユウセイだ。カレハの弾幕に乗じて、マルルとゴドウィンの二人に近づいていたのだ。肩に手を置いて、祝詞を寿ぐ。それこそ、ゴドウィンが今のマルル(ばけもの)に追いつくための最後のピース。

ゴドウィンは不敵に笑む。因縁に決着をつけるために。

マルルは狂気に笑む。愛を確かめるために。


誰もが、あともう少しで終わると確信したのだった。

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